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襲撃
メタルジュエルワームが光の粒子となって霧散していくのを見届けたヒロキがドサッと地面に倒れこんだ。
「ヒロキ!?」
「大丈夫だ、疲れただけ」
いきなり地面に倒れたヒロキを見てちょっと焦ったが、疲労によるものだとわかり安心した。
「二人もやられるとは思わなかったよ」
「だな」
ヒロキが地面に倒れこんだのを見て緊張の糸が切れたのかヒロキに続いてレイもその場に座り込む。私も【《神獣降臨》】を解除してレイの横に移動して座った。
メタルジュエルワームには勝てたが、私はリンとシュンがデスペナになったことで気になったことをレイに聞いてみた。
「ボスは倒せたけど、倒す前にデスペナになった二人ってどうなるの?」
「デスペナになった二人はフェンハイルの教会に戻っているはずだ。」
「またここのボスに挑まないといけないの?もしそうだったら二人が倒せるまで私も付き合うよ」
私が「手伝おうか?」と伝えたら、ヒロキは少し考える素振りをしてから口を開いた。
「…いや、マチに手伝って貰うわけにはいかない」
「え、なんで?!」
てっきり「ありがとう」「助かる」って言われると思っていた私はヒロキに必要ないって言われて驚きで目を見開いた。私が手伝ったら迷惑?と思って落ち込んでいるとレイから「違う違う」って言われて私は顔を上げた。
「ごめんごめん勘違いさせちゃったよね。別にマチがいらないってわけじゃないのよ」
「そうなの?」
「ああ、ここのボスを俺たち4人で倒せるようにならないとだめだ。闘技場イベントで優勝したマチが一緒に戦うということで油断していた俺たちの怠慢だ。二人がやられたのはなんとかなるだろうと気が緩んでいたからだ。マチに手伝って貰ってやっと倒せるようじゃ次に戦うボスには勝てないと思うんだ」
「今回はマチが手伝ってくれるから大丈夫っていう油断があったものね。マチがいなくても勝てるようにしなくちゃね」
「それに、シュンやリンもマチに手伝って貰わなきゃ勝てないって言うのは気に食わないだろう」
「そうね」
「…そっか」
そう言ってニィッと笑う二人につられて私も笑った。
確かにここに来るまでにシュンは穴に落ちたりと油断していることが多かった。それにリンとはボス戦闘中にハイタッチとか交わしたりした。ヒロキやレイの言う通り、普段ならこんな油断はしていなかったんだろう。
そこまで言われちゃ仕方がないかな。私も常にみんなと一緒にできるわけじゃないからね。ここは頑張って4人で倒してもらおう。
「と、言うわけで俺たちはまた一旦フェンハイルに戻るぜ」
「あれ?次の街まで一緒に行かないの?」
「ああ。俺たちだけ抜け駆けしてるみたいでなんかな」
「そっか。じゃあここでお別れだね」
「ここまでありがとうねマチ!」
「私も一緒に出来て楽しかったよ!またね!」
「ここ最近プレイヤーが何者かにやられてる噂が出てるから気を付けろよ。新手のPKかもしれない」
「うん、わかった気を付ける。ヒロキたちも気を付けてね」
「うん!」
「おう!」
ヒロキたちと別れた私はボス部屋の奥へと続く扉を開き、中へと入っていった。
坑道の中はメタルジュエルワームにくっ付いていたジュエルと同じようなものが所々壁から突き出しており、坑道の中の光源である淡く光る鉱石の光がそのジュエルに反射し、幻想的な光景になっている。淡い光を反射して輝いているため、キラキラしているが眩しく嫌な光ではない。
その光景に目を奪われて立ち止まってしばらく眺めていたが、次の街へ行くことを思い出してまた歩みを進めた。
(あぶないあぶない目的を忘れてずっと眺めてたよ……。でも、きれいだったな~。また来る機会があったら寄ろうかな。……あ!レイたちにウユラン塩湖に今度一緒に行こうって言うの忘れてた!まぁいっか…今度いつ合流する時に誘えばいっか!)
