ミミック転生  ~『比類なき同族殺し』の汚名を晴らす方法~

チョーカー

覚醒直前

 男は冒険者だ。

 伸ばしに伸ばした毛髪。そして髭。
 体と装備にはこびり付いた汚れが目立つ。
 汚れの多くは泥と血。

 おそらく―――
 見た目に気を使う必要がないほど人に会わない生活……つまり、長期間、ダンジョンで生活を過ごしている証拠だ。

 人間の年齢は見た目で判断できないが―――
 おそらく、冒険者としての全盛期ピークは既に過ぎているのだろう。
 それで、現役を続けているのは―――
 それとしか生き方を知らないのか。あるいは、衰えてる事で強くなっているのか?
 衰えて、強くなる。矛盾している言葉だが、奴らにはあり得る事だ。

 確か―――

 『熟練者』

 そういう称号を持つ冒険者がいる。
 コイツと俺の相性は良くない。
 ―――否。むしろ、最悪と言ってもいい。

 緊張が走る。
 相手は、まだ俺に気づいていない。

 (殺せるやれるか?それとも、殺されるやられるか?)

 冒険者は足を止める。そして―――

 「む……これは、未発見の宝か?」

 通路の僅かな隙間に隠された宝箱に気づいたようだ。
 男は鞘にいれたままの剣で宝箱をコンコンと叩く。

 (やはり……異常に用心深い)

 お前は正しい。
 その宝箱は俺のトラップだ。ただ、冒険者おまえを殺すためだけの存在。

 (しかし、お前にソレが見抜けるか?)

 男は荷物から何かを取り出した。
 片手には球体ボール。片手にはマスクか?
 なるほど……煙玉か。
 周囲に魔物モンスターが隠れる場合を想定して、あぶり出そうというのか。
 冒険者は口元をマスクで覆い隠して、煙玉を投げた。途端に白い煙が周囲に広がっていく。
 しかし、俺は動かない。
 無駄無駄……。
 俺はその程度で正体を現さない。
 例え何が起きても1週間だって同じ場所に潜み続けられる肉体を俺は有している。
 だから―――

 (喰らいついた!)

 ついに冒険者は、宝箱に手を伸ばす。
 俺は歓喜の声を抑え込んだ。ここで気づかれるわけにはいかない。 

 (まだだ……まだ…笑うな)

 通路に引きずり出した宝箱に冒険者は興奮を抑えきれなくなっている。
 確かに慎重なのはダンジョンで長生きするコツだろう。
 しかし、文字通りのお宝を目前にして時間をかけるのは悪手。
 時間をかければかけるほど自制心も限界に近づいているはず……そして、それは確実に爆発する。
 冒険者は勢いよく宝箱の開け口を開いた。
 しかし、そこは俺の口だ。
 そう、俺の正体は、男が宝箱だと思っている存在。
 俺は魔物モンスター。……俺はミミックだ。

 一瞬、冒険者と目が合う。
 冒険者は歓喜の笑みが顔にこびり付いている。
 まだ、これから起きる自分の死に気づいていない。
 俺に取っては、最高の瞬間だ。アンタに取っては、最悪の瞬間だろうがな!

 口から発射した触手が冒険者の無防備な体を捕縛。
 拘束する。 遅れてオレに気づいた冒険者は暴れて抵抗する。だが、もう手遅れだ。
 俺の触手は毒手。 人間の体に痛みと痺れを与える必殺の手だ。

 「うがっ!うごごごっ、ぐおごごごごごっ……」

 おそらく、助けを求める声をあげようとしているのだろう。
 だが、口も触手に覆われては、まともに声も出せないだろう。
 男の体全体に痺れマヒが周ったのだろう。男の体は抵抗を止めた。
 さっきまで、歓喜に満ち溢れていた男の表情。今、浮かぶ物の正体は絶望か?

 そう……ミミックに取って最高の瞬間だ。


 
 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 俺はミミックである。

 名前はあろうはずもなく、おそらくこれからもない。
 なんでも、薄暗くジメジメした場所でカタカタと歩いていた所までは覚えている。
 そこで吾輩は初めて人間と言うものを……いや、止めておこう。
 何か、これ以上、自分の事を語るのは危険な気がする。

 とにかく、俺はミミックだ。

 怪物や魔物と言われる存在。ダンジョンに住み、宝箱に擬態して冒険者を捕食する存在だ。
 ダンジョンには宝箱が転がっている。
 過去に、王族や貴族が埋蔵金として隠した宝がダンジョンにゴロゴロと転がっていた時代があったのさ。
 俺は人間の経済とやらに詳しくないが、人間の中には金や財宝を持っている事がヤバいと思って捨てるヤツもいる。俺たちの種族は、それに目を付けた。
 人間が宝を取り出した空き箱に住み着いた。そして、長い時間をかけて肉体を箱と同化する術を手に入れた。そう、進化したのだ。

 ん?なぜ、ミミック本人である俺が、そんなミミックの進化や人間の歴史を知っているかって?
 ……それは、俺にもわからない。 なぜか、俺には、そういう知識があるのさ。
 そうじゃないと、魔物の俺と人間のアンタが意思疎通できるはずないだろう?
 まぁ、良い。 死ぬまでの暇つぶしにも飽きてきただろう。

 俺は体内で抵抗を諦めた冒険者に呟いた。

 悪く思わないでほしい……と言っても無理か。
 今回は、たまたまだ。たまたま、アンタが捕食される番だった。
 少しの手違いで、俺がアンタに殺されていた未来があったかもしれないだろう?
 だから……まぁいいや。めんどくさくなってきた。
 取りあえず死んでくれ。

 俺は冒険者の息の根を止める。

 冒険者の肉体を強烈な酸で消化。栄養と経験値を手にする。
 残った装備品。鉄製品の剣、盾、鎧は酸でクリーニングする。
 刃こぼれや欠けた部分は、俺の体内で骨が変化した剣を回転させて研磨する。
 冒険者を誘うために新品同様の道具に作り直し、体内で保管させておく。
 他に消化できなかった物は……おっゴールドだ。
 結構、溜め込んでいやがったな。こいつも良い。金に汚い冒険者用の罠に利用できる。

 (ん?新しい冒険者エモノか)

 今度の冒険者は、妙に無防備だった。
 先ほど仕留めた熟練者をは違い、足音が大きい。
 それに匂いだ。 柑橘類みかんの爽やかな香り?
 異性を誘惑するために香料を使用する牝か。
 ダンジョンに人工的な香元を持ち込むとは素人め!
 次の冒険者を誘導するために罠を用意する。

 まさか……コイツが俺の生き方を変える事になるとは……
 この時には思ってもいなかった。

 

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