本音を言えない私にダサ眼鏡の彼氏ができました。
1 始まりは罰ゲーム
「ナナ信じられない! 雑誌を切り抜くなんて! マジない! これどうしてくれんのよ!?」
バシン、と机を叩かれて、私は完全に思考停止した。
私の机の上には、雑誌のアイドルグループMEMORYのページが開かれている。小さめで全身が写ってる写真のうち、空上智久、通称空Pの部分だけが切り抜かれている。これは、確かに一昨日私が切り抜いたものだ。
「え。待って待って。だって、レイカが空Pのスマフォカバー作ってって、この雑誌くれたんじゃん」
そう。三日前、お弁当の時間に、私のスマフォカバーが可愛いと話題になった。「どこで買ったの?」と聞かれたので、正直に100均の透明スマフォカバーをデコパージュして自分で作ったと言ったら、「いいなあ! 私も欲しい!」と頼まれてしまったので、仕方なく作った。
作り方は、好きな紙や布を飾り付けたいものに専用の液を塗って貼り付けるだけなんだけど、レイアウトとかにセンスが問われるし、貼り付ける時に気泡が入らないように慎重にしないといけなかったり、重ね塗りしないといけないのに液が乾くまで時間がかかったりと結構手間がかかる。
それでも引き受けたのは、高校入学したばかりの今、友達との仲が深まるならと思ったからだ。他に理由なんてない。
「だからって、雑誌を切り抜くなんて非常識なことするとは誰も思わないじゃない! 印刷するとか、雑誌を切らない方法なんていくらでもあったはずでしょ!? 空PはもうMEMORYを脱退しちゃったから、MEMORY時代の写真は貴重なのよ! ヤフオクに出したら万払うファンがゴロゴロいるくらい希少価値が高いアイテムで、大事にしてたのに!」
レイカの目は完全に座っている。角でも生えそうな程の般若の表情で私を睨みつけてくるレイカ。
そんなこと言われても。私、アイドルとか全然興味ないから、そんなに貴重なものとは知らなかったよ。渡されたからそれ使ってデコパージュしただけだもん。そんなに大事なんだったら、最初からそう言っといてよ!
とは思っていても、レイカの顔を見たらそんなこと言えるはずもなく。
「レイカかわいそ~」
「大事にしてたのにね~」
レイカと同中のヤエとミサミサがレイカに同情して、私を追い詰めてくる。
どうしよう。どうしよう。
こんなことでハブられて、高校生活終了したくない! 高1の4月ほど、これからの高校生活にとって大事な時期はないというのに、最悪の事態!
「あ……ごめんね。ごめんね、レイカ!」
私は必死でレイカに謝った。
お願い、許して! 出会ったばかりだけど、クラスで一人ぼっちだった私に声をかけてグループに入れてくれたレイカ。優しくて面倒見良いって思ったんだよ。仲良くなりたくてデコパージュ作ったんだよ。お願い、今さら仲間はずれにだけはしないで!
「謝ってもらっても雑誌は元に戻らないじゃない。ほんとに大事にしてたのに!」
「ごめん! ごめんなさい! 許して! 何でもするから!」
私はさらに重ねて頭を下げる。レイカはそんな私を般若のような顔で睨みつけていたけれど、何かを思いついたのか、ふとその表情を緩めだ。
「いいわ。何でもするって言ったわね。じゃあ、あそこにいるダサ眼鏡と夏休みが始まるまで付き合ったら許してあげる!」
レイカは、教室の一番後ろの席で本を読んでいる男子を指差して言った。
「え?」
指さされている方向を振り返って、私は固まる。
「ダサ眼鏡って――神崎じゃん! あはははは! ない! それはないわレイカ!」
「ひどすぎる! ウケる!」
ヤエとミサミサは途端に爆笑し始めた。
神崎くんって言うんだ、あの人。皆とは同中なのかな。眼鏡をしていて、ボサボサの黒髪で前髪が長いからなんか暗そうに見える。しかも、友達と一緒にいるところも見ないし、だから一人で本読んでるのかな。正直、見た目の印象は良くない。
その神崎くんと、付き合う。私が?
えええええ!
