流れ星が落ちた場所で僕は君と出会った。

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

傭兵の覚悟

「ヴァネッサさんのおかげでホワイト・スノーも直った! これで本当の意味で、僕の傭兵としての始まりだね」
「世界一の傭兵と世界最強の機体として世界中に名前をとどろかせるのよね?」


マイトはホワイト・スノーを見上げながら握り拳を突き上げて宣言する。
アナスタシアは寄り添うようにマイトの肩に手を置いて話しかける。


「はい、せっかく自分の行く道を決めたんですから、夢は大きく持ちます。そして、その夢をかなえて見せます!!」
「私はマイトが高みを目指すのならば、それを支えよう。この最強の力と最速の翼をもってな」


マイトはアナスタシアの方に振り返って強く宣言する。ホワイト・スノーもマイトの宣言に追従するように誓約を口にする。


「 ふふ、マイト君もホワイト・スノーも目標のために頑張って頂戴。私とシンデレラも応援してるわ」
「ありがとうございます。頑張ってやっていきます」


可愛い弟を見るような目でアナスタシアはマイトに微笑む。マイトはホワイト・スノーが復活した興奮が冷めないのか鼻息荒く礼を述べる。


「うん、それじゃあ……最後に少しだけ大切なお話。これからマイト君は、傭兵として私たちと一緒にいろんな戦場で、様々な戦闘を体験することになる」
「……? そうなりますね」


アナスタシアは急に真剣な顔でマイトを見つめながら話を続ける。マイトもアナスタシアの雰囲気が変わったことに気づいたのか、少し戸惑いながら話を聞く。


「そして、戦場に出る以上貴方は命の奪いあいに参加することになる。自分以外の他人の命を奪うことになるわ」


アナスタシアはマイトの両肩を強く掴んで諭すように傭兵の仕事の意味を伝える。


「今はまだわからないかもしれないけど……その時が来たら、迷わずに相手を殺しなさい。戸惑えば、貴方が死ぬわ。もしかしたら、私やアナタの知り合いも死ぬことになる。だから、敵に情けをかけてはだめよ」
「僕は……人を殺すことに……慣れなきゃいけないんですか?」


アナスタシアから、命を奪うことを聞いたマイトは、顔を青くして震えるような声でアナスタシアに問う。アナスタシアはマイトの問に首を横に振って否定する。


「ちがうわよ、殺す覚悟は持っていなきゃダメ。でも、殺すことに慣れてはだめよ。慣れてしまえば、血に餓えただけの獣に成り下がってしまう。命を奪うことには抵抗があるかもしれない……でも、それが私たちのいる世界なの。慣れてはだめだけど、覚悟だけはしておいてね」
「はい……」


アナスタシアは落ち着いた口調で幼い子供に言い聞かせるように殺す覚悟を持つことと、殺すことに慣れるなとマイトに伝える。
マイトは返事をしようとするが喉が枯れて声が出ず、唾を飲み込んでも、飲み込んだ途端に喉が枯れていく。やっと絞り出せた声もか細く頼りない返事だった。


「戦場に行くのが怖くなった?」
「怖いです……僕は……僕は、全然覚悟なんてできていなかったんだって、今更実感しました……」


アナスタシアは優しく微笑み、マイトに語りかける。マイトは必死に泣くのを我慢しながら、アナスタシアに戦場に出る覚悟ができていなかったことを伝える。


「それでいいわよ。臆病なほうがいいのよ、傭兵なんて覚悟ができたときに、貴方は本当の傭兵になれるわ。だから、私の言葉を忘れないでね」
「はい……」


アナスタシアはマイトを抱きしめ、頭をなでながら慰めるように諭す。マイトは抱き寄せられると最初は驚きはしたが、アナスタシアから伝わる体温の熱が心を落ち着かせてくれることがわかると、甘えるように抱き返した。


「私は先に外に出てるわね。落ち着いたら、一緒に家に帰りましょ」
「ありがとうございます」


アナスタシアは頃合いを見てマイトから離れて倉庫の出口へと向かう。マイトは気恥ずかしげにお礼を述べて、アナスタシアの背中を見送った。


「アナスタシア、マイトに必要な覚悟を説いてくれたこと感謝する」
「私たちは仲間よ気にしなくていいわそれに、先達は後進を導くものよ。あとは、ホワイト・スノーに任せるわね」


