流れ星が落ちた場所で僕は君と出会った。

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

平和が終わった日



宇宙西暦230年12月24日、オルブ連邦において反政府デモ発動。
同時にテロリストによる襲撃を受け、国家元首 ウトナ・エイラー及び、代表補佐 ユトナ・エイラーが殺害される。
新代表として、前オルブ国家元首 ウズミアラ・ナスカの娘、アカリ・ナスカが国家元首の座につく。
そして、彼女は国家元首の座につくと同時に世界を揺るがす声明を発表した……


「我が、オルブ連邦は、昨今の大国による武力による平穏を良しとはしない! 我々は、武力を持って富を得て、小国を虐げる大国に対し断固とした意志を持って抗戦する。オルブ政府におけるクーデターはそのためのものである。武力を作り、それを持って支配する今のやり方は真の平和とは言えない。我々はすべての人々が平穏に暮らせる世界をつくるために、すべての武力持つ者たちに鉄槌を下す」


人類が存在する星系全てに向けて彼女は政見放送を流した。
その花序の背後には新政府の重役たちと思われる閣僚や銀河全土で指名手配されていたテロリストたちが堂々とオルブの軍服を着て立っていた。


「武力を持って小国を虐げる大国の者たちよ、お前たちに平和を願う心があるのならば武器を捨て、我々とともに同じ道を歩もう。そうすれば世界は平和に近づくことができる。我々は平和を願う同士を待っている。しかし、もしも、貴国らが我らの行動を是とせず、なおも武力を持って我らや、我らに同調する国々を攻めるのならば我々はその理不尽な暴力に対抗しよう。その抵抗するための力こそ、彼ら、“平和の鐘”だ」


その発言とともに放送映像は処刑場へと場面が移り、旧政府陣の官僚や兵器製造企業の社長や重役が次々と平和を乱したという罪状で銃殺されていく。
銃を持つのは10代の少年少女たち、皆上官と思われる大人の号令に合わせて引き金を引いていた。


「我々は、戦いによる平和など求めてはいない。だが、我々の主張を認めないという傲慢な態度で小国を抑圧することが続くのならば、我々は、オルブは、そして平和の鐘は、断固たる意志を持って大国からの侵略を防ごう。我々の行動によって世界に平和が訪れることを切に願っている」


宇宙西暦 230年12月25日、オルブ連邦およびテロリスト集団平和の鐘と各星系大国との戦争が開始される。世界は平穏な日々を失い、激動の時代へと移ってゆく。



「おはようございます、アナスタシアさん」
「おはよう。昨日は結局言いそびれちゃったから改めて誕生日おめでとう」


オルブ連邦のクーデターの翌日、マイト達はアナスタシアの事務所で朝食を取っていた。


「ありがとうございます。機能は、あんなことがありましたから仕方ないですよ」
「そうね……世界中が一瞬で混乱してしまったわ……フリカやメルビア、テロや内紛が横行していた星系ではオルブの主張に同意して更に激しい内乱やテロが発生してるわ……」


紛争の火種が燻っていた星系エリアではオルブの主張に乗る形で爆発炎上し、ついには水面下でオルブの支援を得たテロリストたちが平和を掲げて戦争を行っていた。


「 “平和の鐘”でしたか? 言ってることと、やってることが矛盾しまくりですよ。何考えてるんでしょうかね……」
「わからないわ……ただ、あのアカリって子はオルブの夢想家、ウズミアラの子ですからね……親と同じで、理想だけに生きてる夢想家なのかもしれないわね」
「夢想家とはまた、性質が悪いですね。自分たちの行動を正しいと信じているから強要する。そんなのテロと変わりませんよ……」


マイトはオルブ連邦の政見放送を思い出す。アカリという女性の代表は理想に燃えていた。ただ、マイトから見ても理想しか見えておらず、そこにたどり着く過程や手段といったものが見えていないように思えた。


「あの政見放送でアカリの後ろにいた人達ほとんどテロリストだしね。私が知っているだけでも扇動家として有名なライオーク・バーンシュタイン、ピースベルパイロットにしてあなたが撃退したマハトマ。あなたをスカウトしようとしたマクレーンさんの軍の裏切り者、サラディン。この3人は有名なテロリストよ」
「戦争とかになるんですかね、やっぱ」


マイトは不安そうに呟く。アナスタシアは珈琲を一口飲んで喉を潤し口を開く。


「なるでしょうね……それに、戦争になれば私たちも仕事を頼まれるでしょうね」


アナスタシアの発言と同時に事務所に電話のコール音がなる。


「このタイミングで電話ねー……はい、こちらアナスタシアですがどちら様でしょうか」
「アナベルです。この時期の電話ということで察しが付くでしょうが……まあ、依頼の事前説明です……」


