流れ星が落ちた場所で僕は君と出会った。
O・C・Uの一日
「さ、ついたわよー。ここが私の事務所兼自宅よ」
「ひっ……人がいっぱいですね……」
アナスタシアの事務所にたどり着いた二人。マイトは故郷の惑星の全人口より多い人の数に酔っていた。
「えーと、大丈夫?  ここら辺はまだ人が少ないほうなんだけど……」
「あはは、はい……大丈夫です。僕の住んでたところは辺境なんですね。人が少なくてこれとか、驚きました」
「ふふ、じゃあ、その辺は慣れてもらうしかないわね」
お上りさんのように周囲を見回して故郷の惑星との違いに驚いているマイト。
マイトのその可愛らしい仕草を見てアナスタシアは微笑んでいた。
「依頼がないときは基本ここで書類の整理になるわ。マイト君の勉強とかもここでするから、しばらくはここで過ごすのがほとんどになるわね」
アナスタシアが事務所のセキュリティを解除して、マイトを案内する。
「わかりました。ええっと倉庫のようなものは見えないですけど、シンデレラとかは普段どこにいるんですか?」
事務所に入ったマイトはシンデレラとホワイト・スノーが気になるのか、アナスタシアに二体の居場所を聞く。
「さすがに街中に保管するわけにはいかないから、少し離れた港沿いの倉庫を借りてるわ。マイト君のホワイト・スノー用にも一つ借りておいたから、彼も今は倉庫の中にいると思うわ。修理できるようになるまでは倉庫の中で我慢してもらうわね」
「そのー、倉庫の料金とか修理費ってどれぐらいでしょうか……」
マイトは恐る恐る倉庫のレンタル代と修理代を聞く。
「倉庫の料金はそんなに高くないけど、修理費となると、依頼3~4件分かしらね。私のシンデレラが修理終えて、ある程度余裕ができたら立て替えてあげるわね」
「なんか、しばらくはただの金喰い虫みたいで申し訳ないです……」
アナスタシアの立替の提案にマイトは申し訳なさそうに頭を下げる。
「ふふ、始めたばかりのころはそんなものよ。住み込みでの仕事は家事と書類仕事をお願いね。しばらくは、それが君のお仕事」
「わかりました! ガンガン扱き使ってください!!」
マイトが握りこぶしを作って元気よく返事をする。アナスタシアは期待しているからと告げると二人の荷物を置きに行く。
「見てのとおり一階が事務所になってるわ。依頼の詳細を話すときに使うわ」
「普通の部屋みたいですけど……依頼の内容が外に聞こえたりしたら、やばいんじゃないんですか?」
「そこは大丈夫よ、ちゃんと対策してるから」
事務所内を見回してマイトが防諜セキュリティについて疑問を言う。アナスタシアはマイトの疑問は予想していたのか微笑みながら答える。
ただ、具体的にどのような対策をしているかはアナスタシアははっきり答えなかった。
「次に2階だけど、ここが居住スペースになってるわ。一応私の寝室とリビング、物置に使ってた部屋の3部屋があるわ。マイト君は物置に使ってた部屋かリビングで過ごしてもらうけどいいかしら?」
アナスタシアはマイトを二階へと案内する。二階は居住区と言うが、物はあまり置いていない。
「ありがとうございます。居候みたいなもんですから、どこでも大丈夫ですよ」
「ふふ、じゃあ、私と同じ部屋で寝る?」
マイトがどこでも良いと言うとアナスタシアは悪戯心に火がついたのか、悪い笑みを浮かべるとマイトの耳元で囁く。
「なななな、何を言ってるんですか!?」
「ふふっ、じょうだんよ~。それとも本当に一緒に寝たかった?」
マイトは顔を真赤にして飛び退き、囁かれた方の耳を手で塞ぐ。
アナスタシアはマイトのリアクションを見て、腹を抱えて笑う。
「かっ、からかわないでくださいよ」
「ふふ、いいじゃないの。これから一緒に暮らすんだから、コミュニケーションは大切よー」
マイトはアナスタシアの悪戯を警戒して距離を取る。アナスタシアは涙を拭いながら悪びれた様子もなくコミュニケーションと称して自身の悪戯を正当化した。
「そりゃそうですけど……とりあえず、僕は物置部屋借りますね」
「よし、それじゃあ荷物置いたらこの街の案内ね」
アナスタシアはマイトを連れてO・C・Uの街を案内する。
「どう? この街について何か分かった?」
「普通のお店以外に、傭兵の事務所もあるし、 修理工場や機体を収納できるドッグにターミナルステーション、傭兵には便利なところが多いですね。酒場みたいな娯楽施設もありましたね」
アナスタシアが案内した場所は私生活に必要な店舗以外は全部傭兵家業に関係のある施設ばかりだった。
「そのとおりよ。まあ、この街はO・C・Uが傭兵を自分たちの領内にとどめておくために意図的に作らせた街なのよ」
