流れ星が落ちた場所で僕は君と出会った。

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

雛鳥が羽ばたく時

マイトが眠る寝室にアナスタシアが足音を忍ばせて侵入する。
マイトを起こさないように慎重に近づくアナスタシア。マイトの寝息が聞こえる距離まで近づくと、アナスタシアはマイトの耳元に顔を寄せた。


「マイトー、朝ですよー、朝ごはん冷めますよ、ふぅ~」
「ふぇっ!? アッ、アナスタシアさんっ!?」


甘く囁くように声をかけてマイトを起こすアナスタシア。
悪戯心が湧いたのか、最後にマイトの耳に吐息を吹きかける。マイトはその吐息に驚き飛び起きると息を吹きかけられた耳を抑えて周囲を見回し、アナスタシアの姿を確認すると距離を取るようにベッドの端による。


「お・は・よ! 目は覚めた?」
「あ、はっはい! 目が覚めました、おはようございます!!」


アナスタシアはクスクス笑いながら悪戯が成功した事を喜んでいる。
マイトは顔を真赤にしながら目が覚めたことをアピールする。


「ふふっ、ご飯らしいから早くおりてね」


アナスタシアはマイトに朝食の準備ができていることを伝えると部屋を出て行く。
マイトはまだ少しぼんやりしながら、息を吹きかけられた耳を気にしながらアナスタシアの後ろ姿を見つめていた。


シンデレラとピースベルの戦いから3日経った。
ピースベルとの戦いの後、シンデレラに搭乗したまま町へと戻った為、町は大騒ぎになった。
なにせ戦略価値など無い辺境の農業惑星、申し訳程度の防衛網と旧式の民間警備ロボしか無いのに軍用の本格的な戦闘用ロボがやってきたのだ、騒がないわけがない。
そんなロボットからマイトと怪我をしたアナスタシアが降りてきて、緊急搬送の間に事情聴取、マイトは素直にシンデレラに搭乗してテロリストと戦った事を話したことで治安組織と両親からたっぷりとお説教を貰っていた。
最終的にはマイトのおかげで星が救われた、無茶はするなと言う注意だけでお咎めは無しとなった。


「おはよう、マイト。朝ごはんできているわよ」


マイトが1階のリビングに向かえば、母親とアナスタシアが朝食の配膳をしていた。
シンデレラのパイロット、アナスタシア・ドラーフ。マーセナリーという職業で軍からの依頼でマイト達がいる惑星宙域の哨戒任務中にテロリストのピースベルと遭遇、交戦するも返り討ちにあい、逃亡中にこの星に堕ちたとマイト達に説明した。


アナスタシアの怪我は骨折や出血などが多かったが、幸いにも後遺症になるような怪我はなく、丸1日治療用の医療ポッドで過ごした後は安静にしていれば良い程度だった。


アナスタシアは最初、どこかのホテルにでも泊まって安静に過ごそうとしたが、そこは辺境の田舎町、まともに運営してるホテルなんて一つもなく、マイトの両親のご厚意でマイトの家に宿泊することになった。
シンデレラはアナスタシアがが契約している修理屋が引取りに来ることになってて今は町の外れに待機させてる。
辺境の田舎町には珍しい軍用の戦闘ロボットだから大人から子供までみんなが見に行ってて動物園の客寄せパンダみたいな扱いになってる。


「おはよう、マイト、アナスタシアさん」


リビングのテーブルにはマイトの父親がもう席についており、コーヒーを啜りながら電子新聞を見ていた。
電子新聞の一面記事にはテロリストとシンデレラとの戦闘のことが書かれていた。


(そういえば、あれからホワイト・スノーと会ってないなぁ)


「僕、今日は一人でブラブラするね」
「私も今日はシンデレラのところに行こうかしら。きっと見世物にされて拗ねてるだろうし」


マイトは朝食を食べながら山の洞窟にいるホワイト・スノーの事を思い出す。
シンデレラに搭乗してテロリストと戦ったことを話したらどんな反応するだろうと思い浮かべ、散歩と称して会いに行くことを決めた。



「てなわけで、僕の秘められていた才能のおかげで敵をやっつけてやったんだよ!」
「…………」


マイトはいつもの洞窟を通ってホワイト・スノーがいる鍾乳洞の広間にたどり着くとピースベルとの戦闘を興奮した様子で伝える。


「ホワイト・スノー? ずっと黙っているけど、どうしたの? どこか調子悪いの?」
「いろいろ言いたいことはあるが……マイト、お前のやったことは無謀の一言に尽きる」


ホワイト・スノーが人間か呼吸ができる機能があれば盛大にため息を付いていただろう。
呆れたような口調でマイトの行動をホワイト・スノーは咎めた。


「何度も言うが私や、お前が助けたという機体も所詮は兵器だ。兵器は壊れても修理すればいい。なのにマイト、お前はそんな兵器のために命を懸けた。そは無謀で、無意味な行為だ」
「だから、兵器とか直すとか、そういう話じゃないんだってば! ホワイト・スノーだってAI壊れたら直しようがないでしょ? いくら直ったとしても、それは僕の知らない別物のホワイト・スノーなんだよ? それじゃあ意味がないよ!!」


