僕と最強幼女と狂った世界
ぱいせんにちじょう4
「一緒にテレビでも見ようか」
中に入ると先輩のおばあちゃんは、そんなことを言ってきた。八畳半くらいの大きさの居間に、テレビ四角いちゃぶ台、そのほかの家具たちがあり、まるでおばあちゃんの家に来たかのような、そんな感想が僕に生まれた。しかし僕は生まれてこの方、祖父母の家には一度も行ったことが無かった。それは僕の親は二人とも祖父母たちとは絶縁をしていたらしく、僕のように天涯孤独の身で(この場合は自らなったという感じだな)僕を生んだと聞かされた。別に僕には生涯、おじいちゃんやおばあちゃんがいなかったからと言ってあまり不便なことは、あったにしろなかったにしろ、どうしようもないことだと割り切っているのでそんなにまでは気苦労はない。
  先輩は晩御飯の準備をすると言って居間の横にあるキッチンへと行ってしまった。だから今、この居間にいるのは僕と、先輩のおばあちゃんの二人だけとなっている。少しだけ、何を話そうかと、沈黙をしていると、テレビのリモコンを押しながら、先輩のおばあちゃんは起用にこちらに話しかけてきた。
「やく君は一年生だったけ?」
「はいそうです、先輩と学年と歳が一つ下ということになりますね」
「ねえねえ」間答をいれずにおばあちゃんは、ちいさく身を寄せるようにして、僕の身を腕を引き寄せると「華憐ちゃんのどこが好きになったの?」と、まるで二人の仲を楽しんでいるように彼女は聞いてきた。
「いやいや」とお茶を濁すようにして僕は彼女の言葉に手を振りながら返した。
「ふふふ、かわいいね、やく君は」僕の反応にそのような感想を漏らして「華憐ちゃんは、ああ見えて人見知りが激しい子でね」と、バラエティーの番組が気に入らなかったのか、何回か変えた後「でもよかったよ、やく君のおかげで最近元気がよくなったからね」としたから覗き込むような視線で答えた。
「初めに会った時から、あまりそんな印象はなかったですよ。すごいやさしいお姉さんっていう感じでした」僕は条件反射的にそう答えていた。
「それはよかった。どんな魔法を使ったのかねと思ったら、恋は魔法っていうもんね」
と、やっと気に入った番組を見つけたのか、行った後にガハハハと笑った。
そして笑顔の顔を一時停止したかのようにしてやめると「あの子は両親のことで苦労しているからねえ」そう呟いたおばあちゃんは、歳がとったかのように苦労をしている顔になった。僕は少しだけ沈黙して。
「彼女から少しだけその話を聞きました。僕は何も答えてはいませんが」
できるだけ声音を真っ当に意識して答えた。僕が答えなかった理由は、どんな言葉にも彼女の心を癒すにはあまり意味はないと思っていたからだ。それはどうしようもない現実ならば、変えようのない現実ならば、それは仕方のないことなんだと僕は、知っているし分かっている。そうやって少しだけ手を付けただけでまるで全体を見てきたような、浅はかな決めつけが僕の悪いところなんだろうとそんなこともわかっている。だけれど、現実にはどうしようもないことはある。それが彼女にとって両親のことならば、僕はそれを受け入れて生きていくべきだと、そこから彼女が幸せになっていくべきだと思う。だから僕は一方的なその考えを、歳端もいかない人間の浅はかな考えだとしてもおばあちゃんにこういった。
「ダメなものなら仕方ないと――僕はそう思います。人生には折り合いを付けて生きていくべき時があると思っています。結局は何かが変わらなくても、自分を幸せにするのは自分ですから。僕の勝手考えですけど」
言葉に出して本当に勝手なものだと自らながらにそう思った。
「うん、そうだねえ。うん、たしかに」おばあちゃんは僕の言葉の合間合間にそう返して、「やく君はやさしい人だね。だけどね、だけどおばあちゃんから一つ忠告しておくね」
老婆の優しさの一片を垣間見たようなそんな声のトーンで言った。そして付け加えて「詐欺に引っかかりそうなほどあなたはやさしい人だから人の話は半分まで聞いてるんだよ」
  ニコっと笑顔でそう答えた後、僕の手をスリスリした。普段何か指を使う仕事をしているのかザラザラしていた。だけれどすごい温かみを感じるような温度が僕の手に伝わった。
僕におばあちゃんがいたらこのようなぬくもりにあるんだろうなと、僕はそんなことを思った。それほどまでに、聖母の春の日差しのようなものが確かここにあった。
「僕は優しくなんてありませんよ」
そのぬくもりを感じて、張り返すように僕はこう答える。
僕と言う人間を演じている僕に、やさしさというものは無い。それは自発的にでたものではなく、僕が”こうだから”と演じているからこそ、それはおばあちゃんの言っていることは、僕が”僕”を演じてきた副産物で貰った感想であるわけで、決して僕は本心から出たような言葉は無いわけである。それは僕には心が無いからだけれど。
「そんなことないよ、もし本心じゃなくても、人のためを考えて行動できるって優しさだと思わない?」
それはさも当たり前のように、一片の狂いもなくおばあちゃんは言ってきた。僕はおばあちゃんの心があるという前提で話してくるのが、おばあちゃんがまだ僕を普通な人と認識しているというその事実に言葉には表せないような、そんな考えに頭が埋め尽くされて、その時の僕の顔はどのような顔であったのか、今僕にはわからないけれど、多分あまり思い出したくもないことでもあった。
だからこそあえて表記しないという選択肢を取る。
「そうかそうか」続けて、「やく君に聞きたいことみつけたの」
「……聞きたいこととは何でしょうか?」
「やく君は、魔法のような奇跡とかあると思う?」
  不可解で不思議な力が、僕には誰もがしがみつくような希望だなんてことはわからない。だけれど、これまで一週間その間に見てきた不思議な出来事や、不思議な力が希望というのなら、ならば希望や夢はあるとそう思う。ただそれだけであった。
「ありますよ、絶対に」
 僕はつくづく天野路夜久であるなとわかる会話であった。
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