ミミック転生  ~『比類なき同族殺し』の汚名を晴らす方法~

チョーカー

「両方、じゃダメですか?」

 触手に触れられたルナティックさんは「ひゃッ!」と可愛らしい悲鳴を上げる。
 続けてまるで、雷撃系の魔法を受けたかのように体がビクンビクンと跳ねた。
 そして―――
 ルナティックさんは、全身の力は抜けたのだろうだ。
 その場に座り込み、両手両足を放り出した。
 恍惚とした表情。 双眸からは色が抜け落ちて、代わりに潤いが増している。
 もしかしたら涙が溜まっているのかもしれない。

 「…あっ……待って…それは……んっん…あっ、はぁ…はぁ…」

 激しく喘ぐような呼吸は、やがて大人しく。
 だらしくなく開いた口からは涎らしく滴が流れている。
 興奮状態の余波なのか?全身からは白い湯気が薄らと昇っているが見える。
 俺は触手を体内に収納していく。ルナティックさんは名残惜しそうにそれを眺めながら……

 「……あっ…あんな雄々しい触手が……私の体に…」

 ルナティックさんは言った。
 そして、直後に妖艶な笑みを浮かべたかと思うと、そのまま気を失ってしまった。

 その様子を見た俺は―――

 (おかしい。俺の触手には、そんな効果はないはずなんだが……)

 俺が使用した毒は、対処を極度にリラックス状態に追いやるだけ。
 ここまで過剰な反応はない……はず。 まして、対象に意識を失わせることもない。
 ……これは、一体? 疑問が湧き出てくる。
 魔物モンスターに転生して、人間的な感情のズレを感じる事は多々ある。
 しかし、先ほどのルナティックさんの様子を見た俺の感想は―――

 すっげぇ、エロッッッ!?

 と言うものだった。
 そうなると、新たな疑問が生まれる。それは―――

 俺以外の人間がこの状況を客観的に見てもエロいのか?

 俺はマリアの様子は盗み見る。
 マリアは―――
 なぜか人差し指の先端を口で甘噛みするよな動作。
 そして右、左と身を捻じっている。

 「こ、これは……エロイ!」

 思わず、声が漏れた。
 その声がマリアの耳にも届いたのだろう。
 ハッ!と正気を取り戻した顔は、驚きの表情。それが徐々に恥じらいの色に染まっていく。
 マリアはそれを誤魔化すように―――

 「ミッくんのエッチ!?」

 と叫ばれた。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「そうですか。理由はわかりました。『転生者』の魔物ですか……ギルドとしては複数の職業に就く事は推奨しませんが、今回の場合ケースは特例をして正式に認めましょう」

 ルナティックさんは、初対面での気怠そうな態度は消えていた。
 真面目なギルド職員像、そのものだ。
 しかし、顔は伏せた状態で俺もマリアの顔を見ようとしない。
 そして、それはマリアも同じ体勢だった。
 そんな誰も誰の顔を見ようともしない奇妙な状況で淡々と『猛獣使い』の申請は進んでいく。
 俺も正式にテイミング済みの魔物として認定される。そう思っていた。

 「しかし……ミミックさん」
 「はい」

 頭ではわかっていても、魔物が喋るという状況に慣れていないのだろう。
 俺の返事にルナティックさんは、驚いて顔を上げる。
 それから、俺と目が合うと慌てて顔を伏せ直した。

 「え、えっと……ですね。『転生者』が魔物モンスターに転生する前例はいくつかあります。ミミックさんも転生者特例としてギルドに『転生冒険者』登録する事が可能ですが?どうなさいますか?」
 「転生者冒険者?それに登録するとどうなるんですか?」
 「一番の特典は、基本的人権ですね」
 「……人権?」
 「はい、この町の住民権、保険の適応。人間の異性との婚姻、配偶者への遺産分配……正直に申しますと、ギルドといたしましては、マリアさんが『猛獣使い』の職業を会得するよりは、こちらの方が良いのですが……」
 「……デメリットは?」
 「もちろん、お金ですかね。月の収入の3割をギルドに納める事になります……ただ、福利厚生は徹底していますので、老後の事を考えますと、こちらの方が……」

 「う~ん」と俺は悩む。
 スキル『異世界の知識』も、『転生冒険者』を推奨している。
 すると……

 「両方、じゃダメですか?」

 マリアがそう言った。
 

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