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雪見だいふく

攻城戦『後編1』

「勝負開始!」

 相手のキャラは遠距離攻撃が得意なキャラ。距離さえ詰められれば俺のキャラの勝ち確といってもいいだろう。俺はコントローラーを真剣に連打する。1つの油断が命取りだからな。
 強い……だが、この程度なら距離を詰めて……。っしゃあ!
 第1試合目は俺が難なく勝った。3セット先に取った方が勝ちだ。この調子で勝つぞ!

「本気を出すか」

 仮面の男が初めて普通に喋った。おっさんのような声でなんだか機械音のような気もする。変声機でも使っているのか?

「おい。俺が勝ったら仮面を外せよ」
「……いいよ。俺、強いから」

 なんだ? このプロレスみたいな展開。勝ったら仮面を剥ぐって……。
 カチカチ。
 クソが! 遠距離攻撃でハメて急接近で倒されるとか一番俺が嫌いな戦い方じゃねぇか……正々堂々ガードを駆使し接近戦で戦いやがれよ。

「……面白い。ぶっ倒す!」
「君あっさり負けてるけどね。ふふ」

 こんな感じで第3、第4試合ともに1セットずつ取り遂に決着が付く第5試合になる。

「ふぅ。お前さぁ。端からチマチマチマと遠距離攻撃しか出来ないの? チャンスになったら弱攻撃を入れて引くし……お前、こういうのはなんだけどさ。絶対『ぼっち』だったろ?」

 まぁ、キャラの良さを活かした良い戦い方なんだろうけど。流石に腹立つんだよなぁ。

「ボ、ボ、ボぼっちじゃないんだから!」

 やっぱりこいつ変声機使ってるわ。引き籠りが。俺は人の事を言えないんだがな!

「まぁ次、早くしようぜ」
「い、いいよ……」

 この感じ誰かに似てるんだよな……俺は絶対にこいつの仮面を剥く!
 カチカチカチカチ
 相手の地道な遠距離攻撃。置き技とかそういうレベルを超えてるんだよな……そのキャラだけは。
 ここをガードでしのいで……後は接近するだけだ!

『KO!』

「よっしゃぁぁ!!」

 準々決勝まで来ると流石に強いな……さっきまでここの街の人は格ゲーが弱すぎるのかと疑っていたんだが。

「いいぞー!」
「仮面を剥いでやれー!」
「かっこいいぞぉ!」

 様々な声援が飛んでくる。ほとんど男なのが気に食わないけど。
 まぁいい。俺は宣言通りに仮面を剥ぎに向かう。その仮面はよくあるピエロの仮面。近くに来ないと分からなかったけどこの人、髪が長いな……しかもめちゃくちゃ髪が綺麗。俺は仮面に手を当てる。
 ……仮面の彼? は緊張しているのか吐息が激しい。それが手に当たる。え、エロい。だがこれで俺は誰か分かってしまった……ごめんなさい。ごめんなさい。
 あと、補足として付けておくけど吐息で分かった。って変態ではないからな。

「いきま……す」

 それと同時に歓声が上がる。
 俺は仮面を思いっきり剥いだ。やっぱりあなたか。

「こっ……こ、こ、こ、こ、これは! そう。君に話があったのよ!」

 可愛い。だとか、鉄菜界のニューヒロイン。だとか俺とは明らかに違う対応が見られた。勝ったの俺なんだけどな……。
 俺は小声で彼女に話しかける。

「どうしたんですか……何故あなたがここに」
「話があるの! いいから2人っきりになれる場所に!」

 彼女は素のままの姿でそんな事を言ってしまう。

「ヒュー! ヒューヒュー!」
「爆発しろ……」

 これが小学生からリア充になるようなやつの気持ちか。ある意味いい体験ができたな。ありがとう! だが、こんな所でそんな思いに浸っている場合ではなさそうなのだ。
 とりあえず彼女の言われた通りに2人っきりになれる場所を頭で考える。

