僕と最強幼女と狂った世界

土佐 牛乳

ぱいせんにちじょう2


 ながながした反省文も書き終わり、ランニングをするために学校を出て八分後。
 疲れた。ここで一つ、疲れたと疲れたを足すと、『つつかかれれたた』とわけの分からない文になるなと気づいてしまった僕。まあたいして意味はない独白であった。反省トレーニングという名の地獄を終えた僕は、予想外にも早くランニングが終わったらしく、予定よりも早い待ち合わせとなった。単純にスタフェリアとの契約のため、肉体強化をされている僕の体力は、後ろで走っていた先生の体力では追いつけないような速さになっていたためだ。加減をすることを忘れてしまっていた僕は、どんどんと自転車に乗っていた先生と距離を取って一目散に、ゴールである学校まで自転車に乗っている先生よりも、早くついてしまったのであった。その指導担任の先生は、空手部の顧問であったため「はぁ…… はぁ…… お前さなにぶらついてるんだよ(要するに帰宅部のこと?)。うちの空手部入らないか」と聞かれて、低調に断った。そりゃもう僕の力じゃ、確実に一人やってしまうかもしれないからだ。先生お勤めお疲れ様です。

「あ、やっくん待った?」

 左の体育館へ続く廊下から一二先輩が駆けてきた。手をあげて制服のブラウスを手で抱きかかえながら来て、シャツは急いできたのか少しだけはだけていた。

「いえいえ、たいして待ってはいませんよ」

「そうかそうか、それは良かった。席を取るためにも速くバスへ行こ!」

 にっと笑顔になると、足早に靴を持っていた僕の手を取り、彼女の二年生の下駄箱へと引っ張り、移動したときの彼女の少しだけ湿っている髪に少しだけ女性らしさを感じつつ、部活が終わってすぐなんだろうなと思いつつ、僕は彼女と扉を開けて玄関を後にした。
  学校指定のバスに向かいながら彼女が話しかけてきた。

「で、さあ…… ところてんの話なんだけど」

「ああ、貰ってくれって話ですよね」

「そうそう、私の家ってほらバス降りてすぐだし」

「へえ、あそこだったのか。富田商店でしたっけ?」

「アタリ! おばあちゃんの家でもあり、店でもあるんだ」

 エッヘンと、彼女は腕を腰に当て胸を前にして、顔は王様のようになっていた。

「たまたま、通りかかったとき、元気なおばあちゃんが店じまいしていました。僕もあんなにアクティブな人になりたいです」

「たしかにうちのおばあちゃん元気かも。話変わっちゃうけどやっくんって私と同じ皆木中、出身だっけ?」

「いえ僕はとなりの、西皆木地区の塩野目中ですよ。中学生だった去年から、マンションが多いこの地区に引っ越してきまして」

「へえ、ここの団地ってそれなりに広いから高いと思うけどさ、やっくんの家族はお金持ちだったりするのかな?」

「いいえ、そこまでですよ、生活費を親戚から借りているんです。こうなったのは、天涯孤独だからなんですけど、今は一人で生活しています」今はスタフェリアが同居しているわけなのでそこまで孤独というわけではなくなってきた。

「そ、そっか…… なんだかへんなこと聞いちゃってごめんね」

 彼女はなぜか申し訳がなさそうにしていた。なぜ彼女がこんな顔をしてるのか僕にはわからないけれど、しかしここは彼女の暗い顔を明るくするためにも、何か明るい話題を。

「わたしもって言うのもアレだけどさ。両親の仲が悪くておばあちゃんの家にいるんだ」

 彼女は少しだけ前を歩いた。それは彼女が顔を見せないようにするためなのか僕にはわからなかったけれど、だけど彼女がいまどう思っているのかなんてのは推測に過ぎないわけであるが、嫌な気分であることは、なんとなくとも僕にはこの空気で分かった。そして彼女はこう続けた「わたしはね、あんまり両親のことは好きじゃない。だから結婚とか、親になるとかそういうものにはあまり憧れてはいない」

 光り輝く満月を見て、彼女はそう呟いた。僕はいままで、親が死んでどうだっただろうか。あんまり考えたこてゃなかったことでもあり、やっぱり僕も親とかいろいろなことを考えるようなことはいままでなかったので、だからだろうか、彼女がとても遠くにいるような人だと思ってしまった。それは単純に僕には感情の突起があまりにも無いから。それは多分無くなっていると言ってもだれもが納得するだろう。いままで芝居で、人の行動を推測してそれ相応の対応をした、機械のように生きてきた僕だからだ。彼女がこうも僕を相手に、さらけ出しているため、僕も自分という人間を知ってもらうためにも正直に言うべきだと思った。

「僕は、小学生の頃に親が死んで、その時僕はなんとも思っていなかったんです。それは世間一般の思春期相応の男の子に現れる、異端に憧れた考えとかではなくて、ただほんとうに僕は、何とも思えないような人間なのです」誰かは、僕のことを虚無だと言っていた。今になってわかる。僕は文字通り空っぽだ。こうも続ける。「だからあなたの言っていることが正直に言うと僕は理解はできても共感はできません。それが”僕”を演じている”僕”なんです」

 数歩歩く音がその通路で鳴り響いた。一つ春風が二人を靡かせ、

「なんとなーく、わかってた」

 彼女はそう言った。

「そうですか、こんな僕と話をして楽しいですか?」

「違和感はあるけど……」前を向きながら首をかしげて、彼女は振り向いたのち、お世辞ではなく満天の笑顔で言いきった。「でもやっくんは普通に面白い人だと思うよ」

 初めて誰かに面と向かって自己肯定をしてもらえた。そして「誰だって欠点はあるよ」

「僕のは欠点なんですか? 欠損ではなくて?」

「欠点だよ。私が気の許した相手に不幸自慢をするように」

「不幸自慢…… それは違いますよ。僕は心の中に何か抱えているものがあるなら、親しい仲なら話してもいいと思います。言って少しでも楽になれるならそれでいいんじゃないでしょうか? 重みになる荷物は休憩しながら歩いたらいいでしょう?」

「……やっくんは優しいね」

「だれかの受け売りです。でもその通りだと思いますよ。人は一人では生きていけませんから。結局人は誰かを必要として生きていくものだと、僕の浅い人生経験から得た教訓です」僕は彼女が一度見た満月を見た。とても綺麗な形であった。

「なんだかありがとう、たまにさ、横顔とか、言ってることとか、かっこよくなるよね」

「そうですか?」

「今はまあまあだけど」

「正直に言いますね!」突っ込むように僕はそう言い「そろそろ行きましょう! バスのエンジン音が聞こえてきますよ」

 ブオンブオンと豪快なバスの軌道音が、校舎を挟んでこちらまで聞こえてきた。

「た、たしかに!! 急ごう!!」




























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