ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし

ノベルバユーザー173744

36……リティの欲しいものとローズさまの恐ろしい幼馴染たち

 リティは王宮にいる間に、外国語や歴史などを特に勉強している。
 静養中の兄のデュアンがほとんどを見てくれる。
 そして、マナーレッスンは今回来てくれたウェイトたちが見てくれるのだが……。

「……ダメだ……と言うか、こんな小さい足にハイヒールは履かせられない。骨が柔らかすぎる」
「と言うか、14だが?」
「骨格が出来てないんですよ!しっかりと。今、この状態でハイヒールにコルセットなんかさせると、骨が歪みます。今は普通の革靴とかしっかりとした靴に、ワンピースなどの普通の服や半ズボンなどを着せて庭で遊ばせたりした方がいいと思います」

 今日は男装のウェイトから即ブブーッと、レッドカードが出される。
 その横でデュアンの主治医のアルスも頷く。

「この間も実際逃げる時に足をひねってた。細い手足に足首じゃ体重は軽いが、ドレスや装飾が負担になる。主治医として俺も反対する。それに、この身長で体重が21キロ。フル装備させてみろ。装飾の方が体重の半分になる。目を離してみろ、前回は誘拐だったが、今度はすぐに疲れて倒れて、アホの変態に連れ去られて美味しく頂かれるぞ」
「アホの変態?戴く?」

 キョトン?

首をかしげる。
 カイは、にっこりと、

「えっとね?姫。気にしなくていいよ?先輩たちは姫のドレスは可愛いけど、もっと可愛いドレスを考えてくれるって。優しいね?」
「はい!でも、一杯一杯頂いていいのでしょうか。リティは、何の取り柄もなくて、クッキーとか作る位で……」
「と言うか、姫は賢いし、逆にもっと甘えた方がいいよ?我が儘言ってもミューゼリックさまだって怒らないでしょう?」
「……パパたち、リティ……嫌いになったりしないですか?それに、甘えるって抱っこもしてくれるし、パパもママも忙しいでしょう?」

心配そうな声に、ミューゼリックは、

「我が儘言っていいぞ?何か欲しいとか、どこか行きたいとかあるかな?」
「えと……パパとママとお兄ちゃんとお出かけしたいです。手を繋いでピクニック……」
「他には?」
「ママとお昼ご飯作るので、お兄ちゃんとミカたちと追いかけっこして、遊びたいです。ダメ……ですか?我が儘……」

ウルウルと瞳を潤ませる娘にため息をつく。

「パパはもっとドレスが欲しいとか、絵本が欲しいとかかと思ったんだが……」
「ドレスは一杯あります。絵本はお兄ちゃんのお屋敷に、ティフィお兄ちゃんたちの書庫にあるので貸してくれるのです。あっ!」
「何か欲しいのもがあったか?」
「えっと、お家の仕立て直して余った布を下さい。パッチワークにして、ミカたちのソファのマットを作るのです」

 娘の一言に、何か本当に欲しいのだと待っていたミューゼリックはがっくりする。
 まぁ、古着の端切れは捨てるのは勿体ないと、妻のアリアやメイドたちも小さなものだとコースターにしたり、大作だと今回のようにベッドの上掛けやマットなどにするが、娘に頼まれると残念である。

「えっと……パパは、リティの14歳の誕生日がもうすぐだから、何か特別なものを贈ってあげたいんだ。何か欲しいかな?と思って」
「えっ!誕生日!」

 実の弟と一緒に、ついでに弟がメインで余り物を受け取る羽目……弟が全部欲しいといえばプレゼントは無しになる……に陥っていたリティは、父と周囲を見回し、頰を赤くして、

「あの……我が儘……言っても、良いですか?」
「できる限り叶えるぞ?パパは」
「えっと……あの……昔、シェールドにおじいちゃん達と行った時に、とってもこじんまりしているけれど白い壁に屋根がパステル色の綺麗な街に行ったんです。そこで、おじいちゃん達にリボンを貰ったのです。普通の薄いリボンじゃなくて刺繍のように色々な色が縫いこんであって、お花とか、動物とか……大事にしていたのですが、捨てられたのです……」