ホワイト・スノーがアナスタシアに礼を述べると、アナスタシアはホワイト・スノーの方に振り向いて軽くウィンクして出ていく。
倉庫にはマイトとホワイト・スノー、一人と一機だけが残っていた。


「ねえ、ホワイト・スノー……僕はやっぱり甘かったんだ。傭兵になるって言っておきながら、人殺しをすることを考えていなかった」
「そうだな……だが、それも仕方あるまい。お前はただの子供だったのだ……人を殺す殺さないの世界とは無縁だったのだ」


マイトはホワイト・スノーの足先に膝を抱えて座る。故郷の星の洞窟でマイトがホワイト・スノーに悩み事を話す時の仕草だった。
ホワイト・スノーは首を動かし、マイトを見つめるように話しかける。


「そして、お前は本当の戦場に出たことがない。言葉だけで理解しようというのが無理な話だ」
「それは確かにそうだけどでも、僕はアナスタシアさんに言われたことを心に刻んでおく必要がある。間違いなく次の仕事からは、命のやり取りをすることになる。そんなときに迷わないように、迷惑をかけないように……」


マイトはホワイト・スノーを見上げる。浮かべた涙をこぼさないように、今にも喉から叫び出しそうな不安を押さえ込むように。


「ならば、そのようにすればいい。私はお前の剣となり翼となり共に戦おう。マイト、アナスタシアに言われたように覚悟をし、殺すことに慣れるな」
「もちろんだよ、覚悟はできた。揺らいでしまうかもしれないけど……大丈夫! そして、僕は、僕のままだよ!!」
「ああ、それでいい」


マイトはゴクリと唾と一緒にこみ上げてくる不安と恐怖を飲み込み、涙を拭いて立ち上がる。ホワイト・スノーは覚悟を決めたマイトを見て頼もしく頷いた。


「んじゃ、アナスタシアさんも待ってくれてるから、そろそろ帰るね。次は一緒に仕事に行こう、ホワイト・スノー」
「期待しているぞ、マイト」


ホワイト・スノーは倉庫から出ていくマイトの背中を見送る。マイトの後ろ姿は洞窟で出会った時と比べて大きくなったような気がした。


「もう大丈夫?」
「はい、まだ覚悟は決まったとはいえませんけど、アナスタシアさんの言葉忘れないようにします」
「うん、そうしてちょうだい それじゃあ、帰りましょうか」


倉庫を出ると入り口でアナスタシアがマイトを待っていた。
アナスタシアの問いにマイトは自分なりに導き出した答えを聞かせる。アナスタシアはマイトの答えを聞いて満足そうに頷くと、マイトの手を取って帰路についた。


「ん? あそこにいるの、ヨシュアさんじゃないですか?」


アナスタシアの事務所へ帰る途中、キリスト教の教会から神父服のヨシュアが出てきたのをマイトが見つける。


「ん? マイトにアナスタシアか、だいたい一ヶ月ぶりか? 元気にしてたかー?」
「ええ、ヨシュアさんのほうはどうですか?」


ヨシュアの方もマイト達に気づいたのか、いつものようにニカッと笑って手を振って挨拶をする。


「仕事してたよ、フリカ星系でテロリスト狩りだ。なんかしらねーけど、最近テロリストが活発化してきやがったからな。稼げるのはいいが、休む暇がねえ」
「そう言えばヨシュアさんはなぜ教会に? お祈りか何かですか?」


ヨシュアはうんざりしたような顔で受けていた傭兵の仕事の愚痴を述べる。マイトはふと気になったのか、ヨシュアが教会から出てきた理由を聞いた。


「いや、何故も何も、ここ俺の住処だし、見ての通り俺は神父だぞ。あと、俺はこの教会の孤児院の出資者の一人でここに住んでるんだよ」
「正直、見た目とキャラが違いすぎます」


