流れ星が落ちた場所で僕は君と出会った。

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

嫉妬と嫌悪

【宇宙西暦231年 1月7日】


「マックスさんに、アンジェラさん、始末書書いてたけどよかったんですか?」
「なに、大した問題ではないさ。これでめでたく始末書も1000枚に達した。この記録はおそらく誰にも塗り替えることはできんよ」
「アタイも、始末書書かされた上に給料減らされたな~。まあ、どうせ使い道のない金だから困らないけどな」


惑星ロルシアで取り残された傭兵達を救出したマイト達は、惑星ロルシアにある連合軍の基地にいた。
傭兵達を救出し、基地へ戻ったマイト達に待っていたのは命令違反によるペナルティーとして数日の待機命令とうんざりするほどの事情聴取だった。
マイト達傭兵組は待機と事情聴取だけであったが、正規兵であるマックスとアンジェラは始末書を書かされていた。
アルメリア帝国のウズキ少尉もアルメリア軍のブースに引きこもったまま今日までその姿を見ていない。


「いやいや、二人とも問題大有りですって……というかマックスさんもアンジェラさんも、よく軍隊追い出されませんね……」
「この二人はO・C・Uでもトップクラスのエースパイロットで、クビにしたくてもクビにした場合の人的損失のほうが大きくてできないんです」


二人の発言を聞いて苦笑しているマイト。その背後からアナベル少佐がやってきて、心底疲れたような大きなため息をついてマックス中尉とアンジェラ少尉の二人が不名誉除隊にならない理由を説明した。


「これはアナベル少佐、おつかれさまです。そんなに褒めないでください、流石の私でも照れてしまいます」
「いや、褒めてないからね、マックス中尉。マイト君たちもだけど、あんまり無茶しないでくれる? 私、着任初日から各方面に謝りっぱなしよ……」
「すみません……その、助けられるものならと思ってしまいまして……」


アナベル少佐の説明を聞いたマックス中尉は敬礼しながらうっすらとほほを染める。マックス中尉にとってアナベル少佐の発言は本当に褒め言葉として受け取ったようだ。
アナベル少佐はマックス中尉の発言を聞いて、頭痛がしたのか頭を抑えてまた盛大なため息を吐いた。アナベル少佐の疲れた姿を見てマイトは申し訳無そうに謝った。


「まあ、独自行動には問題がありましたが、救出されたロルシアの士官からは感謝されてますし、結果的にはいい結果でした。ですが、次からは私が上を説得するまで待ってくださいね? 私がこっちに来ているのこういう時のためなんですから」
「そうします。迷惑をおかけしてごめんなさい」


アナベル少佐はこめかみを揉みながらマイトに、今回の独自行動について注意をする。
そして次からは自分がなんとか上層部を説得するからそれまで独自行動は控えてほしいとマイトに頼む。
マイトはアナベル少佐の気持ちが伝わったのか小さく頷くと再度謝罪した。


「うん、よろしい。じゃあま、お説教はここまでにしておきましょう。あんまり怒られても、うれしくないだろうしね。それか―――」
「うし、めんどくさい話は終わったな。おい、マイト、どっかぶらついてこようや。待機中は暇で仕方がねー」


マイトの反省する姿を見てアナベル少佐はほっこりした気持ちになるが顔には出さないようにして説教を終わらせる。待機中は暇だろうから一緒に行動をと誘おうとするが、アナベル少佐の説教が終わると同時にアンジェラ少尉がマイトの背後から抱きついて誘う。
マイトは背後から包み込まれるようなアンジェラ少尉の胸の感触に顔を真赤にする。アンジェラ少尉はマイトが何故赤くなっているのかわからないのか、どこに行こうかとあれこれプランを提案していた。


「アンジェラ、マイト君が動き回るのはよくないだろう。彼は傭兵だ、正規兵との間で問題が起きると彼に迷惑がかかるぞ。傭兵を見下す正規兵は多いからな」
「ああ、それもそうか。しゃあない、ここで適当に時間つぶすか~」
「マックス中尉! アンジェラ少尉! お二人はもっと反省してください! というか、情報部所属でもないお二人のクレームがなぜ自分の所に来て、責任取る形になってるんですか! お二人の分まで、監督不足で始末書書かされたんですよ?」


マックス中尉は純粋に基地内でのマイト達傭兵の立ち位置をアンジェラ少尉に教え、アンジェラ少尉も納得したようにマイトから離れる。マイトはホッとしたような残念そうな顔でアンジェラから離れる。アナベル少佐は二人の態度に怒りを覚えて怒鳴ってしまう。


「なに、軍とは理不尽なこともあるものですアナベル少佐。たまたま、今回はそういうものだったのでしょう」
「理不尽ってレベルじゃないです! 大体、あなた達は―――」
「失礼、O・C・Uの方々ですね?」


