本音を言えない私にダサ眼鏡の彼氏ができました。
13 ヒロカちゃんの話
しばらく泣いていたら、田辺くん、レイカ、ケイゴさんの三人も浜辺に駆けつけてくれた。ヤエとミサミサも危ないからホテル待機だけど、心配してくれていた。
私がグループLINEに中途半端なメッセージを送っていたのと、ヒロカちゃんが同室のヤエの前から姿を消したことで、心配してくれたらしい。
レイカが神崎くんの部屋に殴り込みに行って、そこにいたヒロカちゃんを問い詰めたことで私を海に呼び出したまま放置していることが露見したらしい。どうして神崎くんの部屋にヒロカちゃんがいたかと言うと、私が神崎くんにヒロカちゃんとキスしたことを問い詰めたから、その事を確かめるために神崎くんがヒロカちゃんを部屋に呼びつけたからだと、ホテルに帰って落ち着いてから説明された。
レイカには、心配されて叱られた。ヤエとミサミサは泣いてくれた。田辺くんには謝られた。ヒロカちゃんに私の電話番号を教えた犯人は、田辺くんだった。
私は、その夜、申し出て、ヒロカちゃんと一緒の部屋で眠った。
なかなか泣き止まないヒロカちゃんの、たまにぶり返して鼻をすする声を聞きながら、私は眠りに就いた。
そりゃ、嫌だよね。私だって、そんな作戦があるなんて知ったら、いてもたってもいられなくて、同じことしたかもしれない。
神崎くんの気持ちは分からないけど、ヒロカちゃんの気持ちはわかった。
痛い程。
もしかしたら、ヒロカちゃんは、私より辛いかもしれない。だって、幼馴染として長い間ずっと想っていた人が、いきなり訳のわからない罰ゲームのせいで奪われたなんて状況。きっと辛い。
だけど、神崎くんは一人しかいない。譲れない。
だから、慰める言葉が見つからなかった。
いじわるして、ごめんね。でも、負けないからね、ヒロカちゃん。
゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜
翌日、朝食バイキングを食べた私と神崎くんは、予定通り皆とはひと足お先に電車で家に帰った。
話があるからと、翌日会う約束をして神崎くんと駅で別れた。
帰宅した私は、たいして泳いでもいないのにクタクタで、その日はたっぷりお昼寝してしまった。夕方からバイトなんて、神崎くんはタフだ。
話ってなんだろう。
結局、泣きじゃくるヒロカちゃんと話しなんて出来るはずもなく、色んなことがうやむやになったままだから。きっと、逃げていた色んなことの真意がわかるはず。何が飛び出して来るのか怖い。神崎くんの口から直接聞くのも怖い。
だけど、もう逃げない。
私はお昼ご飯もしっかり食べてから、神崎くん家へ向かった。
゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜
見慣れ始めた商店街を抜け、神崎くんの住むマンションに着く。
エレベーターで2階に上がる。扉から出たら、神崎くんの部屋の前にたたずむヒロカちゃんの姿が見えた。Tシャツにショートパンツ、スポーツサンダルというラフな格好をしている。下手したら小学生と同じ服のチョイスなのに、そうならないのは彼女の胸が大きいから。海から帰ってきて、日に焼けて真っ黒だった。
「ヒロカちゃん!?」
「こんちは。ダイチくんに聞いたら、今日ここに来るって言ってたから、待ってたんだよ」
待ってたって、なんで。
思わず凝視すると、ヒロカちゃんは寂しそうに苦笑した。
「そう警戒しないでよ。あんたに、ちょっと言いたいことがあってさ」
「な、何?」
言いたいこと? でも、海で痴漢にあった件についてはもう謝ってもらったし。それに、そんな殊勝な雰囲気ではない。どちらか言えば、挑戦的というか、挑発的というか、そんな気の強い目で私を見てきている。睨む、とまではいかないまでも。何よう。ドキドキするじゃん。
ヒロカちゃんは、そんな挑むような目をしたまま、口を開いた。
「ヒロカ、フラレたから。もうここには来ないよ」
「え!?」
一瞬、なにを言われたのか意味を把握できなかった。フラレた? 神崎くんに? いつ告白したの? あ、まさか。私が夜ビーチに降りてヒロカちゃんを探してた時? まさか、だからヒロカちゃん、あの夜ずっと泣いてたの?