「傭兵を留めるんですか? えっと、ステーションネットワークで検索したら傭兵って嫌われ者っぽいイメージの記事が多かったんですけど?」
アナスタシアの説明にマイトは疑問を挟む。
「基本的に傭兵は嫌われ者よ。ただ、O・C・U政府はその広さを補えるほどの戦力がないのよ。だから、領内に傭兵を囲って自分たちの味方にしたいわけ。もちろん、O・C・Uに事務所構えてるからって他の国の依頼が受けれないわけじゃないわよ。ただO・C・Uの依頼が多く回ってくるってだけだから」
「つまりは、O・C・U政府は傭兵用の街をつくるから、僕達傭兵に自分たちの仕事を手伝うように頼んでるってことですか」
マイトが自分なりに考えた答えを言うとアナスタシアはよくできましたと言ってマイトの頭を撫でる。
「まあ、受ける受けないは傭兵の自由だけど、仕事が回ってくるから、この街に拠点を構える傭兵は多いのよ」
「僕みたいな新人にも仕事が回ってきやすいってことですね」
「最低限、依頼をこなせるレベルならね。今のマイト君じゃ、さすがに依頼は来ないわよ」
調子にのるなとアナスタシアがマイトの額をデコピンする。
「わかってますよ」
マイトはデコピンされた額を抑えて不服そうに返事する。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
「あの、帰る前に港の倉庫に行ってホワイト・スノーに会ってきていいですか? こっちについたって報告をしたいので」
アナスタシアが帰宅しようとすると、マイトはホワイト・スノーにあいたいと述べる。
「ん、いいわよ。場所は大丈夫? ついて行ったほうがいいかしら?」
「場所はさっきの案内で分かったんで、倉庫の番号さえわかれば大丈夫です。アナスタシアさんは帰って休んでおいてください」
「OK、じゃあ、倉庫の番号は28番よ。倉庫のカードキーはこれね、なくしちゃだめよ。 あと、あんまり遅くならないうちに帰ってきなさいね」
アナスタシアはポケットからカードキーを取り出すとマイトに手渡す。
マイトは言ってきますと告げると駆け足で倉庫へと向かった。
「えーと、28番倉庫はっと……あった、あった、あれだ」
マイトはホワイト・スノーが収納されている28番倉庫を見つけるとカードキーを読み込み口に差し込み、倉庫の鍵を開ける。
「 ホワイト・スノー! ひさしぶり、元気にしてた?」
倉庫のパネルを操作し、入口のシャッターを開け、倉庫内の明かりをつける。
「うわあ……」
暗い洞窟内と違い明るい倉庫で専用のハンガーラックに収納されているホワイト・スノーの姿を見て、マイトは感嘆の声を上げる。
「マイトか。こっちについたのだな」
マイトの声に反応してホワイト・スノーの主電源が起動する。
首をマイトの方に向けるとあの山で聞いていたときと同じ電子合成音声でマイトに話しかけた。
「今日ついたばっかだよ。街の案内をアナスタシアさんにしてもらってたんだ」
「そうか、一月ほど離れていたがお前のほうはどうだ?」
「基本的な座学と体力作りはあらかたやったよ。このへんはあとは続けていくしかないよ。操縦とかはこれから訓練していく予定」
マイトは興奮した様子でホワイト・スノーと別れてから今日までの話をする。
「一月ほどならそんなものだろうな。操縦のほうはお前には才能がある。何度か実機に乗ればコツをつかむだろう」
「うん、ばっちり訓練してホワイト・スノー一緒に仕事をできるようにするよ」
「私のほうは、修理が必要だがな」
今すぐにもホワイト・スノーに搭乗して飛び出しそうなマイトにホワイト・スノーは修理が必要だと釘を刺す。
「そっちのほうはもうちょっと待って……さすがにすぐに用意できるような額じゃないから」
「ああ、わかっている。ただな……」
「ん、どうしたの?」
ホワイト・スノーが言い淀む姿にマイトは心配そうな表情で見上げる。
「お前の実機訓練をシンデレラで行うことが気に食わない」
「どんだけ仲が悪いの……ホワイト・スノーとシンデレラって……」
ホワイト・スノーの言葉に呆れて頭を抱えるマイト。
ホワイト・スノーはそっぽ向くように頭部を横に向ける。
「奴にはマイトのいる星に堕とされた。下手をしたらスクラップになっていた。 まあ、その前の戦いでは奴を墜落させたがな」
「気持ちは分からなくはないけど、お互い様だと思うよ……」
マイトはジト目でため息つきながら呟く。
「それじゃあ、僕そろそろ帰るね。定期的に来るからまたよろしく頼むよ」
「ああ、待っているぞ」
マイトはホワイト・スノーに別れを告げると倉庫を出た。
          
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