マイトの質問にヨシュアは苦笑しながら神父服であるカソックを強調して神父であることを主張した。それに対してマイトは実直な感想を息を吐くようにつぶやいていた。


「ヨシュアは見た目に似合わず優しいのよ。戦争で家族を亡くした子たちを引き取ってこの教会で育ててるのよ。で、ヨシュアは仕事で稼いだお金を子供たちのために使ってるの」
「見た目は関係ねーだろ、見た目は。いいんだよ、俺が好きでやってることなんだよ。やらぬ善より、やる偽善ってやつだよ」


アナスタシアがフォローするようにヨシュアが傭兵で稼いだお金で戦災孤児を養っていることをマイトに伝える。
ヨシュアはアナスタシアの微妙なフォローに文句を言いながらポケットからタバコを取り出すと、一本口に咥えて火を付ける。そして二人の方に視線を向けて、マイトとアナスタシアにも吸うかと聞くように煙草を向ける。


「煙草は苦手なの」
「僕もまだ未成年ですから」


マイトとアナスタシアは吸わないのか、ヨシュアの煙草をやんわりと断る。
ヨシュアはそうかと小さく呟くと肺いっぱいにタバコを吸って紫煙を吐き出す。


「まあ、なんだ、自分でも似合わねえとは思うが、救える命なんだ救ってやりてえじゃねえかよ」
「すごいことだと思います。子供たちはヨシュアさんに救われているはずです」


ヨシュアはちょっと気恥ずかしそうにスキンヘッドの頭をかいてそっぽを向く。マイトはそんなヨシュアの行動に尊敬を持ったのか、目を輝かせて褒める。


「はは、だといいんだがね。まあ、俺はこの街にいるときは大体ここにいるからよ、なにか用事があったらここに来いよ」
「わかりました。じゃあ、ヨシュアさん仕事お疲れ様でした。ゆっくり休んでください」
「おう、じゃあな。ああそうだ、テロリストが増加してるせいだろうが、アナベルの奴に連絡取れば、すぐに仕事が転がってくるぞ」


ヨシュアとの世間話を終えてマイトとアナスタシアは帰ろうとする。ヨシュアは二人を見送りながらアナベルからの仕事を紹介する。


「あら、そうなの? じゃあ、お仕事いただいておこうかしら。稼げるうちに稼いでおくべきよね」
「おう、相手さんは旧型のフレームアーマーや、コンバットシェルばっかだからお前らなら苦戦することはないと思うぜ。アナベルもちゃんとギルドを通してくれるしな」


アナスタシアが足を止めてヨシュアに仕事の有無を確認する。


「情報ありがと、ヨシュア。近いうちに、孤児院へ少し寄付するわね」
「おう、ありがとよ。んじゃ、今度こそあばよ」


ヨシュアは二人を見送ると教会へと戻っていく。
マイトとアナスタシアはしばらく無言で歩いて、マイトが足を止めて教会の方に顔を向ける。


「あの教会と孤児院がヨシュアさんの戦う理由なんですかね」
「たぶん、そうなんでしょうね。誰しも、何かの理由を持って戦っているわ。ヨシャにとっては、ここが理由なのよ」


アナスタシアもヨシュアの教会を見つめる。夕日に照らされた十字架が幻想的な雰囲気を漂わせ、しばし二人は無言で教会を見つめた。


「まあ、ヨシュアのことはここまでにして、せっかく仕事の話を聞けたんだから、私たちもテロリストの鎮圧以来受けましょうか」
「そうですね、アナベルさんに聞いてみましょう」


教会を見終えたのか、アナスタシアはパンと手を叩いてマイトを現実に戻す。


「依頼を受けることに変わりはないけど、無理はしちゃだめよ。私の言ったことを忘れないで、自分にできる範囲で依頼をこなしなさい」
「大丈夫です。僕は、傭兵になってみせます」


アナスタシアはもう一度釘を差すようにマイトに覚悟を問う。マイトは先程の倉庫の時と変わってちゃんとアナスタシアの顔を見て返事をした。


「そうね、なら、一緒に頑張りましょう」
「はい!」


こうしてアナスタシアとマイト、ホワイト・スノーとシンデレラの傭兵チームが改めて誕生した。





          

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