自分が怒られていると全く思っていないマックス中尉の態度にアナベル少佐がガツンと一言言おうとすると背後から声をかけてくるマイトとあまり年齢の変わらないアメリカ人が声をかけてきた。


「ん? そうだけど、お前だれだ?」
「僕たちに何か用ですか?」


見覚えのない人物の訪問にアンジェラ少尉は敵意むき出しで睨みつけ、マイトはどこかで出会ったか必死に思い出そうとする。


「ああ、失礼、自分はケイシー・セガール。先日、アルチョム大尉と共に助けていただいた傭兵です。貴方たちが同僚の救援に向かってくれた聞いたので、一言お礼を申し上げに参りました」
「そうでしたか。あの時の傭兵さんたちは大丈夫ですか?」


セガールは敬礼して自己紹介し、改めてここにやってきた目的を説明する。
マイトは自分が助けた傭兵チームの人物と分かると笑顔で迎え入れ、残りのメンバーの様子を聞く。


「ええ、怪我のせいでしばらく安静にする必要はありますが、3人とも命に問題はありません」
「それはよかった。最後まで味方を守るために奮戦した素晴らしき戦士たちだ。復帰後、共に戦えることを楽しみにしていると伝えておいてくれ」


セガールはミーシャ、カーン、キャサリンの怪我の状況を説明し1~2週間で復帰できることを伝える。
マックス中尉は救出した傭兵隊の状況を聞いて共に戦える日をセガールに伝えて握手をする。


「ありがたいお言葉です。私はこれからも作戦に参加し、皆さんとも共闘させていただきますので、以降、よろしくお願いしますよ」
「こちらこそ。あ、僕は、マイト・ダイナーって言います。今後ともよろしくです、セガールさん」


マイトもマックス中尉を見習ってセガールに握手を求める。セガールは快く巻いての手を握って握手に応じ、談笑を交わす。


「………」


一方、そんなマイト達の姿を遠くから見ているアナスタシア。時折マイトに声をかけようかと足を一歩前に出しては躊躇して戻り、また一歩踏み出しては躊躇するそんな行動を繰り返していた。


「ん? アナスタシア、こんなとこで何してんだ? マイトたちに用があるんじゃないのか?」
「ああ、ヨシュア? なんとなく、入りずらかっただけよ。楽ししそうな雰囲気だったから、勝手に加わって雰囲気壊したくなかったっていうか……」


そんなアナスタシアの後ろ姿にヨシュアが気づき、怪訝な表情で声をかける。
アナスタシアはバツの悪そうな顔でマイトの方を向きながらそう答えた。


「なーに言ってんだ? そんなこと気にする奴らじゃねーだろ」
「そ、それはそうなんだけど……いっつも私がそばにいたらマイト夫君も、嫌かもしれないし……」


アナスタシアの回答を聞いてヨシュアは何言ってんだこいつという顔でフォローを言う。だが、アナスタシアはネガティブな感情に陥っているのかヨシュアのフォローを否定するように顔を背ける。


「マイトの奴はそんなこと気にしないと思うが……あっ、なるほどな、お前妬いてんのか?」
「は? 何のことよ?」


そんなアナスタシアの仕草を見てヨシュアはアナスタシアの症状がわかったのか、ニカッと笑い、野次る。
アナスタシアはヨシュアが突拍子もない事を言ってキョトンとし、意味がわからないという顔をする。


「今までは、お前がマイトを引っ張ってたのに、こっち来てからは、お前以外の知り合いのところでワイワイ騒いでるから、お前さん、他の奴にマイトをとられてやきもち妬いてるんじゃね?」
「そんなわけないでしょ! マイト君の交友関係が広がって、仲良くしてることは良い事なんだから……私が、やきもちなんて妬くわけないじゃない」


ヨシュアは子供がカップルを誂うような言い草でニヤニヤ笑いながらアナスタシアが嫉妬していることを指摘する。
アナスタシアはそんなことないと必死に自分の今の感情と行動が嫉妬からではないと否定する。


「ん?そうかい? 俺から見るとそうしか思えないんだがね。そうだ、アナスタシアよー、お前さん、最近、自分の雰囲気が変わったの自覚してるかい?」
「またいきなりどうしたのよ? 私が変わったとこなんてないわよ?」


ヨシュアは先程まで誂う雰囲気から空気を入れ替えるように話題を変える。
アナスタシアは肩透かしを食らったように調子が狂う。気持ちを入れ替えるように深呼吸して自分は何も変わっていないとヨシュアに答える。


「いや、結構変わったぜ? ちょっと前までのお前さんは誰とでもある程度、友好的にやってたけどよ……どこか一線を引いてただろ?」


ヨシュアは近くの壁に寄りかかって腕を組んで昔のアナスタシアの話をする。
マイトと出会う前のアナスタシアを知っているヨシュアからすれば180度雰囲気が変わったと思っていた。


「それが、マイトとは、もう組んで半年だ。お前がそんなに面倒見るなんて以前のお前さんからじゃ、想像つかないね。マイトと会ってからお前さん、少し変わったんだと思うぜ?」
「そう、かしら? 私としては、そんなに変わった気はしないんだけど……」