ニヤニヤした表情で驚き固まる私の顔をのぞき込むと、レイカは言葉を続けた。
「そうね。付き合うっていうのも、形だけじゃダメよ。学校のある日は毎日一緒にいる時間を作ること。あとは、相手からの提案を拒否らないこと。それと、何かあったら逐一報告すること! この条件を破ったら、許してあげないから」
「待って! 相手からの提案を拒否らないなんて条件ついたら、向こうがキスとかHしようとしてきたら私に拒否権ないじゃん!」
私は慌てるけど、レイカはしれっとして表情を変えない。
「当たり前じゃん。じゃないと罰にならないじゃない。ナナ中学で彼氏いたことあるって言ってたじゃん。別に初めてでもないんだし、カマトトぶらないでよ」
確かに彼氏いたけど~。ていうか初彼は小学5年生の時だけど。今まで全部で4人。でも誰ともキスまでしかしてないの! 言っても皆信じてくれないし、言える雰囲気じゃないけど!
「でもさ~。もし、神崎に告ってフラれたらどうするの?」
ミサミサがレイカに疑問を投げかけた。そうだよ! 神崎くんがOKしてくれるとは限らないじゃん!
しかし、私の期待に反してレイカは吹き出した。
「それウケる! あのダサ眼鏡にフラれるってどんだけ罰ゲーム! まあ、そうなったらそうなったで面白いけど、別の罰ゲーム追加で考えるわ」
えええええ。じゃあ、結局神崎くんと付き合っても、付き合わなくても、罰ゲームは続くってことじゃん。
「まあ~、レイカの大事にしてる雑誌切り抜いたのはまずかったよ。レイカがドルヲタなのは同中の間では常識だし、誰もそんな恐ろしいことしないもん。それに、神崎はダサ眼鏡でキモいけど、絶対童貞だし、そんなすぐ手出してくる度胸ないから! 頑張って!」
ヤエが慰めてくれてるみたいだけど、それ全然フォローになってないよう。
そんな訳で、私は神崎くんに強制的に告白させられることになってしまいました。
゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜
放課後。
荷物をまとめて席を立とうとした神崎くんに私は声をかけた。
「あの、神崎くん。ちょっと良い?」
「え、何か用?」
ぶっきらぼうな声が返ってくる。どうしよう、なんでこの人声かけただけでキレてんの? やだなあ。怖い人だったらどうしよう。
私は不安にかられながらも、なんとか作り笑いを顔に貼り付けて首を傾げた。
「話があるんだけど、ここじゃ話せないから、中庭に来てくれる?」
「……。いいけど」
神崎くんになんとか了承を取り付け、私と神崎くんは中庭に向かった。もちろん、レイカ、ヤエ、ミサミサの三人もこっそりと後をつけている。
あああ。やだなあ。よく知りもしない人に嘘の告白するなんて。そういえば、私、いつも付き合う時男子から告白してもらってきたから、告白なんて初めてだ。
罪悪感がない訳じゃないけど、これをしないと私はクラスで一人になっちゃう。それだけは絶対に嫌! とにかく夏休みまでって決まってるんだから、それまでそういう雰囲気にならなければ良いだけのこと! それに、まだOKもらえると決まった訳でもないし。
私は人気のない中庭に着くと、神崎くんの正面に立って、神崎くんの顔を見つめた。
前髪が長いのと、眼鏡をしてるのとで、表情がよく読めない。
仕方ない、とにかく言わなきゃ! なんて言えば? もう、何でもいいや!
私は口を開いた。
「あの、神崎くん。付き合って下さい!」
私は、いたたまれなくなって顔を伏せる。告白って緊張する! 嘘でも緊張するよ。レイカちゃん達どこから覗いてるんだろう。ていうか、神崎くん、返事は、まだ!?
私は、おそるおそる顔を上げて神崎くんの様子をうかがった。
相変わらずの無表情? 表情は読めない。
「いいよ」
「え!?」
神崎くん、いま、何て?