マイトが応対に出ようとするのをアナスタシアが手で制し、アナスタシアが応対する。
立体映像でアナベル少佐の姿が現れ、少佐は申し訳無そうに仕事の依頼を話し始める。


「依頼の内容はどのような形に?」
「各国ともに傭兵を大量に雇い、正規兵とは区別してグル―プごとの傭兵部隊として行動してもらうことになります。まだ、詳しいことが決まっていませんがギルドのほうに貴方がた宛の依頼を頼むことになりそうです。報酬や経費等については決定次第連絡を差し上げます。ただ、確実に厄介な仕事になるでしょう、依頼を受けていただけるのなら私の裁量がきくO・C・Uの依頼を受けてください。他の軍に回られると、どんな扱いになっても手助けはできません」


アナスタシアが依頼内容を聞くとアナベル少佐は真剣な表情で自軍の依頼を受けるように強く言い含める。


「良いんですの? 傭兵に対してそこまでしてしまって?」
「貴方や、マイト君は傭兵である以前に私の友人ですからね。友人のために力を尽くしたいのですよ」


アナベル少佐のアナスタシアとマイト、二人に対する待遇にアナスタシアは目を見開いて驚く。
アナスタシアが待遇の良さについて質問すればアナベル少佐は微笑んで友人のためにとはっきりと答える。


「アナベル少佐、いえ、アナベルさんの心遣い感謝します。依頼の件、了解しました。詳細が決定したら、ご連絡ください。前向きに考えさせていただきますので」
「ええ、それでは、本日はこれで。マイト君、アナスタシアさん、こんな状況です、健康に気を付けて」
「アナベルさんもご自愛ください。また時間が取れたらみんなでヴラドさんところで騒ぎましょう」
「ああ、楽しみにしてるよ」


アナベル少佐との電話を終えるとアナスタシアとマイトは思わずため息をついてしまう。わかっていたとは言え、軍人から戦争になる可能性が高いので仕事の準備してくださいとはっきりと言われてしまった。


「このまま、戦争起きたらお仕事になりますね……」
「そうね。まあ、たとえ戦争になったとしても苦戦することはないはずよ。平和の鐘にいるパイロットたちが凄腕だったとしても、大国主導の連合軍相手じゃ、数が違いすぎるもの」


戦争は起こるが戦力差は大国連合が圧倒的だった。オルブと平和の鐘が力を合わせても象の大群にありが一匹で立ち向かうほどの戦力差であった。


「被害が出たとしても最終的には物量差で押し切る。こういうことですね」
「そういうこと、オルブやオルブに賛同するテロリストや小国が力を合わせたとしても大国の保有する機体数には届かないもの。私たちは自分たちに被害がないよう立ち回るだけよ」
「そうですね……」
「自分たちだけが安全なことに納得できない?」


マイトはどこか不服そうに返事をする。アナスタシアはマイトの気持ちがわかったのか自分が安全なのが不服なのか問う。


「救えるかもしれないものを無視することになるのかと思うと……少し気が咎めます」
「そうね、もしかしたら私たちは自分たちが助かるために誰かを、それこそ救える人を犠牲にするかもしれないわ。でもね、私たちがその誰かを救ったとしても次の瞬間、全員殺されてしまうかもしれないわ」
「それは……」


マイトは助けられるかもしれない命を見捨てることに抵抗を感じていた。アナスタシアは先輩傭兵として心構えとマイトが思い描く理想図の危険性を伝える。
それに対してマイトは反論しようとするが、アナスタシアは手で制して持論の続きを言う。


「救いたいという気持ちは大切よ、できる範囲なら救っても構わないわ、ヒーロー。でも、私たちは物語の主人公じゃないわ。私たちにできることには限界がある。その限界を見極めないと、全てをなくしちゃうわよ」


アナスタシアはマイトの目をじっと見つめる。マイトも目をそらすまいとアナスタシアを見つめ返して視線で続きを促した。


「マイト君は、割り切れないかもしれないけど、傭兵に一番大切なことは生き残ることよ」
「生き残るですか」
「マイト君が初めて仕事をしてから3ヶ月。この間にいくつかの依頼を被害なしでこなしてきたわ。でも、これは全部アナベルさんがなるべく安全な任務を依頼してくれたからよ、これから始まる戦争は、安全なんてどこにもない。常に生と死の天秤が揺れ続けることになるわ」


アナスタシアはマイトの両肩を掴んでこれから起こる戦争の危険性について言い聞かせる。


「ほんの少しのミスで簡単に命が消え去っていく。そんな戦場が繰り広げられるのよ。その時、マイト君が自分以外の命まで気にしていたら、マイト君、簡単に死んじゃうわよ?」
「………」
「マイト君が死んじゃったら、おじ様やおば様は悲しむわ。マイト君が誰かを助けて死んだとしても、ご両親は誰かを助けるより、君に生きていてほしかった……そう思うはずよ?」


