ルーズリアの王太子と、傾いた家を何とかしたいあたし

ノベルバユーザー173744

9……リティの家族

 ファティ・リティ……リティが目を覚ますと、何故か家から連れ出してくれたティフィが二人いた。

「何で〜?良いでしょ?ミューずる〜い!」
「父上。病人ですよ。騒がないで下さい」
「ティフィ……最近、可愛くない。うにょーんの刑だ!」

 手を伸ばし頰を摘もうとするのをすり抜け、

「全く、父上!もう、良い歳でしょう!子供じみたことはやめて下さいませんか?」
「か、可愛くない!琥珀ちゃんの血は何処にあるの?誰に似たの?」
「鏡を見て下さい。私も不本意ですが父上に似てしまいました」
「ムキ〜!琥珀ちゃん!ティフィリエルが虐める〜!」
「あら、良かったわね?最近遊んでくれないって拗ねてたものね。遊んじゃいなさいな」

 こちらは、ベッドから離れたソファに腰を下ろした女性5人。
 何かを熱心に見入っているらしく、返事も半分以上そっけない。

「酷いっ!わーん、ミュー、デュアン。息子が冷たいよ〜!」
「いい加減、子離れしろ。兄貴」
「あ、ラディエル、お菓子食べる?」
「うん!デュアンお兄ちゃん、ありがとう」

 ミューゼリックとデュアンリール、そして10歳位だろうか、男の子がいる。
 クッキーを渡していたデュアンリールは、リティに目をやり微笑む。

「あ、騒々しくてごめんね?伯父上の家族が来てて、伯父上とティフィがいつものようにやんちゃ始めてね」
「ガーン!デュアンリールにまでお子さま扱いされた〜!」
「父上が子供なんです。全く」

 ティフィリエルはため息を吐くと、

「ごめんね?本当はレディの寝ている部屋に、許可なく侵入は良くないと分かっているけれど、母と妹達がドレスと装飾のデザインをあれこれ早目に送っておくって言うものだから……」
「送っておく?」
「あれ?兄さん言ってなかったの?」
「安静第一。どうせ僕よりも姉様やマシェリナ、ミシェリアにナディアラの方が解るでしょ?」
「まぁ、そうだけど。起きて大丈夫?」

 ティフィリエルの問いかけに、リナとレナに手を貸して貰い身を起こしたリティは、頷く。

「は、はい。大分調子が良くなりました。ティフィリエルさま、そして陛下。妃殿下。ありがとうございます」
「はいはーい。リティ。私のことは昔はお兄ちゃんって呼んでたけれど、伯父さんって呼んでね?リティのパパのミューは私の弟だからね?で、ティフィリエルのことはお兄ちゃん。琥珀ちゃんのことはお姉ちゃん……になると、マシェリナ、ミシェリア、ナディアラは……うーん」

 ラディエルを抱っこして近づいて来た兄のデュアンリールが、微笑む。

「あ、知らないかもしれないけど、ママと姉様……ティアラーティア妃殿下は、叔母姪なの。ママのお姉さんが姉様のお母さん。伯父上とパパは兄弟だけど、ママと姉様が叔母と姪だから私は姉様って呼んでるんだ」
「そ、そうだったのですか。知りませんでした。でも、ママは金髪で、ティアラーティアさまは深紅の髪ですね?」
「ママは、貴方のおばあさまに似たのよ。元々私の実家は『紅』の髪なの。父も兄も姉も見事な紅の髪だったわ」
「『紅の狼』のお話をおじいちゃんに聞いたことがあります。誇り高く、家族思いの狼。シェールドにはドラゴンがいるけれど、この国には『紅の狼』がいるって」
「滅ぼされた家ですけどね。ママの実家よ」

 目を丸くする。

「……父親だった人が自慢していました。早くに亡くなったおばあちゃんがその血を継いでいるって」
「分家というか、先祖が嫁いだ先にごく稀に先祖返りするようなものだ。血は薄い。その程度で自慢とは、程度が知れているな。あ、それと、リティ。リティのパパは私だから。父親だった男のことは忘れるといい」

 ミューゼリックはこんこんと言い聞かせる。

「そして、一応ちゃんと紹介するな?こっちがこれでもパパの長兄のリスティル。で、少しだけ目が大きい以外に見分けがつかない、遺伝子の恐ろしさを持つのが、兄の長男のティフィリエル。これでも、リー兄貴は俺より10歳上。ティフィリエルは、デュアンリールの7歳下だからちょうど30歳だ」

 娘を抱き上げ、そして歩いていく。

「で、デュアンと遊んでいるのは、兄貴の末っ子のラディエル、8歳。ラディエルは母親に似ているんだ」
「お姉ちゃん。こんにちは」
「ラディエルさま、よろしくお願いします」
「リティ。従兄弟にさまづけはなし。基本年上には敬語やお兄ちゃんお姉ちゃんだが、ラディエルは従兄弟だからラディで良い」
「は、はい」
「で、こちらが、ママにママの姪で、兄貴の嫁のティアラーティア。ティアラと呼んでいる。で、兄貴とティアラの長女のマシェリナ……シェリナと、次女のミシェリア……ミシェル。三女のナディアラ……ナディアは先月結婚したばかりだよ」

