クラス転移キターっと思ったらクラス転生だったし転生を繰り返していたのでステータスがチートだった

名無しシャン

第65話「対最強の下っ端」

 スザキアに連れられ、やってきた場所は約100人程の王国兵達が訓練に使っている場所だった。この訓練場はかなりの広さがあり、入るだけであれば今居る王国兵の約5倍は入りそうな程だ。訓練場の片側は壁だが、反対側は訓練場を観ることが出来るようになっている。また、屋根はなく陽の光が直接入っている。

 スザキアが姿が見えると、王国兵達は訓練をやめ、その中で一際強そうな男がこちらにやって来る。今さっきまで動いていたからだろう、額には汗が流れ陽の光を反射させ少し光っている。腰には普通の西洋剣よりも大きく長いものが下げられている。

「スザキア、珍しいなこの時間に此処に来るなんてな。いつもならこの時間は大体城内で使いっパシリさせられてるだろ」
「王からのご命令だよ。悪いんだが、少しの間此処を空けてくれ」
「なんだ、今日のご命令は子守か。相手をするなら変わってやろうか?」
「あー、そうだな。王からは俺がやるように言われてるからな。お前の後に俺がやるって事でいいか」
「結局スザキアがやるなら、俺はやらなくてよくないか?」
「いや、お前のためになるだろうから、先にやれ。それと、舐めてると一方的になるぞ。全力でいけよ」
「わかってるよ。さっきから明らかに誘ってる隙しか見つからないからな。面白い子供を連れて来たものだな」
「さっきから子供って言ってるが、一応15らしいぞ」
「年齢的に大人でも俺から見たら子供みたいなもんだ。娘と歳が一緒だしな。俺はレイズ。名前は」
「ルルシアです。一戦目、お願いします」
「あぁ。ちょっと待ってろ。今、部下どもを端に退けるから」
「それなんだが、端じゃなくて上にあげといてくれ」

 スザキアはそう言いながら、訓練場を観ることが出来る場所を親指で指す。

「そうか、わかった。おい、お前ら、上に上がって今からの試合を見とけ」

 大声で他の兵に命令を飛ばす。兵からは苦情の1つも上がらず、全員がさっさと訓練場から出て行く。
 
「王様、まずは様子見を入れても構いませんよね」

 返事はない。肯定と捉えていいのだろうか。

「いいっぽいな。それじゃ、2人とも準備しろよ」

 スザキアの声に俺とレイズは、訓練場の真ん中あたりにある程度の距離を取り戦闘準備をする。

「ほらよ、模擬剣だ。それじゃ、準備はいいな。両者、はじめ」

 スザキアの開始の合図が訓練場に響く。

 様子を見ようかと思ったが、速攻をかけ相手の反射・対応速度を確認する。勝負がつけばラッキーだったがそう簡単にはいかない。
 本気で地面を蹴りかなりの速度で相手との距離を縮め、右脚の付け根から左肩の方に斬り上げる。刃は潰れているので実際に斬る訳ではないが。刃は右脚に触れる事はなく、レイズの両足の前で払われるように振られた剣に弾かれる。速度を求める為に軽く握っていたのを強く握る。しかし、それでも剣への衝撃は強く1cm程剣が飛びかける。片腕で斬ろうとしたのが原因だろう。バックステップで元の位置に戻る。

「スザキア、こいつ何者だよ。人間が動ける速さを優に超えてるぞ。剣速も威力も腕力も握力も、重心の移動も判断力も根性も並みの人間じゃねぇよ」
「そうだろうな。レイズ、気合い入れてけよ。そいつ、最強の息子だしダンジョンソロ踏破者でもあるからよ」

 レイズは会話をしながらも、こちらを観察し続けている。右から斬りこもうと動こうと、すると剣を斬りこもうとする方に少し動かす。

「そんな事、聞いてないぞ」
「言ってないからな」
「ただものじゃないと思ったが。見る目がなくなったかな」

 レイズはそこで話を終えると、ルルへと集中する。
 コンマ数秒でも遅れると負ける。一瞬でも他に気が向いても負ける。細かい判断ミスでも負ける。少しでも力を抜けば負ける。唯一勝てるとすれば、固有スキルで分かる剣の軌道から、全力で相手の剣を払い続けて、剣を持てなくさせることだけだろう。

