流れ星が落ちた場所で僕は君と出会った。

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

それぞれの思惑



一方、シンデレラの様子を見に行ったアナスタシア。
シンデレラは今日も町の人々に囲まれ、触られ、話しかけられ写真を取られていた。


「シンデレラ~、修理屋の連中から連絡か何か来た?」
「見たくなくなるような額の修理見積書が届いていたぞ。それと、私の引取りは1週間後の予定らしい」


アナスタシアがシンデレラに声をかけると、シンデレラに群がっていた町の住人が気を使って離れていく。
子供のイタズラか、シンデレラのかろうじて生き残っている装甲には所々落書きや怪我が早く治りますようにと見舞いの言葉が書かれていた。


落書きに気づいていないシンデレラは真面目な様子で修理の見積額をアナスタシアに報告していた。


「まあ、修理費は仕方ないわよね。正直、命が助かっただけでも儲けものだし……はあ、でも、修理費のおかげで大赤字ね。アナタの修理が終わったらしばらくはお仕事漬けね」


修理の金額を聞いたアナスタシアは盛大にため息をつく。ポケットに入っていた端末を操作してもう一度ため息をつき、シンデレラに仕事付の日々を伝える。


「不甲斐ない相棒で申し訳ないな」
「なあに、今日はずいぶん殊勝なのね。いつもの尊大で皮肉屋気取りな態度はどうしたのよ? ボロボロにされたのがショックだったの?」


シンデレラの謝罪がよほど珍しかったのか、アナスタシアは驚いた顔でシンデレラを見上げる。


「ふん、多少は責任を感じていたのだよ」


シンデレラはそう言うと頭部を横に向ける。どうやらそっぽを向いたようだった。


「なにそれ、似合ってないわよ?」
「……かもしれんな」


アナスタシアはシンデレラのリアクションが楽しいのかクスクス笑いながら、シンデレラの右足にもたれる。


「ふふ、殊勝なアナタも悪くないけど、私はいつものアナタのほうが好きよ?」
「なら、いつも通りの私で居させてもらうよ。君に対して殊勝でいる私というのは確かにらしくない。損傷のせいで思考エラーが起きているようだな」


アナスタシアはシンデレラを見上げて、損傷部位近くの装甲を撫でる。


「損傷の原因はピースベル? それともマイト君かしら?」
「さて、どちらだろうな。しかし、マイトといえば……アナスタシア、彼をどう思う?」


シンデレラの質問にアナスタシアは指を顎に当てて考える。


「良い子だと思うわよ、ご両親も含めていい人たちね。彼の家にいても気を使ってくれてるし、私のせいで酷い目にあったようなものなのに恨み言をぶつけることも、何かを要求することもないんだから」


今朝の寝起きの悪戯を思い出し、アナスタシアはクスッと笑う。


「ああ、あと、からかうと可愛いわね。顔真っ赤にして反応してくれるんだもん」
「アナスタシア、私が言いたいのはそういうことではなくてだな……」


呆れた様子のシンデレラ、アナスタシアは真面目な顔になると遠くを見る。
アナスタシアの視線の先にはマイトがシンデレラに搭乗してピースベルと戦った山が見えていた。


「わかってるわよ。初めてアナタに乗ったのに気絶することもなく、おまけにピースベルへのヘッドショットの連続命中のことでしょ?」


風が吹いてアナスタシアの銀色の髪がなびく。陽光に照らされた銀髪は艶やかに輝いていた。


「ああ、素人が初めての操縦で行えるものではない。本人は冗談めかして秘められた才能だとわめいていたが……存外、本当に才能があったのかもしれない」
そうね……たぶん、今までなら問題はなかったのよね、そんな才能があったとしても発揮する場所がなかったんだから」


アナスタシアは怪我を治療した後シンデレラの戦闘ログを確認した。
パイロット訓練も何も受けていないはずのマイト。シンデレラのブーストに耐えれるわけがない。射撃もまともに当てることも出来ない。
だがマイトはシンデレラのブーストに耐え、何発もビームをピースベルに命中させた。


「ああ、だが、奴の才能は発揮されてしまった。ピースベルを落とすという結果でな」


ピースベル、テロリスト組織【平和の鐘】のエースパイロットの機体。
銀河の各地に出没しては破壊活動を繰り返していた。
軍の討伐隊が編成されるが、現在のところ軍側にしか被害が出ていない。
そう、マイトが初めてピースベルに土をつけた第一号となったのだ。


