-フォックス×フレンド-

ノベルバユーザー189431

「濡れる狐」Ⅳ

◇◇◇◇◇◇

その日の放課後。
 「あ、そうだ。今日は買い物があるんだった」
 「………?何を買うの?」
 「えっと………夕食の買い出しに、食器用洗剤とか………あ、妹に文房具一式頼まれてたんだった」
 「………燕、妹いたんだ」
 「ああ、ロクでもない中1妹が一人。家は妹と二人で生活してるからな。お金の管理は俺がするんだ」
 「………私にも兄弟姉妹いる」
 「へぇ、何人いるんだ?」
 「………九人」
 「結構多いな………狐だからか。大きな声じゃ言えないが」
 「………食問題も多い」
 「そうか………なら、一緒に買い物でも行くか?」
そこまで話したところで、

 「この東御メイナ、話は聞かせてもらいましたっ!」
 教室の扉を豪快に開けて這入りこんで来たのは、盗撮少女、もとい三年生の東御メイナ先輩だった。
 「一体なんですか?東御先輩」
 「まずカメラを取り返しに」
 「はいどうぞ(ポイッ)」
 「(パシッ)確かに受け取った。それで話の続きなんですが、買い物に行くんですか?あなた方二人きりで?」

 『とりあえず釘バットを。足りないなら金属バットでも構わない』
 『隊長、偶然にもメリケンサックが机の中に』
 『おお、偶然だな。それの使用も許可する』

 「さらばだっ」ガッ
「………わっ、と」
 「ちょ、燕くん?!」
 俺は荷物を背負って二人の少女を抱えてダッシュで学校から商店街へ。雨なんて気にしていられない。
 危なかった。もう少しでミンチ(リアル)にされるところだった………


場所は変わって町の商店街。
 「………っと、これで最後かな?狐音も買うものはないか?」
 「………油揚げ、沢山買った」
 「おう………籠いっぱいになるまで油揚げをつめて店員驚かせてたな」
 「へぇ、狐音さんそんなに油揚げが好きなんですか?」
 「………うん、大好物」
 「てかなんで先輩いるんすか」
 「燕くんが私を誘拐するが如く抱えて連れてきたんじゃないですか」
 「………そうだったっけ?」
 「………必死だった」
 「抱えたとき私のドコ触ってたんです?」
 「スミマセンデシタ」
 俺と狐音は買い物を終わらせ、何故だか同行していた東御先輩と共にまだ雨の降る帰路を歩いていた。
 人通りは少ない。帰宅途中の学生や仕事帰りのサラリーマンが雨から逃げるように走っていく姿がちらほら見える程度である。
 「しっかし止まないなー最近の雨」
 「仕方がないですよ。何せ梅雨入りですから」
 「………雨、やんでほしい」
 右手に傘、左手に買い物袋という装備では横殴りの雨にはめっぽう弱い。既に足元はびしょ濡れである。膝上スカートの女子二人にはさぞかし冷たいことであろう。
 「でもそれもまた運命かと、私は思いますね」
 「?一体どういうことです?」
 「それは………」
 東御先輩が運命とやらについて語ろうとしたとき、

ドンッ

 いきなり後ろからフードを目深くかぶった人がぶつかってきた。体格からして男だろうと推測する。
 「わ、すいませ………」
 俺は広がって歩いていたことが原因だと思い、相手に謝ろうとしたが、
 「なっ!あれは………!」
 走り去っていくフード男の手には、

 「俺のバッグ?!」
 「………私の、荷物が」

 一瞬で奪われていた。
スリ。ちぼ。巾着切り。
まさか身近で起きるとは思ってもいなかった事態に、俺と狐音の思考回廊は止まりかけたが、すぐに我に返り、
 「東御先輩、荷物を頼みます!後、警察に連絡を!行くぞ狐音ッ!」
 「ん………!」
 「あ、ちょっと燕くん?!」
 傘を放り投げて雨の中を狐音と一緒に走り出した。
 男はこちらには振り返らずに一目散に逃げている。足は俺と同じくらいの速さ。狐音も運動神経が良く、遅れることなくついてくる。
 「おい、止まれぇ!」
 大声で叫んでも男は止まらない。予想はしていたが。
それでもしつこく追いかけていたら、男の逃走劇は唐突に終わった。
 場所は広い川に架かる橋の下。川は梅雨の豪雨により増水していて、橋の下は曇り空により暗い。
 男はその場で足を止めた。
 男は振り返る。
その手には、片刃ナイフ。
 「な………っ?!」
 俺はそのナイフを見てたじろいだ。こいつ、殺人まで犯すつもりなのか。
 「さ、下がってろ狐音!」
 瞬間、男は動く。
 勢いよく突き出されたナイフを体を横にしてかわす。男はすぐに体勢を立て直し、斬りかかってくる。俺はそれもよろめきながら紙一重でかわした。
 呼吸さえも儘ならない。反撃の余地もない。命の危険があった。
 刺されそうになり、かわす。この動作が数分続いたが
「―――!しまっ………」
 疲労により体勢を崩してしまい、転んでしまった。男が俺に向かってナイフを降り下ろす影が見えた。
 終わりか―――そう思い目を閉じた。が、

ボンッ

何かが弾ける音に俺は目を開けた。見たのは、
 「………あっつ………!」
 足を押さえてその場で転げ回る男と、焦げたように煙を上げている地面だった。
そして倒れている男に向かっていく狐音の姿。
 「狐音ッ!行くな!」
 俺はあらん限りの声を振り絞って叫んだ。
だが、狐音は止まらなかった。男が落としたナイフを川に蹴り落とした。
しかし、それと同時に男が倒れたまま腕を横流しに振った。狐音の華奢な足はそれに引っ掛かり、
 「きゃっ!」
 狐音は悲鳴に近い声を出して横転した。そのまま転がり、滝のように流れる川のすぐ横で止まる。
 「やろぉ!」
その間に俺は起き上がり、男の腕に思い切り蹴りを入れた。男の体が2メートル程飛び、俺は反動でよろけて尻餅をついた。
その瞬間、
 「東御先輩………?」
すぐ後ろにカメラを持った東御メイナの姿が見えた。
 「―――しますから、迷わず打ってください」
いきなり現れた東御先輩は俺の耳元でそう言うと、俺の背中に隠れた。
 「うがあぁぁぁああ!!」
いきなりの狂声に正面を向くと、男が立ち上がり拳を振り上げて突っ込んできた。
 俺も残る力を振り絞って一瞬で立ち上がると、固く拳を握り、
 「うおぉぉぉおおッ!」
 真正面から向かった。
 間の距離1メートルに来たら、
 「今だッ!!」
 俺がそう叫ぶと同時に、

バシュッ!

 後ろから飛び出た東御先輩のカメラのストロボの閃光が、男の目を貫いた。暗い橋の下では効果抜群の目眩ましである。
 「―――ぐあっ?!」
 男が怯み、動きが一瞬止まる。俺はその瞬間を見逃さなかった。
 「うおぉぉぉらあッ!」
 一発入魂、全力撲拳。
 俺の右ストレートが男の鼻頭を射ぬいた。
 「ぐおぁっ!」
 男は弧を描いて地に落ち、動かなくなった。

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