 空いていた一人がけのソファに、娘を抱いたまま腰を下ろす。
 大柄なミューゼリックの膝にちょこんと座る形のリティを見て、3人……国王夫妻の嫁いだ娘達が色めき立つ。

「まぁぁ!叔父さま。リティちゃんってなんて可愛いの」
「本当!羨ましいわ」
「どうしましょう!こんなに小柄で可憐で可愛いなんて想像も出来なかったわ。お母さま、叔母さま!もっとドレスを選びませんこと?」
「ドレス?えと、パパ。デビュタントのドレス……」
「いや、それだけじゃなく、まだデビュタントが最大のイベントだが、今年はデビュタントと2、3の大きなパーティと王室の森で、女性は散策にピクニック。男は馬の競争や談笑をするのと、レディを馬の前に乗せて歩くんだ。これだけは最低でも出なくてはならない。それ以外は兄貴の許可を貰っているから出席を控えるが、来年からはもっと出て貰わないといけない。それに、騎乗用の服も何着か揃えないとな。馬を御する為にはドレスは慣れないと大変だ」

 リティは唖然とする。

「パパ。もしかして横座りですか?私の馬は……」
「あぁ、男装して乗っていたのだろう?その為の服も当然揃えるとも。公ではドレスでデュアンやティフィリエルの前で横座りになる。大丈夫だ。二人共ナムグにも馬にも乗り慣れているから」
「でも、良いのですか?」

 おずおずと父と兄、従兄を見る。

「パパ。お兄様やティフィお兄様は同伴される方が……」
「あ、僕は家族以外ダメなんだよ。と言うか、婚約してるからね」
「婚約……聞いたことがないです」

 それに筆頭公爵の嫡男の結婚なら話題に上る筈である。

「あ、僕の婚約者は、シェールドの国王陛下の姪で、今年7歳です。デビュタントの後に向こうに行く予定なんだよ。その時に会えるよ」
「そうそう。前々から決まっていて、二月程滞在することになっているんだ。あ、アリアもリティも一緒だぞ?」
「えっ!シェールドに、行けるんですか?もう一度?」

 ミューゼリックを振り返り、目を輝かせる。
 その嬉しそうな……周囲から見ると破壊的なまでの愛らしい笑顔にデレっとなり、

「あぁ。私たちには、ほぼ決められたことなんだ。私たちは公式に赴くから、向こうから竜が迎えに来てくれる。兄貴とデュアンリールも行かなきゃならないが、パパやデュアンは外交官として、それに、シェールドの王家の姫の婚約者としてでもあるから、でも、兄貴たちまでいなくなったら大騒ぎだ。兄貴は別の方法で行くことになる」
「パパ!お母さん、挨拶出来る?お会いできる?」
「あぁ、リティのことを心配していた。時間を見つけて会いに行こう」
「パパ!ありがとう!」

ミューゼリックの胸に抱きつき、嬉しそうに笑う娘に、

「リティは本当に可愛いなぁ。よーし、じゃぁ、パパが何かを買ってあげるぞ!何が欲しい?」

その言葉に考え込んだリティは、恐る恐る答える。

「パパ。やっぱりちゃんとお勉強したいです。私、本当はレディ教育も、勉強もろくにしていなくて……計算だけが得意で、言葉遣いもなっていないです。デビュタントに間に合う筈がないと思います」
「うーん。勉強は長期に学べば良い。それにデュアンや、ティフィがエスコートするから、最低限のマナーで大丈夫だ」
「でも、肌が黒くて、日に焼けてて、不細工です」
「それは健康的……はぁぁ?不細工って」

 ミューゼリックは叫ぶ。
 膝にちょこんと座っている、可愛い娘の口から聞こえたのは……。

「わ、私です。あの、ママやお兄ちゃんや、伯父上方はとってもお綺麗で、でも……やっぱり、お兄ちゃんやティフィお兄様にご迷惑で……」
「それはないよ」

 デュアンリールは妹に近づき、頬を撫でる。

「お兄ちゃんは、リティのエスコート絶対したいもの。お兄ちゃんは基本一緒にいるけど、お仕事関係でいない時は、ティフィの側に居てね?」
「ご迷惑じゃ……」
「いや、逆に、私の方が迷惑をかけるかもしれない」
「ティフィお兄様?」
「私は言われ慣れているし、父もそれにシェールドの国王陛下方を見慣れているから気にしないけれど、私のことで色々言われるかもしれない」

 リティは考え込み、ポンっと手を叩く。

「あ、ティフィお兄様がかっこいいから、私みたいな不細工が一緒にいるなとかですか?」
「え〜と、リティ。自分を不細工と言うのはやめよう。リティは私から見ても、従姉妹とかのひいき目抜きで、お人形のように可愛いから」
「えぇぇ?パパ!ティフィお兄様が!」
「パパもそう思うぞ。リティは本当に可愛い。パパの自慢の娘だ。不細工じゃない。そんな悲しいことを言わないでくれ……な?」
「は、はい。もう言いません」

 頷く。
 リティは基本真面目で、素直で言われたことを鵜呑みにする。
 ミューゼリックが思うに、小さい頃から言われ続け、鵜呑みにした節がある。
 そのフィルターも取っ払う為にも、リティには最高のドレスと装飾で、デビュタントを迎えさせてやりたいと家族は思ったのであった。

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