項垂れる。

「同じリボンはないのは解るのです。でも、リボン……今度こそ大事にするので、パパ頂けませんか?」
「リボン?それ位幾らでも!」
「ちょっと待って下さいよ」

 ウェイトは声をかける。

「多分パステル色の街というと、カズールです。カズールのリボンテープは、シェールドの大祭に使われたり、恋人に、生まれた赤ん坊に贈るものになります。普通にお店で売られていますが、専門の職人もいて、一般のリボンテープ以外に、ある程度の身分の人間には専門のデザインが施されていて、職人の所に、注文はなくても15年はデザインと注文した人、送った相手などの記録が残されているはずですよ。姫?おじいちゃんと言うと、実のおじいちゃんのルイス卿だよね?おじいちゃん以外に一緒に誰か行かなかったかな?」
「えっと……リー伯父さまと、青い目と青い髪の綺麗なお兄様と、銀色のような金髪で、前髪がひとふさだけ青い髪で、瞳が青いお姉さまです。お姉さまにそっくりな蜂蜜色の髪と緑色の瞳のお兄様もいました」
「……」

 ウェイトは遠い目をする。

「お兄ちゃん……無理ですか?」
「いや、大丈夫と言うか、お兄ちゃんの幼馴染に頼むから大丈夫だよと言いたくなっただけ……うん」
「ウェイトお兄ちゃんは、幼馴染さん多いんですね」
「親戚というか、お兄ちゃんの家はマルムスティーンの分家で、本家の屋敷がシェールド王宮の次に広い屋敷なんだ。一般爵位を持つ家で、地域に領地を持つ家はここでいうデビュタントなどの社交ではシェールダムの邸宅に滞在するけれど、王都で職を持ち、王宮などで働く者は王都に屋敷があるけれど、五爵と呼ばれる国王陛下に忠誠を誓う一族は領地には屋敷があっても、王都ではマルムスティーン家以外には屋敷がないんだ」
「えっ?」

 リティは目を丸くする。

「マルムスティーンは元々子沢山の家系で、屋敷を構えていたけれど、ある頃カズール家の当主の弟が婿養子にマルムスティーン家に来たんだ。……カズール伯爵になった兄は歴史に名前の残る剣士だったけれど、ものすごくお人好しで、お金を貸したり、友人に騙されて借金したりで、最後に騙されて印鑑を押した書状が当時シェールドでも最も美しく、王太子の婚約者に内定していた娘を金持ちで5回離婚歴のある馬鹿な男爵の嫁にすると書かれていて……。婿養子に行っていたものの、実家を誇りに思っていた弟は、兄の本当に人の良さに呆れていたものの、関係ない姪の幸せを奪う、その上カズール家は王家とマルムスティーン家と共に、歴史が古い一族でね?その一族を騙したとマルムスティーン家が徹底的に仕返しをしたんだ。他の家も騙していたこととか、一族で自殺した家もあった。それを法務を担当するヴェンナード家と国王に上申して、特に王太子は恋人を愛していたから即安全な王宮に連れて帰り、当時の国王陛下に、兄のカズール家当主は『本当に情けないことをしてしまった。爵位を譲って隠居したい』と言い出して……ちなみに当時、カズールの家には借金のカタに連れ出されそうになった娘以外に、生まれて間もない嫡男だけで、陛下もマルムスティーン当主も反対したんだ」
「どうしてですか?」
「もし、成人した……年もとっていない当主が赤ん坊に爵位を譲れば、また今回の二の舞になる。それを避けるために、弟であるマルムスティーン侯爵が兄は騎士、剣士としての実力や采配は完璧で生真面目さは類を見ないのだから、爵位はそのままに、カズール家の生活に必要な領地の管理や財産の管理はマルムスティーン家に任せて欲しい。王都にあるセカンドハウスは処分し、王都のマルムスティーン家の屋敷にカズール家の棟を準備する。それでどうだと。元々、呑気な伯爵は、面倒な財産問題とか、誰かに騙されるのはもうこりごりだと弟に任せられると逆に嬉しそうにしていたらしい」

