流れ星が落ちた場所で僕は君と出会った。
戦場の舞踏会
「右腕は消し飛び、跳ぶことはできても飛ぶことはできない……どうやらここまでのようだな。まあいい、十分に時間は稼いだ。あとはなるべく原型が残ることを祈るのみだな……派手に壊れて修理費が払えないなんて嘆くアナスタシアなんて見たくないからな」
シンデレラは小破したブースターを無理やり駆使して、バッタのように左右に跳んでピースベルの攻撃を回避し、牽制のビームを撃ち続ける。
だが、パイロットが居ない今の状態ではシンデレラは十二分に性能を発揮できない。生き残っているのもピースベルのパイロットが余裕を見せていたぶっているからだ。
「ん?」
そんな戦闘状態の最中、シンデレラはレーダーに人型の熱源を探知する。
カメラ機能の一部をそちらに向ければ、アナスタシアを背負って逃げたはずのマイトがこちらに向かって走っていた。
「良かった! まだ動いてる!!」
マイトは躊躇すること無くシンデレラに向かっていく。シンデレラは牽制のビームを連発してピースベルと距離を開けるとマイトの方に跳んだ。
「なっ何をしいてる!? 何故戻ってきたっ! ここに来るなっ! 奴が、ピースベルが上にいるのが見えないのか!!」
「見えてるよ、それぐらい! それよりも、お願い! 僕を君に乗せてっ!!」
ピースベルが放ったビーム砲がマイトとシンデレラの近辺に撃ち込まれ、爆風が二人を襲う。
「くっ! 何をばかなことを!! 私に乗ったところでお前に何ができる! それより急いで逃げろ!!」
シンデレラがマイトを爆風から守るように覆いながら逃げるように促す。
「そりゃ、何もできないかもしれないけど! シンデレラ、君は操縦者がいないから簡易的な行動しかとれないって言ってたでしょ? だから、僕がシンデレラの操縦を手伝えば、シンデレラだって何とか生き残れるかもしれないでしょ!!」
マイトは爆音に耳を両手で塞ぎながらも声を張り上げてシンデレラに訴える。
「馬鹿が!! 何もできない素人のマイトが乗ったところで何も変わらん。 良いから逃げろ、お前には何もできないんだ!!」
また上空からのピースベルの攻撃で爆発が起こる。破裂した土や礫がシンデレラの装甲にぶつかり金属音が鳴り響いている。
「シンデレラの言うとおり、僕は素人だよ! エースでも撃墜王でも英雄でも何でもない! だけど……だけど、大切な人のために自分を犠牲にしているシンデレラを見捨てることなんてできないんだよっ!!」
恥も外聞もなくマイトは泣き叫び、シンデレラに訴える。
シンデラはマイトの訴えを聞いて迷うように見つめる。
ピースベルは二人の葛藤など歯牙にもかける様子もなく、猫が獲物を甚振るようにビーム砲をうち続ける。
「ええい、大馬鹿者が!! もうどうなっても知らんぞ! さっさと乗れっ!!」
「うんっ! ありがとう、シンデレラ!!」
シンデレラは覚悟を決めたのかコクピットを開放しマイトを招き入れる。
マイトは飛び乗るようにコクピットに入り込むとパイロットシートに座り込む。
パイロットシートにはところどころまだ乾いていない血痕が残っており、戦闘の激しさを物語っていた。
「いいか、マイト! 貴様は私の指示通り上空のピースベルに向かって射撃しろ。左のトリガーを引けばレーザーが撃てる、移動は私が補佐してやる」
「わかった! 僕のことは気にせずにシンデレラは好きに動いて!」
パイロットシートにマイトが着席したことを確認すると自動的にシートベルトがマイトを拘束する。
マイトはコクピット内の操縦桿を力いっぱい握りしめ、メインカメラに映るピースベルを睨む。
「当たり前だ。そもそも貴様を気遣えるほど楽な相手なら苦労はしない。私の機動についてこれずに気絶をするなよ」
「もちろんだよ!」
「よし! 一発御見舞してやれ!」
メインカメラにターゲットサイトが表示される。ピースベル側もロックされたことがわかったのかランダム回避起動を行う。
「まずは一発! 当たれええええええ!!!」
マイトがトリガーを引く。それに合わせるようにシンデレラの残った腕に搭載されたビームガンからビームが発せられる。
ピースベルは誘蛾灯に誘われる蛾の如く、シンデレラから発射されたビームに頭部が命中する。
「あっ……当たった!!」
「上出来だ、ビギナーズラックというやつだな。ピースベルの頭部アンテナが消し飛んだようだ。いいぞ、このまま撃ちまくれ」
「うんっ!!」
命中箇所の爆発が収まるとピースベルの頭部は破損し、特徴的な角が破壊されていた。その角がアンテナの役割をしていたようだ。
「このっこのぉっ!!」
独特の発射音を連続で響かせて、シンデラのビームガンから数発のビームが発射される。
ピースベルも反撃として背部に搭載されたビーム砲を連射する。
「ちぃっ……マイト、かなり揺れるぞ! 覚悟しておけ!!」
「うっ……うわああああああ!?」
シンデレラはピースベルの攻撃をかわそうとブーストを駆使して右へ左へと飛び跳ねる。
