砂漠王子の愛は∞!~唇から風の魔法の溺愛アラヴィアン・ラブ~

簗瀬 美梨架

最終章:ラヴィアン王国の砂漠の花嫁2

☆★☆
 戴冠式を終え。今度は結婚式。ラヴィアンの結婚式は夜空の下と決まっている。式、式、の連続だ。二人は初夜を前に、こそっと抜けだしたところだった。
「昼間は参った。あの悪戯好きの精霊たち」とラティークは、まだぼやいている。
 アイラはベールを翻して振り返った。どうしても、伝えたい話があった。
「ねえ、ラティーク。あたしね、一つ不思議に思ってることがあるの。闇の精霊がね、どうして地下のみんなを放置してたかの話。本当に水の精霊が邪魔だったのかなって」
「うん? アイラはどう思うんだ?」
「これは希望かも知れないけど、本当は、一番水の精霊王に逢いたかったとか……」
 ラティークは「そうだといいな」と笑った後で、アイラの両手を頬に当てた。
「これから、二人で色んな話をしよう。真面目な話、下らない話。互いに赤くなる話。きみは、僕の前ではとろとろになって必死で喋る。そういうのたまらない」
 砂波がゆっくりと立ち始めた。黄金の砂が舞い上がって水飛沫のように見えた。
「砂漠一面が揺れてる気がする。あの悪戯好き連中、まだどこかにいるのかな」
 声に答えるように、砂漠の空に緑の風が一度だけ吹き、一気に砂が舞い上がった。
「ラティーク、そろそろ夜に」アイラの声に、ラティークは砂漠の手前で足を止めた。
 動かないラティークの姿に、腕を掴もうとした。王族のマントが翻った。
「アイラ、これ、奇跡か……砂漠を見てご覧、チラチラと光が……」
 ザアアアアアア。一面の砂漠は、一瞬で光の波に呑まれ、青い海に変わっていた。二人の大気までが光の風に包まれる。美しい銀光の水面が透き通る下には、ピンク色の珊瑚礁の群れ。イソギンチャクに隠れる熱帯魚。
 白い砂浜に、流れ落ちる光。水の中で自由に泳ぐ魚や、ささっと逃げる海老たち。
 いっせいに珊瑚が卵を吐き出した。水中の微生物が発酵して、雪のように降り注ぐ。
 ――ね? 砂漠の下にはまだまだ水があるのよ。
 水の精霊たちの笑い声。アイラは涙声でしっかりと口にした。
「……ラティーク。あたしたち、もっとこの大地を愛していかないといけない気がする。いつか、きっと、水いっぱいの……ううん、愛いっぱいの世界になると信じて」
 呟くと同時にあたたかい腕に包まれた。返答代わりのラティークの優しい抱擁に目を閉じた。
 魔法にかかっているから、怖くはない。深く口づけし合った直後、ラティークは万物全てに向け、朗々と声を響かせた。
「砂漠に、世界に誓う! ――大切にする。きみと、僕で作るこの世界を」
 ――レシュの言葉の答をようやく見つけた。
「ラティーク、以前レシュにね。世界は、誰かが誰かを愛することで、成り立ってる。意味わかる? って聞かれたの。あたしはちょっと答えられなかった。でも、今なら答えられるよ。ラティークが、あたしを愛することで、あたしが、ラティークを愛することで、世界は成り立つんだよって」
 ラティークが靜かに手を差し出した。「はぐれないようにね」だって。
 アイラはそっと訊いた。心がはぐれたら、ラティークはきっと探してくれる。でも。
「ねえ、あたしが繋がなかったら、その手、どうするの?」
「――待つよ。ずっとこのままで」
「繋いであげる。ううん、二度と離さないで――……」
 アイラは、差し出されたラティークの掌に、ゆっくりと手を載せた。
 ラティークは返事の代わりに、握りしめた手の力を少しだけ、込めた――。



砂漠王子の愛は∞!~唇から風の魔法の溺愛アラヴィアン・ラブ~《了》

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品