「私が寝てる間に事情聴取とか受けてたみたいだから、耳がいい連中はすでに情報を手に入れて行動を開始するでしょうね」
「厄介なことに、本人は自覚がないようだがな」


シンデレラは軍の事情徴収を受けていたマイトの様子を思い出す。
マイトは興奮気味に自分がどうやってピースベルを落としたか自慢げに語っていた。
最初は懐疑的だった軍の調査部もシンデレラの戦闘ログを確認してマイトの証言が本物であることを認めた。


「上手いこと言いくるめられて、使い潰されちゃうこともあるかもね」
「そうだ。だからそれをーー」
「でも、それは、マイト君が選択することよ? シンデレラ、あなた何考えてるの?」


アナスタシアはシンデレラが何を考えているのか確かめようと足元から離れて、お互いの顔が確認できる距離まで移動する。


「AIにすぎない私が言うのもおかしな話だが……私はマイトがどのように成長するかを知りたい。マイトが持つ才能がどう伸びていくのかを見たい……そして、奴が惰弱な人間に使い潰されるのは見たくない」
「もとから人間じみたAIだったけど、これまたずいぶんと人間臭くなったわね……で? そこまでマイト君に惚れ込んじゃったシンデレラは、私にどうしてほしいのかしら?」


アナスタシアは両手を後手に組んでシンデレラを見つめる。


「マイトをギルドに勧誘してほしい。私たちとともに戦場をかける傭兵として、そして、私とお前で彼を育てたい。だめか? アナスタシアよ」
「別にいいわよ。ただ、彼自身やご両親の意思しだいね。彼自身は結構この田舎町での平穏な暮らしも気に入ってるみたいだし、それを無理やり奪うのは、アナタだっていやでしょ?」


アナスタシアは田舎町ののどかな風景を見回してからシンデレラを見つめる。


「無論だ。勧誘をし、もしもマイトが我々と行動を共にすると決めたらでいい」
「わかったわ。幸い、私の療養期間やアナタの修理期間と時間だけはたっぷりあるからゆっくり彼の意思を聞いてみることにするわ」
「感謝する」


アナスタシアは礼を言うシンデレラを見て驚き、目を見開く。
そして面白そうに微笑み、シンデレラを見つめる。


「ふふ、それにしても本当に惚れ込んでるわね。私があなたの操縦者だってこと忘れてない?」


アナスタシアが腰に手を当てて怒っているポーズをとる。


「忘れてなどいないさ、君は君で得がたきパートナーだ。それに、君もマイトを勧誘することに反対しないのだろう」
「そりゃあ、才能があって素直な子だもの、一緒に仕事することに反対はないわよ」


アナスタシアとシンデレラは今後の事を話し合いながら時間を潰していった。



一方マイトは山から町へと続く道を一人歩いていた。


「ホワイト・スノー、人を起こすなり電源落として休止状態に入ってどうしたんだろう?」


ぴたっと足を止めてホワイト・スノーが眠っている山に振り向く


「ずいぶんと恥ずかしいこと言ったけど……僕の考えは変わらないからね、ホワイト・スノー」


しばし無言で山を見つめる。


「でも、ここ数日の出来事は一時の夢かもね。その夢から覚めればまた普通の日々を穏やかに過ごすんだ……」
「本当にそれは、君にとって幸せな日々なのかね? マイト・ダイナー君」


マイトは背後からかけられた声に振り向く。
マイトの背後にはトリデオテレビで見たこの宙域政府の軍用車と軍服を着た金髪の中年男性が立っていた。
肩や胸に勲章が沢山ついていることからそれなりに地位が高いことが推測できた。


「えっと……どちら様ですか?」
「おっと失礼、私はマクレーン・ラウル。この国の軍の者だ」


マクレーンと名乗った軍人は携帯端末を操作して身分証明書を立体映像を映し出す。
マイトは細かい部分はわからなかったが、この国の軍人であることを信じたようだ。


「えっと……事件のことは全部話しましたけど……?」
「ああ、事件のことはあまり関係ないよ。今日は、君自身と話してみたくてね」


マクレーンは危害を加える気はないと示すように両手を軽く上げる。


「それで……マイト君、さっきの君の独り言、たまたまとはいえ、聞いてしまったのだよ。マイト君、君は本当に平穏な日々だけに満足しているのかい?」
「も、もちろんですよ。星は辺境で少し退屈だけど、平穏で過ごしやすくて僕は満足してます」