加速する度に、近くで爆発が起こる度にマイトは悲鳴を上げた。
「大丈夫か、マイト? 意識はあるか?」
「うっ……うん……思ったより大丈夫っぽい……シンデレラは?」
「大丈夫だ、問題ない。しかし、ピースベルはお前に顔を壊されてご立腹のようだな」
メインカメラに映るピースベルはマイトが連発で撃ったビームが何発か命中しており、特に頭部の損傷がひどかった。
「凄く怒ってるって……感じだね」
「ああ、問題ない。むしろもう少し挑発して奴がこっちに近づいてくるようにしたいところだな」
互いに攻撃し合うが、ピースベルはマイトを警戒し、シンデレラは不完全な状態故お互い決定打が撃てずにいた。
「近づかせてどうする……うわっ!?」
シンデレラの間近で爆発が起こり、衝撃にマイトが悲鳴を上げる。
「私の奥の手とでもいうべき攻撃方法がある。それを打ち込めば奴を行動不能ぐらいまで持ち込めるだろう。だが、その攻撃は相手が近くにいないと効果がない」
シンデレラはクイックブーストを駆使して回避行動を取り続けながらマイトに自身が持つ切り札の存在を知らせる。
「それで、挑発……うん、僕やってみるよ! また顔めがけて撃ってみる!!」
マイトは目を閉じて深呼吸を繰り返す。繰り返すごとに集中力は高まっていき、周囲の音が聞こえなくなっていく。
マイトはメインカメラに映るピースベルを見つめる。ピースベルはランダム回避を繰り返しながら牽制の攻撃を繰り返す。
もし第三者がマイトを見ていたら驚愕するだろう。マイトの眼はランダム回避するピースベルの移動先を予測しているかのように動いて捉えている。
「今だっ!!」
最高のタイミングでマイトはトリガーを引く。
発射された乾坤一擲の一撃は一寸の狂いなくピースベルの頭部に命中し、頭部を破壊する。
人間なら即死だろう。だが、ピースベルはロボット……機械だ。
頭部が破壊されてメインカメラやセンサー類の大半がやらてたとしても稼働はできる。
窮鼠猫を噛む。その言葉が似合う状況にピースベルのパイロットは怒りに我を失ったのか、片腕のアームビームソードを展開すると肉薄しようとシンデレラに向かって急降下する。
「よし、いいぞ。奴が近づいてきた。いいかマイト、私のいうタイミングで中央のトリガーを引け。そのあとはとにかくレーザーを撃ち続けろ、いいな」
「うっ……うん!」
シンデレラの指示に従うようにマイトは中央のトリガーを握る。じわりとにじみ出る汗、緊張から喉が渇くのかつばをごくりと飲み込むが、すぐに喉が渇く。
ドクンと自分の心臓の音が聞こえる気がする。計器はピースベルとシンデレラの相対距離を表示し、目まぐるしい速度で変化していく。
「今だ! トリガーを引け!!」
「うわああああああっ!!!!」
シンデレラの合図にマイトは涙と鼻水を撒き散らしながら両手で中央のトリガーを引く。
トリガーを引くとシンデレラの中から半透明のフィールドが展開され、大爆発を起こす。
ピースベルは爆発の直撃を受けて大破する。ピースベルの残骸から小型の戦闘機が発射される。
「パイロットは脱出したか。だが、ピースベル本体は撃墜。今回は我々の勝ちだ」
シンデレラは大気圏を脱出しようとする戦闘機を見上げて呟く。
「はぁ……はぁ……終わった……?」
マイトは荒い呼吸を繰り返し、緊張と恐怖で歯をガチガチ鳴らしながら呟く。
「ああ、お前のおかげで助かった。礼を言う、マイト」
「えへへ……こっちこそありがとう……君を守れてよかった」
緊張が溶けたのかマイトはコクピットで脱力する。
「そうだ! シンデレラのパイロットさん、病院に運ばないと!」
「そうだな、本来ならマイトが運んでいるはずだったんがな」
マイトはパイロットのことを思い出し、シンデレラに回収をお願いする。
シンデレラは了承しながらも釘を差すように皮肉を言う。
「けっ、けが人をむやみに動かすと危険なんだよぉ」
「正論ではあるが貴様は放置してきただけだろう」
「ほっ、放置したんじゃないよ! ちゃんと僕の上着かけたり、ハンカチで傷口縛ったり、応急処置はしたんだからね!」
「で、そのまま私のとこに来たのか。私とお前が死んでいたら、彼女もそのまま死んでいたな」
「う~~~……シンデレラがいじめるぅ~」
一方その頃、大気圏外へと脱出したピースベルのパイロットはコンソールを操作し、協力者がいるステーションへと航路を取っていた。
「まさか、あんな状態で俺のピースベルを破るなんて……信じられないな。テロリストは滅ぼさないと世界は平和にならない! だが……今は引こう。でも、お前達テロリストは俺達が必ず滅ぼす……必ずだ……平和の鐘の名の下に」
ピースベルのパイロットがそう呟くと、戦闘機は加速し、拘束の速さで目的地へ飛び去っていった。
          
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