「並みの人間じゃない剣を払われた、自分はどうすればいいんですか」
「........知らんな。来ないのか」

 会話で集中を少しでも切れさせれたらと思ったが、口数の少なさと適当さから無理だと分かる。

 相手から攻撃してくる様子はない。カウンター型なのはほぼ確定しているが、それにしても動く気配がない。待っていても埒があかなそうなので、相手の土俵にこちらが上がる。
 さっきと同じように、地面を全力で蹴り距離を縮め、胴体を両断するように横薙ぎをするが、下からの斬りあげによって剣は上に弾かれる。剣を通り衝撃が腕へと伝わる。弾かれるのは前提、そこからは無茶を挟みつつ連撃に繋げる。
 上に弾かれた剣を1度目の無茶、肩を引き肘を曲げ体を少し回転させ首を横から斬りかかる。手首のスナップで急な加速をつける。軽くしゃがんで避けられるが振った先で手首を返し、2度目の追撃。即座に立ち上がり1歩下がられた状態で、外側から内側に上から下にと弾かれる。
 剣が飛ばされないようにしっかり握るが、弾かれる瞬間は腕の力を一瞬だけ抜き衝撃を少し逃す。
 次の攻撃に移ろうとした時、相手の剣が左側を下から斬りあげられているのが見えた。受け流すか弾き返すか回避か迷いかけたが、こちらは弾くには少し体制が悪い。
 右足を上がってくる剣の横に、左足を右足の線上に移動させ体を剣と並行にする。左手持ちの剣を右手持ちにし、左手は上がってくる腕を掴む。剣を突きのような構えにし、掴んだ腕を全力で引く。

「そこまでだ」

 スザキアの声で俺とレイズは動作を止める。俺の剣は先がレイズの首に触れている。
 掴んでいた手を離し、相手が腕を引いてから剣を降ろす。

「珍しく攻めたと思ったら、綺麗に反撃されて負けたな」
「あぁ。まぁでも、あのままやってても負けは変わらなかったからな。腕が痺れて先に剣を落としてたのは、俺だっただろうし」
「そうか。それじゃ、2戦目といこうか」
「僅かに腕が痺れてるんですが」
「素手の組手だし、剣は使わないし拳は握れるだろ」
「それなら大丈夫です」
「ならやるぞ。レイズはどいてろ」

 多少の疲れはあるものの、息切れする程ではない。親父の友人、恐らく王国最強との戦い、疲れなしでやりたかったのが本当のところだ。

 模擬剣はレイズに渡しており、互いに素手の状態で向き合っている。
 明確な合図があった訳ではないが、ほぼ同時に2人が動く。右ストレートや中段の蹴りなどの、軽く受け流しやすい技が互いに繰り出される。様子見として2人は7割ぐらいでやっているのだが、その7割ですら常人では見ることが出来ても、対処は出来ない速度がでている。

「身体強化と固有スキルがあるなら使っていいぞ。本気でこいよ」
「そうですか」

 まず、普通の身体強化を使う。
 身体能力が上がったことで、1撃の威力や速さが上がる。7割を8割、9割と上げていくにつれ、スザキアに余裕が消えていく。全力でいくぐらいになると圧倒的なまでの有利な状況が出来上がる。
 3回攻撃すればその内1回は攻撃が通る。スザキアもそれを理解しているようで当たる瞬間に引いたり、あえて体の軸をズラす事で最小限に抑えている。攻撃が通ると言っても、ダメージにしてみれば大したことはない。
 スザキアの反撃で多少の距離が開くが、踏み込みと重心を前にする事ですぐに詰まる。踏み込んだ足を軸に後ろ回し蹴りを放つ。狙いは側頭部。反撃後すぐだったからか回避は間に合わず、受け流すには距離が足りない。スザキアは頭と近づいて来ている足の間に腕をいれ、その場で少し跳ぶ。ガードされるのはわかっていたので当ててから振り抜く。
 スザキアは2m程蹴りの威力に乗って空中を飛ぶ。

「身体強化を使わないなんて、何考えているんですか」
「強いことは聞いてたが、実際にやるまでは信用しないんでね。で、実際にやってみて、お前強いわ。こっからは固有スキルも使って全力でやらしてもらうわ」
「実力をチェックしてたんですか」
「確認だな。親バカ拗らせてるなら現実を見せるべきだしな」
「そうですか」

『最強』である親父が強さで親バカを拗らせる訳ない。それをスザキアは分かっている筈。それでも疑うのは、友人であっても相手を疑うという事が出来るからだろう。人は親しい人なら無条件に信じる事がある。それは人の思考力を極度に鈍らせる。
 だからスザキアが確認と言ったのは、万が一の可能性を疑ったからだろう。

「ところで、スザキアさんの固有スキルって何ですか?」
「教えないと言いたいが、どう対処するのか見てみたいし教えてやるよ。固有スキル『動静』。触れた1つの物を止めたり、動かしたりする能力だ。近接戦だと最強に最も近いスキルだと思ってる」