マイトの答えにマクレーンは手で口を抑え何かブツブツ聞き取れない小声でつぶやいている。


「ふむ、そうかね? 君はこの退屈な惑星から出たいなどとは考えないのかい?」
「そりゃ、たまには思いますけど……それでも僕はこの星での生活に満足してるんです」


マイトはちょっとムッとした様子でマクレーンに答える。
たしかに辺境で退屈な星だとマイトは常々思っていたが、改めて第三者に言われるとマイトは不快に思ったようだ。


「ふむ、たしかにこれまでは満足していたのだろうね。だが、これからはどうかな?」
「え?」
「今までの君はこの平穏な日常が崩れることがないと信じていた。だからこそ、平穏という名の穏やかな日々満足していた」


マクレーンは諭すような口調でマイトに近づいていく。


「だが、君は知ってしまった、体験してしまった。そう、死と隣り合わせの、それでいて興奮冷め止まぬ非日常を……さて、本当に君はこれからこの緩やかな日常に満足できるのかな?」
「そっ、それは……」


マクレーンの問いにマイトは答えることができなかった。
ピースベルとの戦闘、当初はシンデレラ達を救うことで頭がいっぱいだった。
シンデレラに搭乗した時、初めて撃った攻撃が命中した時、山の麓に集まった皆の前でコクピットから顔出した時の皆の驚いた顔……何とも言えない高揚感がマイトを包んだ。


「もちろん、君がこの平穏な日々で満足できるというならそれはそれでいい。国民が穏やかな暮らしを過ごしているというのは我々軍人にとって誇りに思えることだからね」


マクレーンは端末を操作する。次に表示されたのは軍の新兵募集のホログラフだった。


「だが、もしも、君が体験した非日常を忘れることができず、死と隣り合わせの世界に憧れを持つというのなら……どうだろう、マイト君、君は軍に入る気はないかね?」


「僕が……軍人?」


マイトはマクレーンの誘いに驚き戸惑う。


「ああ、そうだ。君には間違いなく才能がある! 君が望むのなら、私は君を軍に招こう。君の才能ならば軍で一年ほど鍛えれば間違いなくエースになれる! 私は君のような才ある若者に将来の道の一つを示したい。そのために私は今日、君に会いに来たのだよ」
「僕が軍に入ってパイロットになる……この星ののんびりとした生活とは違う……シンデレラに乗った時のような刺激的な日々を過ごす……」


マイトは想像する。軍人となってロボットに乗って宇宙を駆け巡り敵を撃ち倒していく自分の姿を。


「どうかな、マイト君。私を信じて――「甘い言葉だけの勧誘っていうのはあんまり感心しませんよ? マクレーン・ラウル大佐?」


そのまま悪魔の囁きのようにマクレーンはマイトに軍入隊の同意書を突き出す。
そのまま同意書にサインさせようとするが、不意に現れたアナスタシアが妨害する。


「……これは、これは、アナスタシアさんではないですか。お怪我の具合はいかがですかな?」


マクレーンは舌打ちしたい衝動を必死に押し殺し、平然を装ってアナスタシアの体を気遣う。


「あら、心配してくださるの? 私なら、大丈夫ですよ? 治療用ポッドに入って少し安静にしたら直るような怪我だですもの」


アナスタシアも表面上は微笑みを浮かべて答える……が、目は笑っておらず、自身の体でマイトを隠すように動く。


「それはよかった。貴方の様な優秀な傭兵は、なかなかいらっしゃいませんからね」
「そうよね、私みたいな傭兵がいれば、素人の子供を騙してまで軍に入れる必要なんてないものね」
「え、騙すって……どういうことなんですか!?」


マイトがアナスタシアの横から顔を出してマクレーンに問う。


「そのままの意味よ。彼の言ってることは確かに本当のこと、軍が君を欲しがっているっていうのもわかる。でもね、彼、メリットしか言わないで、マイト君をその気にさせてたのよ」


