流れ星が落ちた場所で僕は君と出会った。

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

訓練



「はははっ、よーく似合ってるぜ、マイト」


ゲラゲラと笑うヨシュアの声が機体格納庫に続く通路に響く。


「うう~~絶対からかってるでしょ!!」


その後ろを恥ずかしそうに真っ赤な顔で身を縮ませて歩くマイト。
二人はパイロットスーツに着替えて祭典で披露する機体に搭乗する予定だった。
ヨシュアはO・C・U軍所属なので支給されたパイロットスーツがあった。
マイトも今回の依頼のためにパイロットスーツが用意されていたが……マイトが小柄すぎたのか、O・C・Uの男性軍人が大柄過ぎたのか、男性のSサイズですらマイトにはぶかぶかだった。
その為急遽女性パイロット用のパイロットスーツで対応した。


「いやいや、立派なエースパイロットの貫禄あるぜ、俺が保証してやる」
「その必死に笑いを噛み殺した顔で言われても全然説得力無いです」


マイトはムキになるとヨシュアが余計面白がってからかってくると学んだのか、それ以降無言を決め込んだ。
ヨシュアは謝罪するがぶふっと殺しきれなかった笑い声が漏れていた。



「これが僕が乗る予定の機体ですか?」
「おう、O・C・U軍事産業体の新型フレームアーマ、ブラックドッグだ」


格納庫には全身メタリックブラック一色の人型戦闘ロボットがハンガーに設置されていた。
流線型のフォルムにスリムな手足のパーツ。頭部はハスキー犬を連想させるデザインだった。


「まずはパイロット登録だ。マイト、メカニックの指示に従ってくれ」


ヨシュアはブラックドッグを整備していたメカニックに声をかけて、マイトのパイロット登録を頼む。
メカニックはマイトのパイロットスーツを見て、顔を見てもう一度パイロットスーツを見た後、アナベル少佐という前例もあるしと呟いて案内を始めた。


ブラックドッグのコクピットには胸部部分のハッチを90度近く上部に開放することで搭乗できる。
マイトはメカニックの指示の下、コクピットに座る。


「ハジメマシテ、パイロットユーザートウロクヲオコナイマス」


メカニックがコンソールを操作するとサポートAIを起動する。
片言の電子音声がコクピット内に流れパイロット登録を行う。


「なんか口調が片言だし硬いね?」
「起動したてのサポートAIは皆こんなもんですよ。起動させてパイロットとともに社会経験値を積んで昨今のトリデオで放送されてるような機体になるんです」
「ヨロシクオネガイシマス」


マイトがサポートAIの口調に疑問を挟むとメカニックがAIについて簡単に説明する。
雑談を交わしながらマイトとメカニックはパイロット登録を終わらせていく。


「テストパイロット ユーザー:マイト・ダイナー トウロクカンリョウ」
「これから一ヶ月間よろしくね、ブラックドッグ」


ブラックドッグのメインウィンドにマイトのパーソナルデーターが表示され、パイロットトウロクが完了したことを知らせる。


「おっし、登録終えたな。初日は歩行訓練だ。マイト、俺の後ろをついてこい」


パイロット登録を終えたことを確認したヨシュアは別機体のブラックドッグに搭乗してマイトに通信する。


「了解しました。それじゃあブラックドッグ、早速訓練だ」
「アイ・コピー」


コクピットハッチを閉じてジェネレターを起動させる。メインモニターには各動作部分や稼働プログラムに不備がないことが表示される。


「システム・オールグリーン」
「マイト・ダイナー、訓練に入ります」


ハンガーロックが解除されたことを確認するとマイトは操縦桿を操作してブラックドッグを歩行させる。


「おっし、初期動作には問題はないな。訓練所まで歩行速度を維持してついてこい」
「了解」


ヨシュアとマイトが搭乗したブラックドッグが一定の距離を開けて歩行する。


「次は駆け足だ。バランス崩したり、酔って吐いたり振動で舌噛むなよ」
「大丈夫です!!」


ズシンズシンと地響きを立ててヨシュア機が走り出す。続くようにマイト機が走り出す。


「お、転ばず走れるか、たしかに才能あるな」
「え? そうなんですか?」


駆け足で二体のブラックドックが並走する。通信機を通してヨシュアがマイトを褒めた。


「訓練生はこの駆け足訓練で大抵振動に驚いたり、出力調整間違えて転倒するのが通過儀礼だ。前情報も無しで新型機で一発で走れるのは才能あるぜ」
「えへへ、嬉しいです」


訓練初日は特に問題なく課題をクリアしたマイト達。
訓練内容と機体のログを見てアナベル少佐も祭典に期待できると喜んでいた。


「今日は戦闘機動訓練だ。ゲロはいたり、気を失ったりするなよ」
「大丈夫! シンデレラに搭乗した時には吐いてないもん」
「パイロットバイタルニイジョウガデレバホウコクシマス」