私はグッと拳を握りしめて次に会った時こそ誘うことにしようと決意して坑道の中を突き進んでいった。
◇
「よし、そろそろ俺たちもここから出るか」
「そうね、シュンたちも教会の前で待ちくたびれてることだろうしな」
ヒロキたちはマチと別れた後、その場でしばらく休んでからボス部屋を後にした。
「メタルジュエルワームは火が弱点だから……」
「強力な火属性がいなくなったからチマチマと削るしかないな」
「そうね、あの銀の膜を剥がさないとこっちの攻撃は全く通らないものね」
「そして膜を剥がす最中に跳んでくるあの攻撃にも注意だな」
「うん、あの攻撃でかなり痛手を受けたからね」
「メタルジュエルワームの身体が全部地上に出てきたら要注意だ………」
レイと二人でメタルジュエルワーム攻略についてどうするかああだこうだと話し合いながら、崩れた瓦礫を上り、穴から脱出してもと来た道を戻っていた。
「やっと出れたな」
「もう夕方なのね」
「かなりの時間あそこにいたみたいだな」
二人が坑道から出た瞬間、ゾクッとした感覚と共に声が聞こえた。
「……ググググググ、彼奴の力の波動感じて来てはみたものの……外れか」
「誰だ!」
バッとヒロキが振り返ると坑道の入り口の上に一体の狼型のモンスターが立っていた。
「モンスターか!」
「ググググググ…我の名を知りたいのか?いいだろう、我の名はアヌビス」
「モンスターが喋っているのか…」
まさか言葉を発するとは思わず口を開けて唖然としていると「我が言葉を発するのがそんなに不思議か?人間よ」と話しかけられた。
「ググググググ……まぁ、そんなことはどうでもいい。我は貴様等に問う。この坑道の辺りで神獣の力の波動を感じたのだが心当たりはないか?」
(神獣の力だと?……まさかマチが使っていたスキルのことを言っているのか?……だとしてもマチは大事な仲間だ。仲間を売るようなことはしない!)
レイをチラリと見てみると、こちらの視線に気づいて振り返ったレイも同じ意見のようで軽く頷いて返した。
「……心当たりがないな」
奴の発する負の気配に中てられ、ヒロキは冷や汗を流しながらそう答える。
答えを聞いた奴は少しだけ時間を開けた後、ゆっくりと口を開いた。
「ふん、我を騙そうとしても意味はないぞ。我の目には貴様等についている力の残滓がはっきりと見えておるのだからな!もう一度問おう……貴様等についている力の残滓に心当たりがあるだろう?」
言葉が断定的な物へと変わり、次はないぞと告げられる。
奴の身体から発せられる負の気配が更に強くなり、体の芯が冷たくなっていくのを感じる。
(ここでマチの情報を奴に教えたら楽になれるはずだ。……だが、俺は仲間を売るような真似はしない!)
「へ、お前に教えてやることなんか一つもないな!」
「誰がお前なんかに教えてやるもんか!」
ヒロキは自分の冷たくなった拳を握りしめて言葉を発する
レイが下を出してベーッとやると大人しくしていた奴の顔に青筋が浮かび上がった。
「我が下手に出ておれば……よかろう、たかが虫けら程度に期待した我がバカであった。もう貴様らは用済みだ!消えるがよい!【《邪風咆哮》】」
「……ふん!大人しく吐いていれば見逃してやったものを!人間風情が調子に乗りおって!…彼奴の力の残滓はもう感じられぬか。ググググググ、まあよい……」
アヌビスと名乗った獣はヒロキたちが光の粒子となってどこかへ飛んでいくのを見て一瞬訝し気になったが、すぐに興味を失いどこかへと去っていった。
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