マイトの問に答えたのはアナスタシアだ。マクレーンは無表情を装い無言を貫いてる。


「マイト君が自分から軍に入ることを決めれば、ご両親の説得も楽だし、契約さえすませてしまえば、マイト君が後でどんなに騒いでも問題がない。それに……」


アナスタシアは睨むようにマクレーンを一瞥する。


「あとはマイト君を自分たちに忠実な兵士に仕立て上げれば、それで優秀な駒の完成。実に貴方たち好みのやり方よね? 特務部隊ザックスのマクレーン・ラウル大佐?」
「ハハ、人聞きが悪いですな。しかし、私の勧誘の仕方が悪かったのも事実。マイト君、今回はここまでということで、後日またゆっくりと話をしに行くよ」


降参だと伝えるようにマクレーンは肩を竦めて背を向ける。


「今度はちゃんとメリット、デメリット、自分たちの所属を明記して来たほうがいいわよ。私があることないことマイト君に吹き込んでおくから」
「フフ、これは手ごわい」


マクレーンはそう言い残すと止めてあった軍用車に乗り込んで走り出す。


「とりあえず、これで良しとこれで良しと。だめよ、マイト君、知らない人の話を信じたら。甘い言葉の裏にはろくでもない事実が隠れているんだよ?」
「あのー、アナスタシアさん? いったい何がどうなってるのでしょうか?」


マクレーンが立ち去ったことを確認するとアナスタシアはマイトの方に振り向いて注意する。
その様子は歳の離れた弟の悪戯を叱る姉のようだった。
マイトは急な展開に戸惑い、事態を理解しようとアナスタシアに質問する。


「んー、そうね……まあ、一言でいっちゃうと、マイト君は、現在、いろんな国や組織から狙われてます」
「へっ?」


さらりと今の天気を述べるような気軽さでアナスタシアはマイトの今置かれている状況を説明する。
マイトはアナスタシアの言葉の意味が理解できないのかすっとんきょんな返事を返した。


「この間、マイト君が落とした機体、ピースベルっていうんだけどね。結構有名なテロリストなのよ、あの機体のパイロット。それで、そんな有名な機体を落としたマイト君は、今現在あらゆる国や組織から注目されてるの」


アナスタシアはゆっくり言い聞かせるように説明を続ける。


「どこの国も、組織も優秀なパイロットっていうのは欲しいのよ。で、さっきみたいに甘い言葉で勧誘したり、物で釣ったり、場合によっては多少強引な手段で手に入れようとしちゃうわけ」
「そんな、この間のは偶然だし、僕一人のためにそこまでするのですか!? 冗談ですよね?」


マイトは乾いた笑いを浮かべて冗談であることをアナスタシアに求める。
アナスタシアは真剣な表情を崩さず、じっとマイトを見つめた。


「【偶然で落とせるほどピースベルは弱くない】これが大部分の考え、もちろん私だってそう思うわ。まあ、そんなわけで、マイト君は将来有望なパイロットっていう風に考えられてるの。だから、さっきみたいに、君を勧誘しに来る人はこれから増えてくるわ」


アナスタシアはマイトの両肩を掴んで見つめる。
アナスタシアのサファイヤブルーの瞳にマイトは吸い込まれるような錯覚に陥る。


「さっきは私が話を中断させたけど、マイト君が自分の意思で勧誘を受けるっていうなら私は止めないわ。さっき止めたのは、君がどういう風に思われてるかを教えるためと、あからさまな上手い話には裏があるっていうことを教えるためだからね」
「ぼ……僕は……むぐっ!?」


マイトが何か言おうと口を開くとアナスタシアの指がマイトの唇を押さえる。


「今はまだ、どうするかをすぐに決める必要はないけど、これからどうしたいのか、きっちり考えておいたほうがいいわ」
「わかりました……」


アナスタシアはマイトの顔をしばらく見つめて、にこりと笑う。
アナスタシアの微笑みにマイトは頬を染めて視線をそらす。


「それじゃあ、とりあえず、お家に帰ろうか。おじ様とおば様にも今の話をしておかないといけないしね」


アナスタシアが先頭を歩き、マイトがとぼとぼとその後ろをついていくように歩く。


「パイロットか……」


マイトはふと足を止めて呟くと、ホワイト・スノーがいる山を見つめる。


「ホワイト・スノー……僕がパイロットになったら一緒に来てくれる?」


その呟きに答える権利を持つ者は今は眠っていた。

          

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