「付き合おう。告白されたのは初めてだ。よろしく。じゃあ、俺図書館に行くからこれで」
「え? あ、うん。また明日――」
私は、去っていく神崎くんを思わず見送ってしまった。
中庭の真ん中に取り残された私の元に、どこに隠れていたのか、レイカ達が駆けつけて来た。三人とも、大爆笑している。
「やっぱOKだったね! 童貞が貴重な女を断るはずがないんだから。あーお腹痛い。しばらくこれで楽しめそうだわ。報告よろしくね!」
レイカが、朝には想像も出来ないほどの満面の笑みで私の肩を叩いた。
よかった。機嫌直してくれたみたい。これで、入学早々ぼっちになるのだけは避けられたかな。
でも、問題はこれからだ。告白OKされちゃったから、神崎くんと付き合わなきゃいけない。先が思いやられるよ……。
バシン、と机を叩かれて、私は完全に思考停止した。
私の机の上には、雑誌のアイドルグループMEMORYのページが開かれている。小さめで全身が写ってる写真のうち、空上智久、通称空Pの部分だけが切り抜かれている。これは、確かに一昨日私が切り抜いたものだ。
「え。待って待って。だって、レイカが空Pのスマフォカバー作ってって、この雑誌くれたんじゃん」
そう。三日前、お弁当の時間に、私のスマフォカバーが可愛いと話題になった。「どこで買ったの?」と聞かれたので、正直に100均の透明スマフォカバーをデコパージュして自分で作ったと言ったら、「いいなあ! 私も欲しい!」と頼まれてしまったので、仕方なく作った。
作り方は、好きな紙や布を飾り付けたいものに専用の液を塗って貼り付けるだけなんだけど、レイアウトとかにセンスが問われるし、貼り付ける時に気泡が入らないように慎重にしないといけなかったり、重ね塗りしないといけないのに液が乾くまで時間がかかったりと結構手間がかかる。
それでも引き受けたのは、高校入学したばかりの今、友達との仲が深まるならと思ったからだ。他に理由なんてない。
「だからって、雑誌を切り抜くなんて非常識なことするとは誰も思わないじゃない! 印刷するとか、雑誌を切らない方法なんていくらでもあったはずでしょ!? 空PはもうMEMORYを脱退しちゃったから、MEMORY時代の写真は貴重なのよ! ヤフオクに出したら万払うファンがゴロゴロいるくらい希少価値が高いアイテムで、大事にしてたのに!」
レイカの目は完全に座っている。角でも生えそうな程の般若の表情で私を睨みつけてくるレイカ。
そんなこと言われても。私、アイドルとか全然興味ないから、そんなに貴重なものとは知らなかったよ。渡されたからそれ使ってデコパージュしただけだもん。そんなに大事なんだったら、最初からそう言っといてよ!
とは思っていても、レイカの顔を見たらそんなこと言えるはずもなく。
「レイカかわいそ~」
「大事にしてたのにね~」
レイカと同中のヤエとミサミサがレイカに同情して、私を追い詰めてくる。
どうしよう。どうしよう。
こんなことでハブられて、高校生活終了したくない! 高1の4月ほど、これからの高校生活にとって大事な時期はないというのに、最悪の事態!
「あ……ごめんね。ごめんね、レイカ!」
私は必死でレイカに謝った。
お願い、許して! 出会ったばかりだけど、クラスで一人ぼっちだった私に声をかけてグループに入れてくれたレイカ。優しくて面倒見良いって思ったんだよ。仲良くなりたくてデコパージュ作ったんだよ。お願い、今さら仲間はずれにだけはしないで!
「謝ってもらっても雑誌は元に戻らないじゃない。ほんとに大事にしてたのに!」
「ごめん! ごめんなさい! 許して! 何でもするから!」
私はさらに重ねて頭を下げる。レイカはそんな私を般若のような顔で睨みつけていたけれど、何かを思いついたのか、ふとその表情を緩めだ。
「いいわ。何でもするって言ったわね。じゃあ、あそこにいるダサ眼鏡と夏休みが始まるまで付き合ったら許してあげる!」
レイカは、教室の一番後ろの席で本を読んでいる男子を指差して言った。
「え?」
指さされている方向を振り返って、私は固まる。
「ダサ眼鏡って――神崎じゃん! あはははは! ない! それはないわレイカ!」
「ひどすぎる! ウケる!」
ヤエとミサミサは途端に爆笑し始めた。
神崎くんって言うんだ、あの人。皆とは同中なのかな。眼鏡をしていて、ボサボサの黒髪で前髪が長いからなんか暗そうに見える。しかも、友達と一緒にいるところも見ないし、だから一人で本読んでるのかな。正直、見た目の印象は良くない。
その神崎くんと、付き合う。私が?
えええええ!
