-フォックス×フレンド-

ノベルバユーザー189431

「慣れる狐」前編

北方狐音が転校してきてから数日後、俺は校舎内の玄関で下駄箱に靴を入れている狐少女、狐音を見つけた。
 「よ、おはよう」
 「………おはよう」
 俺が朝の挨拶をすると、狐音はかろうじて聞こえるほどの小さな声で挨拶を返した。
 二人はそのまま教室へと足を向ける。その道中、「………学校生活には慣れてきたか?」と聞いてみた。
 狐音は俺の顔を一瞬見上げると、
 「………………人間の生活、まだわからないことが、多い」
 周りには聞こえないほど小さな声で返した。たしかに〈狐〉に人間の生活スタイルを即理解と言うことは、暴力だろう。
 「………だけど、人間はいい人が多い。飽きない」
 「そ、そうか………」
まぁ楽しんでいるようでなによりだ。
 「………燕は、どう?」
 「何が?」
 「学校、楽しい?」
 「ん、まあまあだな」
 「………楽しくないの?」
 「いや………むしろ楽しくなった、かも」
 「………どういうこと?」
 「そ、それは………」
とその時、

 『風息ィィィィ!!てめー誰の許可得て北方さんとイチャコラしとんじゃァァァァ?!?!』

どこからともなくクラスの男子どもが、何故か殺気を散らしながら、俺に向かってダッシュでやって来た。
 命の危険を感じた俺は、
 「逃げろっ」ガシッ
「わっ」
 狐音の手を掴み、教室へ一目散に駆け出した。
 『あいつ………北方さんと手を繋いでいるぞ………』
 『風息許すマジ』
 『隊長、発砲の許可を』
 『北方さんに当たる可能性がある。控えるんだ』
 『了解』
 「お前らという人間がわからねぇわ俺!」
 後ろから物騒な言葉を発してくるクラス男子から逃げ、教室に着いた俺は、
 「狐音っ!ちょっと逃げてくるから、また後でなっ!」
 「えっ………わ」ドン
狐音を教室に押し込み、持てる限りの全速力で教室を後にした。
 『聞いたか今の。あいつ北方さんを名前で呼びやがったぞ………』
 『いよいよ生かして置けんな』
 『処刑の方法は?』
 『焼身して串刺しして屋上から落とす』
 『からのロードローラー』
 『良い案だ。愛を感じる』
 「俺にとっちゃ愛じゃなくて哀しかないわっ!てかもうそれ犯罪以上だろ?!」
 追いかけられながらもツッコミを入れた俺が逃げた先は屋上。しかし運の悪いことに、屋上へ繋がる扉の鍵が閉まっていた。
 「くそっ」ガチャガチャ
『ふふふ、遂に追い詰めたぞ』
 『隊長!ここは人目がないので殺りたい放題ですっ!』
 『うむ、HRホームルームが始まる前に殺ってしまおう』
 『ラジャー』シャキッ
 クラス男子が取り出したものは、カッター、ハサミ、彫刻刀(角)などの刃物類。
 「お前らに心はねぇのか?!」
 俺は全力で抗議したが、
 『心?そんなものとうの昔に棄ててきた』
なんかカッコイイ台詞だな。
 『そもそも心とはなんだ?』
 小学生道徳をやり直して来い。
 『俺たちはお前を殺りたいだけなんだ』
お前らの血は何色だ。
と、ここで再度質問。
 「お前ら、俺を追いかけて何を得るんだ?楽しいか?」
 『………………………』
 連中は押し黙った。と、次の瞬間、
 『ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
 『どうして俺らはヤローを追いかけ回していたんだっ?!』
 『北方さんを攻めればよかった!!』

 「………………」
 連中が悔やんでいる間に逃げようかと思ったが、
 『奴のせいだ………』
 『奴、風息を殺れば………』
 『北方さんは俺たちのもの………』
にはならねーよ。
 殺気の籠った目と複数の刃物を向けられた俺は、
 「万事休す、か………」
 諦めかけたその時、

 「お前たち、朝から大騒ぎするほど元気らしいな………?」
 『ッ?!』
ドスの効いた声が下階から聞こえ、連中の動きが固まった。そこにいたのは、
 「全員指導してやろうか?」
 生徒指導部(又の名を熱血指導部)の筋肉の塊(略して筋塊)、松谷先生だった。
 『ゲッ………熱松(熱血松谷の略)だ………』
 『もうダメだ………おしまいだ………』
 『勝てるわけがない………』
 『逃げるんだぁ………』
 「校舎内を走り回り、手には刃物。指導の対象だな。お前ら全員一週間指導だッ!」
 『ぎゃぁぁぁあああッ!!!』
 連中は、熱血指導部に喰われていった。


 地味で目立たないスキルで陰に隠れていた俺は、心の底から松谷先生に感謝した。
ありがとう、熱松先生。

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