私が襲われた罪悪感で泣いてるのかと思ってたけど、考えてみたら今までほとんど交流のなかった私が襲われそうになったくらいで、そこまで泣けるものでもないよね。しかも、強姦は未遂だし。
そっか。神崎くん、ヒロカちゃんのことフッてくれたんだ。
ヒロカちゃんには悪いけど、安堵の気持ちがこみ上げる。
「妹みたいにしか思えないって、言われちゃった。そんな時、レイカさんが部屋に来て、あんたがいないんだけど、知らないかって。すっごく怖かったから、思わず海に呼び出した事話したら、ダイチくん、すっごく心配して。何も言わずに駆け出して、海へ。あんたの元へ、一直線だった」
ヒロカちゃんは、私からふっと目線を外して、遠くの空を見てまた口を開いた。
「慌てて追いかけたけど。――あんなに必死になったダイチくん見たの、初めてだった。悔しいけど、認めるしかないよ」
「……ありがとう」
ヒロカちゃんは、神崎くんの部屋のドアにもたれて、今度は自分のつま先を見るように俯いて話を続けた。
「ダイチくんが、お母さんを病気で亡くしてるのはあんたも知ってるでしょ? それで、去年、ダイチくんが高校受験で大変な時期にね、それにも関わらず、ダイチくんのお父さん、再婚したの」
突然、神崎くんの家庭事情の話しになって、私は戸惑ったけど、ヒロカちゃんが何を伝えようとしてくれているのか、私は黙って続きを聞いた。
「その時にね、ダイチくんは猛反対したんだけど、聞き入れてもらえなかった。結局、押し切られるように再婚されて、それを許す代わりに、ここでの一人暮らしを取り付けたの。で、その話し合いの最中に、ダイチくん、お父さんに言われたんだって。『お前にも彼女ができればわかる』って。だから、ダイチくん、お父さんの気持ちが知りたくて、誰かと付き合ってみたいって、ジロ兄と話してるの聞いたんだ」
ヒロカちゃんは、私を見た。
「だから、相手は誰でも良いんだと思ってた。だから、罰ゲームでも許したんだと思った。あんたは見た目がお人形さんみたいに可愛いし、ちょうど良かっただけなんだって思った。だって、ダイチくんのこと何にも知らないし、ダイチくんの気持ちとかも考えないし、ヒロカの方が絶対ダイチくんのこと分かってるのにって自信もあったし……」
そこで、ヒロカちゃんは肩をすくめた。目線をまたつま先に戻す。
「でも、違ったみたい。ヒロカの『好き』はね、『同情』なんだって。ヒロカはダイチくんのこと、同情してるだけなんだって。ヒロカは恋だと思ってたけど、それは勘違いなんだって。小さい頃にお母さんを亡くして、お父さんはすぐ再婚しちゃって、初めて出来た彼女が罰ゲームで、ダイチくん可哀想って。その証拠に、彼女が出来たって知るまでは、自分の部活にかまけて全然連絡とって来なかっただろうって」
ヒロカちゃんは、深く、ため息をついた。
「ダイチくんに言われて、はっとした。確かにそうかもしれないって思った。ヒロカ、小さい頃からずっと、ダイチくんお母さんいなくて可哀想って思ってた。それはどうしても否定出来ないなって。ダイチくんね、そういうのは嫌なんだって。同情されるのが一番嫌なんだって。――だから、諦めるね」
それに、とヒロカちゃんは続けた。
「それに、あんたのことが気に入らなかったのは本当だけど、あんたも最初はどうあれ、今は本気でダイチくんのこと想ってるんだって分かったら、少し安心したし」
ヒロカちゃんは、口の端を上げて、無理に笑顔を作ろうとしたみたいだけど、どう見ても失敗してると思った。
ヒロカちゃんは、嘘が下手だな。
まだきっと、ヒロカちゃんは神崎くんのことが好きだ。同情だけで、あんなに泣けるとは思えない。同情もあったのかもしれないけど、それだけじゃなかったはず。同情だけで、あんなに大好きって視線を送ることは出来ないはず。私も、あんなにヤキモチ妬かなかったと思うもの。
切ない気持ちが押し寄せて来て、何か言葉をかけてあげたいと思ったけど、私から何も言うことは出来ない。私は、ヒロカちゃんの笑顔が失敗してることに気づかない振りをした。
最後にヒロカちゃんは、空元気を振り絞って、笑った。
「でもな、ダイチくん、あれで弱いところあるから、一人にしないでやってくれよ!」