 その話題を知らなかったミューゼリックは唖然とする。

「カズール家は金、マルムスティーンに握られてるのか……」
「と言っても投資で増やしているので、現在の当主のシエラも知らない位増えてますよ。外国の国債も……こちらのもたんまり買ってますし、リールの国債を最高額購入しているのは、シエラの娘です」
「買い物とか……」
「高額なものはマルムスティーン家に相談。普段は騎士の収入で十分賄ってます。その収入の余りをシエラは自分で投資して、こっちに、元パルスレット公爵邸あったでしょう?あれを買い取って、ホテルというか外交官用の宿泊施設にしたんですよ」
「あれかぁぁ!しかも、デカイし、この国の迎賓館作らなくてもいいって兄貴は喜んでたが、あの大邸宅を買い取る小遣いってどういう手腕だ!」

 ミューゼリックは頭を抱える。



 この国一の天才であり天災は兄のリスティルだが、シェールドは色々なタイプ……特に破壊系……の天才が多い。
 その1人が、現在の国王兄弟に現在のマルムスティーン侯爵を育てあげ、同年代だった目の前のウェイトやカイたちを鍛え上げ、騎士にした現在のカズール当主のシエラシールである。
 幼い頃から頭脳明晰でも知られ、剣をもたせたら、6歳ですでに大人が出場する剣士と下級騎士の競技会で優勝を総なめにした。
 術は教えてもいないのに見よう見まねで幾つかの高レベルの術を操り、屋敷を半壊、伯父のマルムスティーン侯爵は頭を抱えたが、術師の祖父は面白がり、次々に術を教え込んだ。
 それだけではなく、シェールド1の最高学府である大学院に5歳で試験を申し込み、全て満点を叩き出したが年齢が幼すぎると入学を許可されなかったと言う。

 そしてそのシエラシールが英才教育を施したのが、従兄弟の子供で現在、自分の娘婿のリュシオン・フィルティリーア。
 素直でシエラシールの説明をまるで雨を吸収する土のように記憶し、剣術も術も見て覚えたリュシオンは、大好きなシエラシールに一つだけお願いをした。

「にーたん。フィアねぇ?おっきくなったら聖騎士になるの。そったら、にーたんのお家にお婿しゃんになるからね」
「えぇぇ?」

 まだ3歳の幼馴染である。
 そして聖騎士は騎士になりそれなりの功績を残し、高位の騎士たちと聖戦とも呼ばれる騎士たちの大祭のラストを飾る戦いの最終5戦を、最低でも3回は出場しなければならない。
 最終5戦の対戦相手は聖騎士であったり、7つある騎士団長でも強い人物たちである。
 シエラも実は非公式ながら騎士団長たちと戦ったことがあり、まだ10歳にもなっていないこともあり負けて泣いて帰ってきた程である。
 それでも、騎士団長たちは自分の子供と同年代、もしくは年下のシエラシールの剣術の腕に驚き、将来を期待していたりしていた。

「フィア?聖騎士になるのってとっても難しいんだよ?フィアのパパのシルゥ兄様や、僕の兄様のリュー兄様やルード兄様に、フィアのおじいちゃんのエディ父様も聖騎士だけどね?僕もなろうと思うけど」
「フィアもなるもん!」
「でも、フィアはシルゥ兄様の息子だから、マルムスティーン侯爵になるんだよ?それにお兄ちゃんは、爵位はないから騎士の一代爵位の男爵だけ。マルムスティーンの子が、養子になるっていうのは身分的にも無理だよ?」
「やだもん!やだもん!フィアはにーたんのお家のお婿しゃんだもん〜わぁぁん!」