本来なら1週間かけて歩行と走行の訓練を行うが、ヨシュアはマイトの才能を認め、翌日は訓練メニューを再編成して戦闘機動訓練となった。


「おいおいおいおい……マジで化物だぜ、こいつ……」


戦闘機動とは機体のブースターなどを起動させ、音速~亜音速の速度で戦闘行動を行う訓練だ。
パイロットスーツには耐G機能がついているとは言え、マイトは気絶することも、嘔吐や気分が悪くなること無く訓練過程をクリアしていった。


「いやはや、これはまたすごい。この一月で確信しましたよ、マイト君なら、この依頼を完璧にこなしてくださるとね」
「 いや、おかしいだろ。最終テストの模擬戦、俺最後のほう手加減してなかったんだぞ。避けるどころかガットショットまで成功させるなよ……」


訓練最終日、マイトとヨシュアは模擬戦を行った。
戦闘機動による空中戦で最初はヨシュアは手加減していた。
ヨシュアの攻撃は回避され、マイトの攻撃ばかり命中する状況からヨシュアは大人気なく戦場の空気を味あわせてやると言って訓練では行わないはずの近接戦闘を行った。


これに慌てたのは訓練を見ていたアナベル少佐とアナスタシア。
戦闘機動時の近接戦闘は危険極まりない。なにせ双方亜音速速度で飛び交い、お互いの近接武器が相手の機体に命中する距離に近づかないといけない。
一歩間違えれば正面衝突の大惨事、そうでなくてもマイトは才能はあっても訓練生。事故は免れないと思ったが、マイトはヨシュアの攻撃を回避し、お互いの機体が交差した僅かな時間に模擬弾を命中させた。
戦闘機動でお互いの機体が交差する瞬間に射撃攻撃を命中させることをガットショットと呼ばれ、神業の部類としてロボット乗りに語り継がれている。
偶然か必然かマイトはガットショットを成功させてしまった。


「凄いわね、危なっかしいところもあったけど、戦闘機動を余裕でこなしてるんだもの。Gにも耐えてたみたいだし、才能って怖いわー」
「えーと、僕的には当てれると思ったからやったつもりなんですけど、凄いことなんですか?」


アナスタシアは模擬戦の動画と戦闘ログを見て感想を述べる。
マイトは周囲のリアクションから自分が何かやったことだけは理解したようだった。


「うん、これだけ動けるなら、間違いなく成功ですよ。後は、明日の式典でその腕前を披露してもらえればいいですよ」
「はは、マイト、ほんとに訓練だけで依頼完了になるぞ。いやー、お前のその才能は凄いわ」


アナベル少佐とヨシュアが明日の式典でのデモンストレーションの成功を確信して、マイトの腕前を褒め称える。


「ありがとうございます! でも、なんか褒められすぎて恥ずかしいです」


マイトは恥ずかしがりながら頭を掻いて二人に顔が合わせられないのか、赤い顔を見せないようにする。


「ふふ、浮かれすぎて明日の式典で失敗したりしないでよ?」
「大丈夫です。もう全力全開で頑張ります」


恥ずかしがりながらもどこか嬉しそうなマイトの頬を突付きながら、アナスタシアは浮かれないように軽く注意する。
マイトは頬を突かれながらも真剣な目で元気よく明日への意気込みをアナスタシアにしらせた。


「はは、いいぞ。ついでに模擬戦でほかの企業の機体全部にペイント弾つけてやれや」
「はは、それはいいな。マイト君頑張ってくれよ?」
「いや、さすがにそれは無理ですよー」


訓練最終日、模擬戦で禁止されているヨシュアの近接戦闘という想定のしていない行動に一行は慌てたが、マイトの秘められた才能の一つを垣間見ることが出来た。
最後は全員和気あいあいと訓練終了を宣言し、明日の祭典に備えるのであった。

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