「言われなくても!」
私が大きく頷くのを認めて、ヒロカちゃんは背を向け手を振ると、エレベーターの中に消えていった。
私がグループLINEに中途半端なメッセージを送っていたのと、ヒロカちゃんが同室のヤエの前から姿を消したことで、心配してくれたらしい。
レイカが神崎くんの部屋に殴り込みに行って、そこにいたヒロカちゃんを問い詰めたことで私を海に呼び出したまま放置していることが露見したらしい。どうして神崎くんの部屋にヒロカちゃんがいたかと言うと、私が神崎くんにヒロカちゃんとキスしたことを問い詰めたから、その事を確かめるために神崎くんがヒロカちゃんを部屋に呼びつけたからだと、ホテルに帰って落ち着いてから説明された。
レイカには、心配されて叱られた。ヤエとミサミサは泣いてくれた。田辺くんには謝られた。ヒロカちゃんに私の電話番号を教えた犯人は、田辺くんだった。
私は、その夜、申し出て、ヒロカちゃんと一緒の部屋で眠った。
なかなか泣き止まないヒロカちゃんの、たまにぶり返して鼻をすする声を聞きながら、私は眠りに就いた。
そりゃ、嫌だよね。私だって、そんな作戦があるなんて知ったら、いてもたってもいられなくて、同じことしたかもしれない。
神崎くんの気持ちは分からないけど、ヒロカちゃんの気持ちはわかった。
痛い程。
もしかしたら、ヒロカちゃんは、私より辛いかもしれない。だって、幼馴染として長い間ずっと想っていた人が、いきなり訳のわからない罰ゲームのせいで奪われたなんて状況。きっと辛い。
だけど、神崎くんは一人しかいない。譲れない。
だから、慰める言葉が見つからなかった。
いじわるして、ごめんね。でも、負けないからね、ヒロカちゃん。
゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜
翌日、朝食バイキングを食べた私と神崎くんは、予定通り皆とはひと足お先に電車で家に帰った。
話があるからと、翌日会う約束をして神崎くんと駅で別れた。
帰宅した私は、たいして泳いでもいないのにクタクタで、その日はたっぷりお昼寝してしまった。夕方からバイトなんて、神崎くんはタフだ。
話ってなんだろう。
結局、泣きじゃくるヒロカちゃんと話しなんて出来るはずもなく、色んなことがうやむやになったままだから。きっと、逃げていた色んなことの真意がわかるはず。何が飛び出して来るのか怖い。神崎くんの口から直接聞くのも怖い。
だけど、もう逃げない。
私はお昼ご飯もしっかり食べてから、神崎くん家へ向かった。
゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜
見慣れ始めた商店街を抜け、神崎くんの住むマンションに着く。
エレベーターで2階に上がる。扉から出たら、神崎くんの部屋の前にたたずむヒロカちゃんの姿が見えた。Tシャツにショートパンツ、スポーツサンダルというラフな格好をしている。下手したら小学生と同じ服のチョイスなのに、そうならないのは彼女の胸が大きいから。海から帰ってきて、日に焼けて真っ黒だった。
「ヒロカちゃん!?」
「こんちは。ダイチくんに聞いたら、今日ここに来るって言ってたから、待ってたんだよ」
待ってたって、なんで。
思わず凝視すると、ヒロカちゃんは寂しそうに苦笑した。
「そう警戒しないでよ。あんたに、ちょっと言いたいことがあってさ」
「な、何?」
言いたいこと? でも、海で痴漢にあった件についてはもう謝ってもらったし。それに、そんな殊勝な雰囲気ではない。どちらか言えば、挑戦的というか、挑発的というか、そんな気の強い目で私を見てきている。睨む、とまではいかないまでも。何よう。ドキドキするじゃん。
ヒロカちゃんは、そんな挑むような目をしたまま、口を開いた。
「ヒロカ、フラレたから。もうここには来ないよ」
「え!?」
一瞬、なにを言われたのか意味を把握できなかった。フラレた? 神崎くんに? いつ告白したの? あ、まさか。私が夜ビーチに降りてヒロカちゃんを探してた時? まさか、だからヒロカちゃん、あの夜ずっと泣いてたの?