マイトは何も言わない。だが、アナスタシアにはマイトのその顔は逡巡していることがまるわかりだった。


「だから、自分の限界を自覚しなさい。そして、割り切って自分が生き残ることを考えて戦いなさい。戦争が始まる前に言えることはこれだけよ」
「それでも……それでも、僕は救える命は救ってあげたいです。手を伸ばせば届く命なら救いたいんです!!」


マイトは目に涙を浮かべて叫ぶ。割り切ることが生き延びるコツだろう、生き延びることが傭兵の条件だろう、だがマイトは納得できなかった。
アナスタシアの説得を聞いてなお、救える命と救える手段があるなら救いたいとマイとは叫んだ。


「だったら、それができるぐらい強くなりなさい。私が言ったことを覆せるぐらいの実力をつけなさい。マイト君は、世界一の傭兵になるんでしょう? 世界一の傭兵にならできるかもしれないわね」
「……はい!」


アナスタシアはマイトの叫びを聞いて微笑む。アナスタシアがピースベルに襲われて負傷した時、ピースベルを撃退して世界中の軍に目をつけられても尚アナスタシアの命を救ったことを間違いでないと叫んだ時と何一つ変わっていないことに喜びを感じていた。


「でも、忘れないでね? マイト君が死んでしまったら悲しむ人がたくさんいるわ。おじ様におば様、ヨシュアやアナベルさん、他の人だってきっと悲しむ。だから、自分の命も大切にしなさい」
「わかりました。アナスタシアさん、ありがとうございます」


それでも傭兵の先輩として、雇い主として、年上の大人としてマイトに釘を差すのは忘れない。
迷いを吹っ切ったマイトの顔はスッキリしており、元気よく返事をした。


「どういたしまして。まあ、私が教えてあげられる心構えなんてこんなものよ。あとは、自分で考えて判断しなさい」
「はい! あ、僕これからホワイト・スノーと少し話してきます。これから始まる戦争のこと教えてきます」
「いってらっしゃい。ご飯までには帰ってきてね?」


マイトはそう言ってホワイト・スノーがいるドッグ倉庫へと走っていった。
アナスタシアは笑顔でマイトの背中を見送りながら、マイトの姿見えなくなると深くため息をつく。


「私も、マイト君が死んじゃったら悲しいわ。なんて、真顔で言うのは、私のキャラじゃないわよね……心配してるのは本当の事なんだけどね……」


事務所に一人残ったアナスタシアは小さな声でそうつぶやいた。



「ってなわけで、近いうちにオルブって国とテロリストたちと戦争になるんだ。戦争が起きたら僕たちも戦いに行くことになる」
「そうか。私達の力の見せ所だな」


ホワイト・スノーがいるドッグ倉庫へとやってきたマイトはホワイト・スノーにオルブで起こったクーデターやアナベル少佐から言われた戦争の準備について知らせる。


「ねえ、ホワイト・スノー」
「なんだ?」
「僕は、戦場で救える命は救いたいと思う。もちろん、自分の命も大事にした上でだよ。だけど、今の僕にはその力はない」
「………」


マイトは先程事務所でアナスタシアに言われた内容をホワイト・スノーに伝える。
ホワイト・スノーはただ黙ってマイトの話を聞いていた。


「でも、僕だけじゃ救えなくても、お前と力を合わせてなら救えると思うんだ! 世界一の傭兵と世界最強の機体を目指してる、僕夫たちだよ! 他人を救った上で生き残ることができるはず。だから、僕に力を貸して、ホワイト・スノー!」
「現実的な意見を言えば、私たちにできることは限られている。だが……私はお前が望むならこの力を貸そう。お前の言う、論拠無き宣言を信じよう。私の力を使い、お前の力を示して見せろ、マイト!」


ホワイト・スノーはマイトの宣言を肯定する。論拠無くてもホワイト・スノーのAIには二人なら救えるという可能性を肯定する思いがあった。


「ありがとう、ホワイト・スノー!」
「だが、お前も無理はするなよ、マイト」
「わかってるよ。無理して失敗してもしょうがない。今の僕たちのできる範囲で確実にしてみせるよ」


ホワイト・スノーは一応釘を刺す。マイトは熱くなると暴走する癖がある。それを制御するのも自分の役目だと思うように。


「 さて、もう夕方か? そろそろ、僕は戻るよ。ホワイト・スノー、これからも一緒に頑張ろう」
「私はお前とともに戦場にある。私の力を存分に使ってくれ」
「うん、頼りにしてるよ、ホワイト・スノー。それじゃあ、またね」


マイトはホワイト・スノーに別れを告げるとドッグ倉庫を出ていった。



          

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