「トイレ!」
「……?」

 俺が急にそんな事を叫び始めたので、皆がこっちを向いてくる。最近、小学生みたいなイベントが多いな。

「ははは。はぁ……トイレ行ってきてもいいですか?」
「いいですが……」

 この世界の中ではトイレなんて行かなくてもいいのだ。だから大会の運営の方も戸惑っていた。
 俺は壇上から降り彼女の左手首を掴みトイレのある位置まで連れていく。

「……ゴムはつけろよ」
「……残虐ね」

 そう。この世界でトイレに行く目的なんて……しか無いのだ。いや、違うんだよ!?
 大会で盛り上がっているので誰もいないような廊下を歩く。度々、歓声の様なものが聞こえてくる。他の部屋でも俺らと違う奴らが大会をしているのかな。とも思う。俺みたいな変人が他にもいて欲しいな。ていうか、この世界のせいで外に出れなくなりました。って人多そうだな。
 女子を目の前に俺が1人で考え事をしながら手首を握り連れていこうとしているので恐怖を感じたらしい。彼女は怖気づいたようだけれど、それと同時に少し嬉しそうな声で、

「あ、あ、あのさ……2人っきりといってもするわけじゃないよ?」
「知ってるわ! ばっ、馬鹿かお前は!」

 俺はそんな彼女を連れトイレに到着する。

「な、なぁ。ここまで来たのはいいんだけど、トイレの前だと。余計人目に付かないか?」
「誰もいないから聞かれないよ……」

 男子トイレの方から、

「あっ……んっ……あぁんっ」

 という声が聞こえてきた。あの……めちゃくちゃリアルなんですが。どうしろと? 俺の大きくもないポッキーが反応を示す。2人っきりでこれとか本当に辞めてください。

「あははは。今のは聞こえなかったことにしようぜ。な?」
「う、うん……」
「よし。じゃあ、『鈴奈』話を進めるぞ。まず、1つ目。何故お前がここにいる? 俺を連れ戻そうたって部屋から出ないぞ?」
「そ、そんなドヤ顔で言われても……私が来た理由。それは翼を助けるため。あの日から全く帰ってこないの。仲間として心配じゃないのっ? 今、現実世界で陽葵と学さんが情報を集めている。だから、私はゲームが上手いって事でこっちの方の担当になったの。君ならこの大会に絶対出るとは思ったし!」

 鈴奈はきっと前回来た時にこの大会に1度でも参加していて大会のルールは分かっていた。という事かな……。で、翼が遭難してて帰ってこないと。

「そういう事か……だが、それなら俺なんかいない方がいいと思うぞ?」

 正直言って俺みたいな雑魚は迷惑をかけるだけで意味が無い。

「おっ、お前が作戦を考えないでどうするんだ!」
「学さんとか……? 俺はつ・ま・り戦力にならないってことだ! 気が向いたら行くから、な?」

 翼がこんな所で死ぬとは到底思えない。だって、あいつだぞ? あんなに強いんだぞ? 山を壊してでも助かろうとするし、かまって欲しいだけだろ。俺は信じているからこそ格ゲーをするんだ。
 と、都合のいいことを頭で並べて意地でも大会を終わらせようとする。

「流石のクズっぷりね……私が間違っていたか。じゃあ絶対に来てよね! 待ってる……かもしれないから!」
「あぁ。任せろ。こんな大会さっさと終わらせてやるよ」

 と、手を振り。彼女は大会のフロントのある場所に走って向かった。彼女は先に翼探しの情報収集にでも行ったのだろう。
 俺は会場に戻る。

「彼女に何をした……」
「いないけど……はぁ。クズね」

 みたいな罵声をめちゃくちゃ受けた。クズと言われる所はそこじゃないんだよ!
 何俺はムキになっているんだ。とりあえず大会を終わらせるんだろ? 集中しろ。自分。
 モヤモヤした気持ちで俺は大会に挑んだ。

取得スキル
皿洗いの極意 出前の初級術

カルビ名人 焦がし焼きマスター 山葵鼻つめ リーフターン 玉ねぎボンバー 土下座フラッシュ(晴れの時だけ使用可能)

迷惑客の対処 愛想笑い 協調性 驚き対策 ロリコン対策 ジャパニーズソウル 無神経

おトイレの付き添い 遊園地の支配

つまようじ回避マン

お色家 変装『舞妓』

地球のゲームでもあったようなレベルの煽り 
演技『狂人』 主人公補正 騙される弱抵抗力

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