ミミック転生  ~『比類なき同族殺し』の汚名を晴らす方法~

チョーカー

ギルド内部

 
 「こんにちわ!」

 たったったっ……と軽快なリズムを刻みながら、マリアはすれ違う人達に挨拶を交わしている。

 「こんにちわ、マリアちゃん。今日も元気だね」
 「マリアちゃん、あとで寄っておいで、良い食材が手に入ったんだ」
 「あっ!マリアお姉ちゃんだ。また遊んでよ」

 マリアの挨拶に明るく返事を返す人々。
 そんな様子に「あれ?」と俺は疑問を抱く。

 「なーなー」
 「何?ミッくん」
 「マリアって教会から脱走して隠れ住んでるじゃないの?」
 「えー 別に隠れてないよ。教会だって、逃げ出した人を追っかけてくるほど暇じゃないみたいだし」
 「そんなものなのか?」
 「そんなものなのです、世の中、以外とドライなのです」

 マリアはいつもの通り前向きで、過去を振り返らないと言った感じだったが……
 俺は「……」と一抹の不安を感じた。 

 「ミッくん、到着したよ。もう少しだけ隠れててね」

 事前に相談した結果、ギルドでテイミング済みの魔物と登録が終わるまで、隠れておく事になった。
 他の猛獣使いはどうしているんだろ? そんな疑問も頭を過ぎるが……
 俺は擬態を継続する。今の俺は、ただの宝箱だ。
 宝箱を背負って走る女の子の図は、シュールな感じがあるが、道中で誰も気にした様子はなかった。
 もしかしたら、町の人々にマリアの奇行が認知されているのでは……と少し不安になる。
 さてはともあれ、俺は目的地の建物を見上げた。

 (ここがギルド……か)

 少し不安になる。
 ここは冒険者の巣窟。魔物モンスターである俺に取って、敵地そのものだ。

 「―――ッッッ!?」

 静寂。

 さっきまで、外まで内部の騒音が漏れていたはずなのに―――
 ギルドの建物内に足を踏み入れると同時に、ピリッと皮膚が焼けるような空気を感じる。
 ギルドには数十人の冒険者がいた。その全てがマリアに向けて鋭い視線を向けている。
 そして、その視線には鋭い敵意が乗せられていた。

 (なぜ、こんなにも……マリアが敵視されているのか?)

 先ほどまでの町人の対応を見れば、冒険者特有の嫌悪感か?
 なるほど……彼らに取ってマリアは、そこまで規格外の冒険者という事か。
 俺は納得した。
 巫女という天性の職業に付け加え、10代の若さで聖騎士の称号を手に入れた兼業ダブルジョブ持ち。
 まだ新入りルーキーでありながらもダンジョンの下層をソロで歩き回る規格外の才能……
 厄介なのは、他ならぬマリア本人に自覚がないという事だ。
 確かに無垢で悪意がないという事は美徳であるかもしれない。
 しかし、冒険者という、ならず者界隈に等しい世界では、標的にされやすい。
 ……そういう事なのだろう。
 さらに猛獣使いの職業まで追加すると知られれば、どうなる?
 俺は警戒心を強める。

 当の本人であるマリアは敵意に鈍感なのか、気にした様子もなく、奥の受付に向かう。

 「すいません。ダンジョン関係、下層の仕事ってありますか?」

 受付のギルド職員は、老人と呼ぶにはかわいそうな年齢。50代だろうか?
 整った顔立ちに長めの耳からエルフだと分る。
 白髪にメガネ……メガネの奥は鋭い眼光をしている。 
 ひょっとすると、リタイアした冒険者なのかもしれない。

 「あるよ」

 老エルフは不愛想な表情と声。そして3枚の紙を寄こした。
 依頼クエストの内容が書かれた依頼書ってやつなのだろう。
 マリアは「ありがとう」と礼を述べて、近くの椅子へ座り、紙とにらめっこを始める。

 「ん~ これ!」

 悩んだのも一瞬だけだった。
 マリアはすぐに依頼書を決めて、受付に戻った。

 「この依頼をお願いします」

 老エルフは依頼書に目を通すと―――

 「……承認しておく」

 そう呟いた。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 俺とマリアはギルド3階まで階段を上がった。
 どうやら、ここが職業ジョブを管理する部署らしい。

 ―――そのドアの前―――

 「はぁ、緊張するなぁ。猛獣使いに認められなかったらどうしょう……」
 「認められない事もあるのか。認められなかったらどうなるんだ?」
 「え?そりゃ……だ、大丈夫だよ。ミッくんは一応、転生者だから!処分なんてされないよ」
 「!?しょ、処分される可能性もあったのか!」

 「大丈夫だよ。大丈夫たら大丈夫~」

 マリアは何かを誤魔化すように歌い始めて、ドアを開いた。  

 

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