いつものようにホワイト・スノーの兵器理論にマイトが噛み付く。


「そこがそもそもの間違いだ。兵器は使えればそれでいい。AIも、操作を簡便化するためのものだ。簡便化が不要なら、AIを積まない機体だって存在する。そんなものを救うために命を懸けるのは合理的ではない」
「ホワイト・スノーの考えこそ間違いなんだよ! 合理的とか、そういうんじゃないんだよ! 僕が大切にしたい、守りたいって気持ちの前には合理的とかそんなことどうでもいいんだよ!!」


マイトはホワイトスノーの脚部をバンバンと叩いて自分の考えを訴える。
ホワイト・スノーは首を下に向けてマイトの抗議を聞いていた。


「僕は、ホワイト・スノーが同じような状況でも絶対に迷わず助けようとするからねっ! それは、ホワイト・スノーが僕の友達で、失いたくないって思えるからなんだよ!!」
「だが、それでお前が死んだら元も子もないだろう。今回はうまくいった……だが、次もうまくいくとは限らない。出来うる限り無謀なことをしないのが賢明だ」


ホワイト・スノーは口調を変え、諭すような感じでマイトを説得する。


「……決めたっ! 僕はこれから誰かがピンチの時には、絶対負けないし死なないでピンチの人を助けてみせる! こうすれば問題ないんでしょ?」


マイトはナイスアイデアが浮かんだとばかりに自慢げな顔で宣言する。


「無理だな。その考え方には論拠となるものが残念ながらない。自分より格上に囲まれれば勝つことは不可能だ。そして、人は簡単に死ぬ。それはマイト、 お前も例外ではない」
「論拠とか、そんなことはどうでもいいよ! 僕はやるったらやってやるんだから! で、ホワイト・スノーを驚かせてやるんだからね!!」


ホワイト・スノーはAIが算出する論理的思考でマイトを諭す。
だがマイトは聞く耳を持たず、根拠のない自信を全面に押し出してホワイト・スノーに指差し宣言する。


「…………」
「な、なんか言ってよ! ぼ、僕一人で熱くなって恥ずかしいじゃないか!!」


無言でマイトを見つめるホワイト・スノー。沈黙の空気に耐えきれなくなったのか、マイトは恥ずかしそうに顔を真赤にしてホワイト・スノーに文句を言う。


「ああ、そうだな。今のお前の行動は客観的に見ても、とても恥ずかしいものだろう」
「うう、うるさいっ! と、とにかく僕はやるったらやってやるんだから! それより、今から僕は寝るから、適当な時間になったら起こしてよ!!」


照れ隠しにマイトはホワイトスノーの股の間に隠れるように入り込むと横になる。
話疲れたり、お互い話すことがなくなった時、マイトはこうやってホワイト・スノーの側で仮眠を取っていた。


「だから、眠るならここでなくても家に帰ればいいだろうに……いつも通り惑星時間15:00に起こすぞ」
「うん、よろしくね」


しばらくすると足元にいるマイトの寝息が聞こえてくる。眠ったことを確認するとホワイト・スノーはマイトが言っていたピースベルとの戦闘の状況をAIを起動させ戦術シュミュレーションする。


「……AIのサポートがあったとはいえ、大破寸前の機体で、素人のマイトが勝利する? 何度シュミュレートしても不可能だ……マイトには本当に才能があったということか……それも、常人では決して手の届かない高みへと至ることのできるほどの」


【……決めたっ! 僕はこれから誰かがピンチの時には、絶対負けないし死なないでピンチの人を助けてみせる! こうすれば問題ないんでしょ?】


「所詮、子供が故の無謀な発言だが……」


ホワイト・スノーはマイトを見つめた後、空を見上げるような仕草をする。


「もしも、もしも私の状態が完全で……相応のパイロット訓練を積んだマイトが私に乗れば……私はかつてのようにあの広い宇宙を縦横無尽に駆け抜けることができるのだろうか?」


その呟きは誰の耳にも入ること無く、ホワイト・スノーは静寂の中、安らかな寝息を立てているマイトを見つめ続けていた。


          

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