 ヒントをくれたみたいだな。無機物有機物問わないのは、姉さんよりタチが悪い。触られたらアウトな時点でどっちもどっちみたいなものだが。

「さて、いくぞ」

 その声を合図、スザキアが突っ込んでくる。受け流しは最終手段、基本は回避する。
 右ストレート、右足を引いて相手の外側に回る。肘を折り畳んで肘打ち、しゃがんで避けて膝裏に下段の回し蹴りを放つ。跳躍で避けられ、肘を伸ばして裏拳が顔へと迫ってくる。ギリギリまで引きつけ、片手で下から弾くように押し自分はしゃがむ。右足で横に蹴りを放つ。しゃがんだ状態での回避はほぼ無理、ガードも踏ん張りが効かない、受け流し1択なので受け流す為タイミングを見計らおうとした時、不自然に加速しもろに受けてしまう。
 不自然な加速のタネはすぐにわかった。蹴りの寸前に手が足に触れていたのが見えたので、蹴りを同じ方向に動かして加速させたのだろう。
 立ち上がり、体勢を整え相手に視線を向ける。服には僅かに白い靴跡がついている。

「能力についてどこまで推察できるかを見たかったんだが、思考停止してるな。姉の影響だな」
「思考停止してるつもりはないんですが。それと、姉さんの影響ってどういう」

 一旦、身体強化は切る。一旦切るのは、使用している間、魔力を消費し続けているからだ。

「お前の姉に固有スキルの使い方の基礎を叩き込んだのは、俺なんだよ。系統が似てるからな。使いこなせるまで教えたかったが、タイムリミットだったみたいでな基礎までしか教えれなかったんだよ」
「十分なまでに使えてると思ってるんですけど」
「まぁ、基本的な使い方はしっかりしているな。素手で触れて操作する、これは基本だ」
「基本以外に何があるんですか」
「体のどこにでもスキルが発動出来るようにする。装備を生身と同じ扱いにする。大きい変化といえばこの2つだ」

 そこまで聞くと、自然と靴跡へと目がいく。

「他に細々としたのはあるが、お前には関係ないしいいだろ。タッチ系固有スキル持ち相手に相手の土俵で戦うのはアホだぜ。悪いが今からもう1発いくぜ」

 その声を聞き終わる前に身体強化を使う。

 スザキアはというと、ことこちらに歩いてきている。俺は下がろうとするが下がれない。服が固まり、体は動くのに下がる事が出来ない。
 ゴソゴソやってる間にスザキアは位置取りが出来、中段の回し蹴りを放つ。
 ガードと受け流しは不可能、ダメージの最小限化しかない。間近に迫ってまだ動かない。
 触れる直前になってやっと動くようになる。軽くその場で飛び威力を緩めるが、重い1撃が横腹に入る。
 数m飛ばされ、地面を足で擦りながら止まる。

「まだやるか? 言っとくがもうチェックメイトだぞ。だが、切り札があるなら使ってこいよ。解除してやるからよ」
「もったいぶってる暇はなさそうですね。後1撃はもらっといてもらいますよ」

 表示しきれない魔力が数分で底をつくという、燃費の悪い切り札。
 制限時間が5分、ではなく、魔力が底をつくまでに5分かかる、という事だった。あの時より魔力量は上がっている筈だが、1分伸びたかどうかってレベルじゃないかと思う。
 他にも分かる事があると思うが、今分かっているのはこれぐらいだろう。

 身体強化(相手)を発動させ、ステータスチェンジも発動させる。ステータスを開き、常に変わり続ける4つのステータスから1番高いのを選ぶ。そして他のステータスと入れ替える。これを手早く済ませる。
 身体強化もおまけでつける。魔力が凄い速度で減っているのが、感覚的にわかる。2分と持たないだろう。

「触れられたら駄目なら、触れられなければいい。俺が触れても駄目なら、1撃で終わらせればいい。さらに言ってしまえば、認識させなければ怖くない」

 左足で地面を蹴り、右足は足を折りたたんで膝を前に突き出す。地面を蹴った音が後ろから聞こえ、膝は鳩尾辺りに突き刺さる。しかし、深くは刺さらず少し浅い。
 スザキアが反射的に出した手に服が触れる。服に触れた手を掴む。腕を止められたら互いに片腕が止まる。服を止められたら、服を支えに蹴りを放つ。膝を引き、引いた膝でもう1発いこうとするが、右足自体が止まる。第3の選択肢、最も行動を制限される。
 蹴りは使えず、左足は浮かせれば右足を動かされバランスを崩される。左腕は掴んでいる為、使えるのは右腕だけ。しかし、右側からきた拳のガードに使い、実質四肢を封じられた。

 残り時間があと僅か。もう1撃やるには賭けるしかない。
 左足を浮かせ、右腕はスザキアの左腕を掴む。
 予想通り、右足は動くようになり自分の意思を無視しておかしな方向に動く。両腕で掴んでいる腕を支えに左足を前に蹴りだす。

 あと少しのところで体中の力が抜け、その場に仰向けに倒れ、視界がぼやけたあと暗くなる。

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