 泣き出したフィアを抱き上げ、必死に兄たちに訴えたが、フィアの父のシルゥが、

「夢を見たんだって。クリクリの瞳で、ふわふわの髪をした可愛い女の子の夢。『君は誰?』って聞いたら『カズールのお家から迷子になった』って泣くんだって。お家に連れて行ってあげるって言ったらニコって笑ってくれて、で、カズールって言っても、そんなに親族いないのに、どこの子だろうって『パパのお名前は?』って聞いたら、『シエラシール』って言ったらしいよ」
「僕の娘〜?何で?まだ3歳だけど、フィアは顔覚えてるよね?何で『君は誰?』」
「お目目チェナベリーみたいな色だったもん。髪の毛はふわふわの銀じゃなくて、白い髪。可愛かったんだもん!だから、『お嫁さんになって』って言ったら、『カジュールのお家、とーちゃがむーちゃんのお婿しゃんがあとちゅぎだから、お嫁ちゃんちあうっていったの。おとといおいでってとーちゃがいいなしゃいって、あ、違うのでしゅ、ごめんなしゃいっていいなしゃいってゆってた』って、わーん!にーたんの意地悪ぅぅぅぅ!」

びえびえ泣く息子を抱き上げたシルゥが苦笑する。

「一応、夢見の可能性があるって、お祖父様に見て貰ったら、はっきりとは言い切れないけど、未来の一部を見た可能性があるって言ってた。まぁ、子供の言うことだけど、シエラも自分の昔はこうだったと思って諦めるんだよ?」
「そんなぁ……僕、婚約もしてないし、子供だって解らないのに、どうするの?あ、爵位をお小遣い貯めて買うとか……」
「こら、シエラ。そう簡単にお小遣いでそんなもの買えないよ」

 兄の当時のカズール伯爵リュシオン・エルドヴァーンが弟をたしなめるが、

「大丈夫だよ。僕、兄様みたいに借金国庫200年分とか作るの嫌だから、兄様の仕事の手伝いしながら王宮でバイトしてるもの。それをエディ父様にお願いして投資に回してるもの。多分……兄様のお小遣いよりも多いと思う」
「私の小遣いより多いぃぃぃ?」
「うん。僕、兄様みたいにお金ばらまくより、堅実に生きたいからね、うん!」

 えっへん!

 胸を張る年の離れた弟の一言に、落ち込んだリュシオンだった。



 その後も財産を正規の手段で増やしていき、そして、ミューゼリックの兄のリスティルが豪遊し借金を重ねる次兄の屋敷を取り上げた時に、丁度来ていたシエラシールとその婿養子のフィアは交渉し、自分たちの別邸と自国や他国の人間が滞在する迎賓館兼ホテルとして買い取ったのだと言う。
 一応下品な外観は叩き壊し、ケバケバしい家具などは全てパルスレット公爵家に買い取らせ、シェールドからだけではなく、この大陸中を巡る商人から一流のものを集めて貰い、外観は国内、そして、廊下などは均一に整えているものの、スペースごとに様々な国の工芸品などを飾ったりと手を加え、ホテル兼迎賓館としてオープンさせた。
 外交官などが宿泊するだけあり高級なホテルの為、さほどお客は入らないが、外交官が宿泊しない時期には一般に美術館として低価格で開放し、庭にはオープンカフェなどもあり盛況である。

 ちなみに結婚式場にも利用され、リスティルの娘たちやクシュナ夫婦の披露宴兼立食パーティもそこで行われた。



 ウェイトは、

「まぁ、姫。幼馴染を通じてリボンの職人を探して、一緒にラルディーン公爵家の紋章入りリボンも頼んでおくから、数日待っていてくれるかな?」
「お、お願いします。な、なくても……似たようなリボンでも構いません……」

目に涙を溜めたリティに頭を下げられ、即、その場で手にしていた『携帯用水鏡』で、フィアに連絡を取る。
 説明すると、揺れる水面の向こうから声が聞こえる。

『ちょっと待って?兄様。兄様が言っている子は、前のラミー子爵ルイスさまの孫のマリアージュ殿だよね。彼女に最後に会ったのは8年前で、当時の職人も解るよ?多分予備というか、こう言ったものを作ったって言うのも残してるはずだから、それならすぐに送れると思うよ?』
「そうか。それと、ラルディーン公爵家から依頼で、そのリボンと、ラルディーン公爵家の紋章入りリボンも注文したいらしい。よろしく頼む」
『はーい。じゃぁ、行ってくるね』

 水面が揺らぎ、姿は消えた。
 ウェイトは、

「まぁ、遅くとも10日でくるな」

と呟いたのだった。

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