本音を言えない私にダサ眼鏡の彼氏ができました。

みりん

9 神崎くんの評価

「えっとー、お粥作ってあげたよ♡」

 いつものように机をくっつけてお弁当を食べながら、私はレイカ、ヤエ、ミサミサに昨日の神崎くんのお見舞いについて報告をした。でも、なんとなくもったいなくて、「羞花閉月」のことは言えずにいる。

「はあ!? それじゃあ、昨日と一緒で何の進展もなかったってことじゃん! 密室、しかも彼氏の部屋に二人きりで、ちゅーのひとつもないなんて。さすがダサ眼鏡。童貞の名をほしいままにしてる。ていうか、面白くない! やってることお母さんじゃん」

 案の定、レイカはつまらなそうだ。

「まあまあ、確かに付き合ってても刺激がなくてつまらなさそうだけど、神崎なんだから仕方ないじゃん。罰ゲームなんだし、こんなもんでしょ」

 ミサミサはそう言うとお弁当のウィンナーをかじった。

「それにしても、よく付き合ってられるよねー、ナナは。付き合えって言ったのうちらだけどさあ。夏休みまであと1ヶ月半もあるよ? 耐えられるの? すごいわー」

 ヤエは心底感心した調子で言ってから、お茶を飲んだ。

 私はヘラヘラと苦笑いを返すしか出来ない。ぼっちは嫌だからって付き合い始めた訳だし、これは罰ゲームなんだよね。こんなとき、思い知らされる。

 でも、あと1ヶ月半かあ。私はもっと付き合っていたいって思ってるんだけど、どう考えてもそんなこと言える雰囲気じゃない。

 神崎くん、いい子なんだけどなあ。ぶっきらぼうだけど、実は優しいし、料理が得意だったり、バイト頑張ってたり、勉強ができたり、良いところいっぱいある。

 だけど、地味だし、自己主張しないから、学校では目立たない。あと、あの髪型と、眼鏡がすっごい損してると思う。なんか、暗く見えるんだよね。だから皆神崎くんを暗い人だと思ってるんだ、きっと。

 なんとかならないかなあ。神崎くんの良いところを皆にもっと知ってほしい。そしたら、レイカ達も神崎くんのこと見直してくれて、このまま付き合ってても変に思われないかもしれないよね?

「でも、神崎くんって、料理が上手なんだって! 今度豚の角煮作ってもらう約束したよ!」

 私は神崎くんの料理上手アピールをしてみる。

「豚の角煮ねえ」

「八角って香辛料を使った本格的なの! すごくない?」

 レイカは、面白くなさそうに溜息をついた。

「まあ、出来ないより出来た方が良いかもねえ。私もケイゴにフレンチ料理のフルコース作ってもらった時はちょっとは嬉しかったけどさあ。男の料理って凝り性で薀蓄とか話したがるから面倒なのよね」

 うう。レイカの彼氏の東大生のケイゴさんは完璧超人だ。その上、レイカを甘やかすことに関して右に出る者はいない。そんなのと比べられても! どうしたら良いの!?

「確かにー。薀蓄は面倒だよねー。うんうん、って聞いてあげないと機嫌悪くなるもんねー。うちはサッカー観戦してる時が酷いかなー。でも、正直サッカーのルールとか知らんし! てなる!」

 ミサミサがそう言うと、レイカは呆れたように言った。

「ケイゴがそんなことで機嫌悪くなったら、私なら別れるわ」

「さすがレイカ! 強気だねえ。でも、ケイゴさんまず機嫌悪くならないだろうね。あの人、レイカに『薀蓄ウザイ』って言われたらむしろご褒美みたいなもんだろうし」

 ヤエにそう言われると、心底面倒くさそうに、レイカは溜息をついた。

「そうなのよ。あの変態、どMなのよね。まあ、言うこと聞かなかったらウザイからまだマシだと思ってるけど!」

 へえ。ていうか! 神崎くんの話じゃなくなっちゃったあ。それに、神崎くんは私から聞かないと薀蓄とか話すようなタイプじゃないと思うんだけど……ていうのも、今言い出せる雰囲気じゃないよねえ?