ニヤニヤした表情で驚き固まる私の顔をのぞき込むと、レイカは言葉を続けた。
「そうね。付き合うっていうのも、形だけじゃダメよ。学校のある日は毎日一緒にいる時間を作ること。あとは、相手からの提案を拒否らないこと。それと、何かあったら逐一報告すること! この条件を破ったら、許してあげないから」
「待って! 相手からの提案を拒否らないなんて条件ついたら、向こうがキスとかHしようとしてきたら私に拒否権ないじゃん!」
私は慌てるけど、レイカはしれっとして表情を変えない。
「当たり前じゃん。じゃないと罰にならないじゃない。ナナ中学で彼氏いたことあるって言ってたじゃん。別に初めてでもないんだし、カマトトぶらないでよ」
確かに彼氏いたけど~。ていうか初彼は小学5年生の時だけど。今まで全部で4人。でも誰ともキスまでしかしてないの! 言っても皆信じてくれないし、言える雰囲気じゃないけど!
「でもさ~。もし、神崎に告ってフラれたらどうするの?」
ミサミサがレイカに疑問を投げかけた。そうだよ! 神崎くんがOKしてくれるとは限らないじゃん!
しかし、私の期待に反してレイカは吹き出した。
「それウケる! あのダサ眼鏡にフラれるってどんだけ罰ゲーム! まあ、そうなったらそうなったで面白いけど、別の罰ゲーム追加で考えるわ」
えええええ。じゃあ、結局神崎くんと付き合っても、付き合わなくても、罰ゲームは続くってことじゃん。
「まあ~、レイカの大事にしてる雑誌切り抜いたのはまずかったよ。レイカがドルヲタなのは同中の間では常識だし、誰もそんな恐ろしいことしないもん。それに、神崎はダサ眼鏡でキモいけど、絶対童貞だし、そんなすぐ手出してくる度胸ないから! 頑張って!」
ヤエが慰めてくれてるみたいだけど、それ全然フォローになってないよう。
そんな訳で、私は神崎くんに強制的に告白させられることになってしまいました。
゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜
放課後。
荷物をまとめて席を立とうとした神崎くんに私は声をかけた。
「あの、神崎くん。ちょっと良い?」
「え、何か用?」
ぶっきらぼうな声が返ってくる。どうしよう、なんでこの人声かけただけでキレてんの? やだなあ。怖い人だったらどうしよう。
私は不安にかられながらも、なんとか作り笑いを顔に貼り付けて首を傾げた。
「話があるんだけど、ここじゃ話せないから、中庭に来てくれる?」
「……。いいけど」
神崎くんになんとか了承を取り付け、私と神崎くんは中庭に向かった。もちろん、レイカ、ヤエ、ミサミサの三人もこっそりと後をつけている。
あああ。やだなあ。よく知りもしない人に嘘の告白するなんて。そういえば、私、いつも付き合う時男子から告白してもらってきたから、告白なんて初めてだ。
罪悪感がない訳じゃないけど、これをしないと私はクラスで一人になっちゃう。それだけは絶対に嫌! とにかく夏休みまでって決まってるんだから、それまでそういう雰囲気にならなければ良いだけのこと! それに、まだOKもらえると決まった訳でもないし。
私は人気のない中庭に着くと、神崎くんの正面に立って、神崎くんの顔を見つめた。
前髪が長いのと、眼鏡をしてるのとで、表情がよく読めない。
仕方ない、とにかく言わなきゃ! なんて言えば? もう、何でもいいや!
私は口を開いた。
「あの、神崎くん。付き合って下さい!」
私は、いたたまれなくなって顔を伏せる。告白って緊張する! 嘘でも緊張するよ。レイカちゃん達どこから覗いてるんだろう。ていうか、神崎くん、返事は、まだ!?
私は、おそるおそる顔を上げて神崎くんの様子をうかがった。
相変わらずの無表情? 表情は読めない。
「いいよ」
「え!?」
神崎くん、いま、何て?
「付き合おう。告白されたのは初めてだ。よろしく。じゃあ、俺図書館に行くからこれで」
「え? あ、うん。また明日――」
私は、去っていく神崎くんを思わず見送ってしまった。
中庭の真ん中に取り残された私の元に、どこに隠れていたのか、レイカ達が駆けつけて来た。三人とも、大爆笑している。
「やっぱOKだったね! 童貞が貴重な女を断るはずがないんだから。あーお腹痛い。しばらくこれで楽しめそうだわ。報告よろしくね!」
レイカが、朝には想像も出来ないほどの満面の笑みで私の肩を叩いた。
よかった。機嫌直してくれたみたい。これで、入学早々ぼっちになるのだけは避けられたかな。
でも、問題はこれからだ。告白OKされちゃったから、神崎くんと付き合わなきゃいけない。先が思いやられるよ……。
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