砂漠王子の愛は∞!~唇から風の魔法の溺愛アラヴィアン・ラブ~

簗瀬 美梨架

第五章 ヴィーリビア無敵艦隊3

☆★☆
 水の檻に収監されたアイラの側に、緑の虎がとことこやって来た。アイラはドレスの下に隠したランプを出して蓋を抓んで開けた。シハーヴは水の檻に飛び込み、宙返りした。ランプに飛び込む素振りは見せず、アイラの側にふわりと浮いた。
「すげぇ水の威力。アイラ、いつまでそうして座ってんだよ。こんなとこ、出よう」
「お兄がいいと言うまでよ。完全に闇の心が消えるまで出さないって。そうね、こんな場所出てやる! って思うとね、これよ」
 水は勢いを増して、アイラの部屋をヴェールのように遮断した。清い時間だけが必死に心を浄化しようと蠢いている。
 ――きみはここで、心を浄化するんだ。妹。闇の石を抱えて帰って来たはいい。奴隷として男の元へ潜入など! 闇に冒された証拠だ!
 何が浄化。苛々して、アイラはランプ磨きの手を止めた。突如、シハーヴが虎に戻った。すぐに規則正しい軍人歩きの足音が聞こえてきた。兄のシェザードだ。
「そろそろ頭、冷えたかい、妹」
 アイラはシハーヴを抱き締め、気持ちのない謝罪を口にした。
「おかげさまで。すーいーまーせーんーでーしーたー」
 シェザードは獲物を見つけた鮫のように目を充血させ、アイラを睨んだ。
「奴隷として潜り込んだは真実か、妹! それも、あの、ハレム狂いの第二王子のハレムに参加したという事実は真実かァ!」
「もう、お兄、やかまし」アイラはすっくと立った。こうなりゃ腹いせの兄妹喧嘩だ。
「そうよ。お相手してさしあげたわよ。キスもしたし、された。あたしは未だに彼の虜。魔法かけられてるの! 水の精霊と話をさせて。ラヴィアンに一緒に行ってくれる子を探したい」
 シハーヴはアイラを見、毛繕いを始めた。シェザードは怒りから背中を向けた。
「我が妹ながら、まるで世界や政治が見えていないな。いいかい? 妹。今や精霊は国家資産。我が国ヴィーリビアにこそ、水の精霊の監理権がある。それに、ラヴィアン王国は闇を選んだ国だ。力を貸す謂われはない」
 優しいながらも、冷酷な喋りの前で、アイラは説得を諦めた。態度に満足したのか、シェザードの口調は緩やかになっていった。
「妹、きみは優しい。だが、優しさが仇になる。コイヌールで判るだろう。悪意に染まり、二度と輝かない。無残な姿になっていたね。せっかくの本物も、二度と皆の目には晒せない。王女が、闇の競りで買ったなんて知られたらどうなる」
 アイラは俯いた。シェザードの言葉はいちいち正論だ。むっつりと黙った。
「……我が妹ながら、強情な。おまえに逢わせたい囚人がいる」
「お兄、大嫌い。もう来ないで」シェザードがぐらりと蹌踉けた。「おお、女神よ」と水の祈りで立ち直ると、「囚人を」と扉に合図をする。後手に縛られ、乱暴に掴まれ連れ出された男はスメラギだった。

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