 神崎くんを見直してもらうはずが……! どうしてうまくいかないんだろう!

 そんな調子でお弁当の時間はあっという間に終わってしまった。

゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜

 神崎くんのことをレイカに見直してもらえないまま、一週間以上が過ぎた。今日は6月の第三週の金曜日。

 私は若干憂鬱な気分で学校に行き、いつものように靴箱を開ける。あれ。上靴の上になんか置いてある。手紙? 無地の白い封筒で、『相田さんへ』と書かれているけど、差出人の名前がない。不審に思ってその場で封を開けた。

 中には、一枚の手紙が入っていた。

『相田さんへ。突然の手紙すみません。今日の放課後、屋上まで来て下さい。待ってます。丸高』

 これって……。

 私は溜息をついた。

 どう考えても、ラブレターじゃん。告白の呼び出し? 丸高くんって言ったら、同じクラスのバスケ部の子だったはず。どうしよう。すごい面倒。イケメンだって女子には人気があるけど、茶髪で学ランを着崩してる感じがチャラくて、私はあんまり好きじゃない。とは言え、下駄箱にラブレターなんて、古風なことするくらいだから、実は真面目なのかな?

 でもどっちにしろ、私、彼氏いるし。

 行くの面倒だけど、同じクラスの人と気まずくなるのも嫌だから、行くしかないよね。

 嫌だなあ。それに、放課後は神崎くんと勉強会なのに。遅れて行くしかないね。

゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜

 放課後、神崎くんには、用があるから先に図書室に行ってるようにお願いし、私は丸高くんとの約束の屋上に向かった。

 屋上に着くと、丸高くんは既に待っていた。

 バスケ部なだけあって、背が高くて体つきもガッシリしている。モテるだけあって爽やかなスポーツマンのイケメンという感じだ。

 神崎くんとは対照的。神崎くんは背もふつうだし、運動音痴なだけあって筋肉もない、どっちかと言うとガリガリだ。

 丸高くんは、私が来たことに気づくと破顔した。

「相田さん、来てくれたんだ! ありがとう!」

「あ、うん」

 私は、つられてついつい愛想笑いをしてしまう。

 丸高くんは、少し顔を赤らめて、でも私の顔をまっすぐ見つめて、口を開いた。

「あの、俺、入学してからずっと、相田さんのこと見てました! 好きです! 付き合ってください!」

 ああ。やっぱり、告白だった。

「――ごめんなさい。私、彼氏いるから……」

 申し訳なく思いながら言うと、丸高くんは驚いたように目を見開いた。

「え!? マジで!? ――誰?」

 毎日図書室で勉強してるのに、気付いてなかったの? この人、本当に私のこと見てたのかな? 密かに丸高くんの好感度が下がりながらも、まあいいや。と思い直す。

「神崎くんだよ」

 私が正直に答えると、丸高くんは今度こそ仰け反るようにあからさまに驚いた。

「はあ!? 神崎!? クラス1の美少女の相田さんが、あの陰キャの神崎と付き合ってる!? 正気かよ」

 丸高くんは急にイライラした様子で声を低めた。

「――はあ。高嶺たかねの花だと思ってた相田さんが、神崎と……。なんか、がっかりだわ」

 吐き捨てるようにそう言うと、丸高くんは私に背を向けた。そのまま、振り向きもせず、屋上を後にした。

 取り残された私は、丸高くんの豹変に呆然として、ただ見送るしか出来なかった。

 がっかり、って、何よ。

 陰キャじゃないよ。

 確かに見た目は暗く見えがちだけど、神崎くんはマイナス思考なこと言わないし、家庭環境とか複雑でも勉強やバイトを前向きに努力して、結果も出してる。頑張り屋さんなすごい人だよ!

 皆、知らないから平気でそんなこと言えるんだよ。

 ――悔しい。悔しいよ。

 私は、泣きそうになって、慌てて上を向いた。

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