私が襲われた罪悪感で泣いてるのかと思ってたけど、考えてみたら今までほとんど交流のなかった私が襲われそうになったくらいで、そこまで泣けるものでもないよね。しかも、強姦は未遂だし。
そっか。神崎くん、ヒロカちゃんのことフッてくれたんだ。
ヒロカちゃんには悪いけど、安堵の気持ちがこみ上げる。
「妹みたいにしか思えないって、言われちゃった。そんな時、レイカさんが部屋に来て、あんたがいないんだけど、知らないかって。すっごく怖かったから、思わず海に呼び出した事話したら、ダイチくん、すっごく心配して。何も言わずに駆け出して、海へ。あんたの元へ、一直線だった」
ヒロカちゃんは、私からふっと目線を外して、遠くの空を見てまた口を開いた。
「慌てて追いかけたけど。――あんなに必死になったダイチくん見たの、初めてだった。悔しいけど、認めるしかないよ」
「……ありがとう」
ヒロカちゃんは、神崎くんの部屋のドアにもたれて、今度は自分のつま先を見るように俯いて話を続けた。
「ダイチくんが、お母さんを病気で亡くしてるのはあんたも知ってるでしょ? それで、去年、ダイチくんが高校受験で大変な時期にね、それにも関わらず、ダイチくんのお父さん、再婚したの」
突然、神崎くんの家庭事情の話しになって、私は戸惑ったけど、ヒロカちゃんが何を伝えようとしてくれているのか、私は黙って続きを聞いた。
「その時にね、ダイチくんは猛反対したんだけど、聞き入れてもらえなかった。結局、押し切られるように再婚されて、それを許す代わりに、ここでの一人暮らしを取り付けたの。で、その話し合いの最中に、ダイチくん、お父さんに言われたんだって。『お前にも彼女ができればわかる』って。だから、ダイチくん、お父さんの気持ちが知りたくて、誰かと付き合ってみたいって、ジロ兄と話してるの聞いたんだ」
ヒロカちゃんは、私を見た。
「だから、相手は誰でも良いんだと思ってた。だから、罰ゲームでも許したんだと思った。あんたは見た目がお人形さんみたいに可愛いし、ちょうど良かっただけなんだって思った。だって、ダイチくんのこと何にも知らないし、ダイチくんの気持ちとかも考えないし、ヒロカの方が絶対ダイチくんのこと分かってるのにって自信もあったし……」
そこで、ヒロカちゃんは肩をすくめた。目線をまたつま先に戻す。
「でも、違ったみたい。ヒロカの『好き』はね、『同情』なんだって。ヒロカはダイチくんのこと、同情してるだけなんだって。ヒロカは恋だと思ってたけど、それは勘違いなんだって。小さい頃にお母さんを亡くして、お父さんはすぐ再婚しちゃって、初めて出来た彼女が罰ゲームで、ダイチくん可哀想って。その証拠に、彼女が出来たって知るまでは、自分の部活にかまけて全然連絡とって来なかっただろうって」
ヒロカちゃんは、深く、ため息をついた。
「ダイチくんに言われて、はっとした。確かにそうかもしれないって思った。ヒロカ、小さい頃からずっと、ダイチくんお母さんいなくて可哀想って思ってた。それはどうしても否定出来ないなって。ダイチくんね、そういうのは嫌なんだって。同情されるのが一番嫌なんだって。――だから、諦めるね」
それに、とヒロカちゃんは続けた。
「それに、あんたのことが気に入らなかったのは本当だけど、あんたも最初はどうあれ、今は本気でダイチくんのこと想ってるんだって分かったら、少し安心したし」
ヒロカちゃんは、口の端を上げて、無理に笑顔を作ろうとしたみたいだけど、どう見ても失敗してると思った。
ヒロカちゃんは、嘘が下手だな。
まだきっと、ヒロカちゃんは神崎くんのことが好きだ。同情だけで、あんなに泣けるとは思えない。同情もあったのかもしれないけど、それだけじゃなかったはず。同情だけで、あんなに大好きって視線を送ることは出来ないはず。私も、あんなにヤキモチ妬かなかったと思うもの。
切ない気持ちが押し寄せて来て、何か言葉をかけてあげたいと思ったけど、私から何も言うことは出来ない。私は、ヒロカちゃんの笑顔が失敗してることに気づかない振りをした。
最後にヒロカちゃんは、空元気を振り絞って、笑った。
「でもな、ダイチくん、あれで弱いところあるから、一人にしないでやってくれよ!」
「言われなくても!」
私が大きく頷くのを認めて、ヒロカちゃんは背を向け手を振ると、エレベーターの中に消えていった。
コメント