-フォックス×フレンド-

ノベルバユーザー189431

「世話狐」後編

◇◇◇◇◇◇

藍陽姉妹が去ってから数分すると、妹の玖美がコンビニの袋を片手に帰ってきた。
 「お帰り、玖美」
 「ただいま、燕兄。あっつ~」
 短く返事をした玖美は、ベッドの横の棚にコンビニ袋を置き、隣の無人ベッドに腰をかける。
 「そういえば、さっき藍陽姉妹が来てたぞ」
 服を摘まんで身体に風を送り込んでいる玖美に、俺がそう伝える。
 玖美はコンビニ袋の中身をまさぐりながら応える。
 「知ってるよ。さっき病院に戻るときすれ違ったんだよ。何故か流弥さん涙目だったけど………燕兄が泣かせたの?」
 「いや知らんよ。今まで泣かせたことなんてないし」
それは、さっき聞こえた流弥の断末魔のような声が聞こえたのと関係があるのだろうか。
 「うー、美味しそう」
そこで玖美はプリンとスプーンを取り出して、嬉しそうに声をあげる。

 「………………」
 「………燕兄の分はないよ?」
 「まだ何も言ってないだろ俺」

たしかに少しは欲しいと思ったけれども。
 早速蓋を外してスプーンを突き立てる玖美。
 「………欲しい?」
プリンを一口頬張りながら試すような目で俺を見た。それに対して俺は否定の意を示す。
 「別にいいよ。莉魅ちゃんから貰ったクッキーがあるし」
 「………は?」
 一瞬、玖美の動きが止まった。プリンを掬おうとするスプーンの動きも止まる。
 「いやあ、莉魅ちゃん流石だよね。店にも出せそうなほど美味しいクッキー作るんだよ。………半分は流弥が作った激辛クッキーだけど」
 「そ、そうなんだ…………」
 玖美の肩が小刻みに震えている。
 「というわけで、プリンはいらね。欲しかったら自分で買うから」
 「~~~~~!(ガタッ)」
 突然立ち上がったかと思うと、プリンがのったスプーンを俺に向け、
 「………て」
 「は?」
 「このプリンを食べて!てか食べなさい!はい、あーん!」
 突然顔を真っ赤にして怒鳴り出す玖美。一体何故に?
 「い、いや。自分で食べれるから」
 「ダメ!こうじゃないと食べさせない!」
 「どういう理屈だそれは」
どうやらプリンを食べないと、玖美は動いてくれそうにない。妹に食べさせてもらうなど少し恥ずかしいところがあるが、今周りには誰もいない状況である。
 「―――じゃ、あー……んっ」

―――カシャッ

 どこかで聞いたことのあるシャッター音が。
 「そこかっ!(ぶんっ)」
 俺は反射的にくわえていたプラスチックスプーンを病室の入口に投擲する。僅かに開いていた隙間にスプーンが吸い込まれるように入り、

 「あうっ」

そんな、漏れたような声が聞こえた。
 「いるのはわかってますよ。東御先輩」
 「………あちゃーばれちゃいましたか」

 扉が開き、中に入ってきたのは、報道部部長・プライバシー(著作権)キラーこと東御メイナだった。
 「………私もいる」
その後ろから顔を出したのは、銀髪銀眼の美少女・化け狐であることを隠している北方狐音だ。
 二人とも制服を着ているので、学校帰りに寄ってきてくれたのだろう。
 「………燕さんが口をつけたスプーン………(瞳キラキラ)」
 「捨てろ棄てろッ!」
あの人をほったからしにしておくと、危険な予感しかしないのは、何故だろう?
 「………私も、そう思う」
 「さすが狐音、話が合うな」
とそこで、空気と化してた玖美が、割り込んでくる。

 「え………?どういうこと………?」
 突然の訪問者に驚いたのだろう。狐音と東御先輩を交互に見ながら口をパクパクさせている。
 「ああ、玖美。二人はさっき話した、北方狐音と東御メイナ先輩だよ」
 俺は玖美に二人を紹介する。

 「………はじめまして。あなたのことは、燕から聞いている」
 「玖美ちゃん、はじめまして♪燕くんの彼女の東御メイナですっ」
 「「「はぁ?!」」」

 東御先輩による爆弾発言に、俺と玖美と狐音の声が重なった。

 「何言ってるんですか先輩?!」
 「燕兄?!友達じゃなくて、彼女ってどういうこと?!」
 「待て玖美!俺はそんなこと認めていないからな?!」
 「………燕、いつの間にそんなことを」
 「そんな事実はないっ」
 「ええっ!燕くん酷いっ!」
 「話をややこしくするな!!」

おっと、先輩にタメ口をしてしまった。
しかしこれで病室は静かになる。俺は大きく息を吐き、周りを見渡す。

まだ目を白黒させて座り込んでいる玖美。
 俺の怒鳴り声に驚いて頭を伏せている狐音。
からかい尽くした満足そうな笑顔の東御先輩。

 「………まあ皆、俺を心配してくれて………あ、ありがとう」
 「………何言ってるの燕兄、妹として当たり前のことをしたまでよ。ふんっ」
 「燕くんは私の大事な後輩ですからね~。心配ぐらいしますって」
 「………困ったことがあったら、いつでも言って。友達、だから」
 「………………そうか。これからも、よろしく頼む」

 少し、照れくさかった。俺にこういうのは合わないのかな?