マイトと出会ってアナスタシアは変わった。傭兵仲間でありバディであり恋人であったあの男と死別してからアナスタシアは必要以上に関わろうとしなかった。
長い付き合いであるヨシュアにさえ心に壁を作って一定の距離を広げていた。それがマイトと出会ってからその壁は崩れて、アナスタシアの笑顔は本当の笑顔になった。
ヨシュアは心の中で久々に神に感謝の祈りを捧げた。アナスタシアはマイトの出会いに救われたと思ったからだ。


だが、アナスタシアは全然自覚していないのか、首を傾げて疑問を浮かべている。
第三者から見てまるわかりなのになとヨシュアはため息を付いた。


「かわったよ、いい方向にな。それによ、うちのガキどもなんてな、お前とマイトは恋人なのー? なんて言ってるんだぞ? どうなんだよ、そこんところは?」
「ちょっと、そんなわけないでしょ!私とマイト君は仕事仲間、上司と部下よ。……それに年上なんて好きになってくれるわけないじゃない」


又ヨシュアはニカッと笑い、教会で面倒を見ている孤児たちの話をする。孤児たちの最近の話題はマイトとアナスタシアの事で、子供たちは二人の仲の良さから恋人なのかとヨシュアに聞いていた。
そのことをアナスタシアに伝えると、アナスタシアは頬を染めて顔を左右に振って否定する。ボソリと自分の年齢でマイトが好きになってくれるわけがないと小さく呟く。


「んじゃあ、まあ、そういうことにしとくけどよ。まあ、なんだな、傍から見れば、ガキどもがそう思うぐらいお前らは一緒にいるし、仲も良く見えてるわけだ。で、そんな風に一緒にやってきたからよ。マイトが傭兵として慣れてくるにつれて、お前のところから離れて行っちまうかもしれないのが怖いんじゃないのか?」
「そんなこと、ないわよ……」


ヨシュアがアナスタシアの嫉妬と不安の核心を突くと、アナスタシアは動揺した様子でヨシュアから視線をそらし、否定する。だがその言葉は弱かった。


「お前さんはよ、傍から見ると結構寂しがり屋だからな。自分から離れていくマイトを見たくなくて、話の中に入れなかったんじゃないのか?」
「…………」


ヨシュアの指摘にアナスタシアは答えることはなく沈黙を続ける。
ヨシュアはアナスタシアの返事をまたずに話を続けた。


「ま、これは俺から見たお前さんの印象だからな。実際どうなのかなんてわからねーが一つだけ俺には言えることがあるぜ?」
「なによ? 人のことを散々言いたい放題に言ってまだ何か言うつもり?」


アナスタシアは苛ついた様子でヨシュアを睨む。ヨシュアは全く気にした様子もなくおどけて話を更にすすめる。


「なあに、マイトはよ、絶対にお前さんを裏切ったり、一人にしないってことだ。あいつは自分からは、お前さんのそばを離れないしないだろうよ」
「そんなこと、わからないでしょ。貴方はマイト君じゃないんだから……」


ヨシュアはニカッと笑ってマイトは離れないと伝えるが、アナスタシアはヨシュアの言葉が信じられないのか怒鳴り、そして不安にさいなまれるように言葉が小さくなっていく。


「んー?普通はわかると思うがね。まあ、なんだ、どうしても心配だってんなら……こう、女としての自分を有効に使ってみろよ。抱いてやったら簡単につなぎとめられるぜ?」
「ヨシュア? 言っていい事と悪い事あるわよ?」


ニカッと笑いながらドヤ顔でアナスタシアにシモネタを振るヨシュア。流石にこのシモネタはアナスタシアの許容範囲外だったのか、ドスの効いた冷たい声でアナスタシアは静かにキレた。


「怒るな、怒るな、悪かったよ。まあ、やきもちも程々にしときな~」
「やきもちなんて、妬いてないわよ……まあ、慰めてくれてありがと。ともかく、私は先に部屋に帰るわ。また今度ね、ヨシュア」


キレたアナスタシアを見てヨシュアは降参と伝えるように両手を上げてなだめる。
アナスタシアは数度深呼吸して怒りを抑えると慰めてくれたことに感謝して足早に去っていった。


「はいはい、さようならっと……まあったく、めんどくせー女だ。もちっと、自分に素直になればいいのにねー。ま、馬に蹴られたくないから、これ以上は、俺は何もしないけどね~」


アナスタシアを見送ったヨシュアは独り言をいうとちらりとマイトを見る。


「俺は俺で動かないといけないことがあるからな。どうして息子が平和の鐘にいるのか突き止めないと……息子をさらったのが奴らなら、落とし前つけねえとな」


ヨシュアはサングラスを外す。その表情は獰猛な肉食獣が獲物を見つけたような笑みだった。

          

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