◇◇◇◇◇◇

退院から三日後。

 自宅安静(玖美による自宅監禁生活………何故か家から出してもらえず)から解放されて、梁琳高校指定の制服を身に纏い、玄関から家を出て、久しぶりにセミの音が絶え間なく鳴り響く外の空気を肺いっぱいに吸う。
 「ああ~空気ウマウマ」
 「燕兄、また事件とかに巻き込まれても無茶は絶対にしないように!」
 同じようにセーラー服を身に纏った玖美が玄関から出ながら、そう注意してくる。
 「わかってるよ、俺もそこまで馬鹿じゃないからな」
 「………本当に?」
 「ああ、本当だ」
 「………絶対にしない?」
 「もちろんだとも」
 「………もし、」
 「何回も言わせんなよ(ギュッ)」
 「にゃっ?!?!」
 随分と心配しているようだったから、俺は玖美の頭を右手で抱き寄せた。玖美は昔からこうされると、落ち着きを取り戻すのだ。
 「心配すんなって。自分の身体ぐらい大切にするからよ」
 「………約束だからね」
 「おう、約束されたぜ。そんじゃいってきます」
 「うん、いってらっしゃい!」
 俺は久しぶりに高校への通学路を歩いた。


キーンコーンカーンコーン……………
「………やっと午前の終わり、か。んーっ(伸び)→(ゴキッ)うっ………背中がっ」
 「………燕、大丈夫?」
 「あ、ああ問題ない」
 「おや、燕よ。いつの間にか転校生と仲良くなっていたのかね?」
 「ゲ、流弥………」
 「年頃の女の子に向かってゲ、は無いだろう?」
 「気にするな。俺は昼飯食いたい」
 「………私も、一緒に食べる」
 「ん、別にいいぞ」
 「………ふーん、そういうことか」
 「何がだよ」
 「何でもない。アタシもここで食べるとしよう」
 「………まあいいか」
 「(ガラッ)燕くんっ!お昼一緒に食べ………おや、見知らぬ女子が燕くんの近くにっ!もしや、浮気………?」
 「東御先輩?!ありもしないこと言わないでください!」
 「はじめまして、燕の幼なじみの藍陽流弥です」
 「あら御丁寧。報道部部長の東御メイナ、彼氏募集中でっす♪」

 『東御先輩っ!僕とお付き合いおねg』
 『待て、何抜け駆けしようとしているんだ?』
 『ここは俺が』
 『いや、俺が相応しい』
 『皆愚かだなぁ。まだ彼女もいないなんて』
 『『『リア充は氏ねッ!!』』』
 『ギャアアアァァァ~………』

 「………東御先輩」
 「あははっ。冗談に決まってますよ(キラッ)………でも、彼氏は燕くんがいいなぁ?」
 「ゲホゲホッ!な、何を言って………」
 「………燕は私の友達、誰にも渡さない………!」
 「狐音、友達は何人も作っていいんだぞ?」
 「ちょっと待った。アタシが一番燕の近くにいたんだ。所有権はアタシにある」
 「お前のものになった覚えはねぇよ!………はっ、殺気?!」

 『抹殺対象・風息燕、始末シマス』
 『あいつ………三人の美少女から同時告白されて………』
 『ラノベのハーレム主人公みたいになりやがって………』
 『生かして置けねぇなぁ』
 『家庭科室から包丁取ってくるわ』

 「さらばだっ!(ピューッ)」
 『A班は玄関先の警備、BC班は東棟から回り込め。D班は奴を追いかけろ!』
 『サーイエッサー!』
 「死んでたまるかぁ!」
ドドドドドドドドド………

「燕くんは冗談の通じない人ですね」
 「やや。わかってしまいましたか、東御先輩」
 「………私は冗談じゃなかったのに………」
 「狐音さん、純粋………それはそうと、流弥さん。私のことはメイナちゃんでいいですよ?」
 「じゃあメイナちゃん、燕の子供の頃の話、聞きたくはないか?」
 「おお、いいですね!報道部の血が騒ぎますよ!」
 「狐音は聞きたいかい?」
 「え?………う、うん。友達を知ることは、大事だから」
 「うんうん、じゃあ………あれはアタシと燕が出会ったころの話――――」


 燕が無事帰ってきたのは、午後の授業が始まる20秒前だった。
その間に女子が話していたことは、また別の話………………

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