僕と最強幼女と狂った世界

土佐 牛乳

後悔その先



 時刻は午前、十一時。おとといまで見えていた雪たちは、完全に雪解け水となり、地表のアスファルトたちを濡らして、路上わきの用水路へと流れている。雑草の新芽たちがここぞとばかりに顔を出し、春の始まりを見せていた。春が来たと誰もが声をそろえて言うだろう。気づく余裕も、暇もない僕は春の野道を走っていた。

 ただ全力で、途中転びながらも、彼女があのままもし……と考えると、いても経ってもいられない。焦る気持ちが僕の足を急がせた。道は入り組み、まさに森林による迷宮となっている。前に来たような歩きやすい道にはなっていなかったのだ。それは、彼の相座時之氏守刄の力であると今になってわかった。それは結界なのではない。道という概念を、脳みそでは把握できないような力であると。だからこうして、なんどもなんども同じところをループしている。苦しい気持ちと、焦る気持ちが、僕を冷静な気持ちを遠ざけて、そして僕は自身をだましているこの結界の力を、今一度冷静になって考えてみる。

  それは、人を寄せ付けないために、その力は存在している。なら人には行けないということは、人がいけないような道を選択することによって、道は開ける。
  閃いた俺は、すぐさま、怪しいところ、つまりは、どこか絶対的な完璧ににきれいになっているところを捜した。そして、僕は、幹が同時に三本に絡まった木を見つけた。
  一見自然に生えているように見えるも、お互いに支えあってるように見えて、まるできれいなふさぎ手となって、その道中をふさいでいた。これであると確信を持った僕は、ありったけのパンチで、その木に、強烈なパンチを叩き込む。

(頼む……!)

 パァン! とその木に物理的な衝撃を咥えた瞬間、何か目に見えないものが壊れたような、そんな拳から伝わる手触りと、音で道は大きく開いた。
  正解の道を探し当てた俺は、その先の草むらを全力で走っていった。
  確かにこの公園、昨日来たことがあるが、なにか時間がこの空間だけは夏に飛んでいったような、一人歩きで通り過ぎたそんな錯覚に陥りながらも、それでも伸び切った草たちをかき分け、全力で進んでいく。

(スタフェリア……)



「時間跳躍で、空間すらも逆手にとるとはな」

 そう発して、にやりと一人の武士の男。身長は一八〇ほどであり、その格好に似合う、厳格な顔立ちで、スラッとしておりながらも、しかしながら、その体は、鮮麗された肉体の造形であり、量でもある。髪は無造作にうしろに紐か何かで縛られていて、手には刀、そして、白と黒の二色の配色がある袴、大きくはだけた体には、白の包帯が体のラインをなぞるかのように、いやその身を縛るかのように、いやその体を封印しているかのようにまかれていた。その力は、未知数誰も見たことが無いような力。誰も彼もがその境地にはたどり着けないだろう、その境地へと、彼は至ったのであった。それゆえの代償、一人の人間が、森羅万象の断りを越えるために、その”行き過ぎた”力は身を亡ぼす。まさに悪魔との契約のようなその姿。その存在ありよう。その運命。

「貴様こそ、なんじゃその無茶苦茶な究極さは」

 まさに人を越えておるのう、と彼女はそう言った。その最強は、最恐は、最狂は、最凶は、見据えるようにして”究極”を前に仁王立ちで見ていた。
 男は構えた、その姿は、まさに一刀両断で、世界すらも切り捨てるが如く、構えである。その左手は剣先と並ぶようにして、けっさきの光をその手に当て、そして、剣は顔の後ろ辺りで、強靭で端麗な腕によって、切り込む発射口へとなっている。

「しかしよ、我が下僕と対峙する前に、この余に直接に挑まぬとは、貴様も小物よのう」

「ほう、あいつは下僕となったのか…… しかしながら、貴様が虚無風情と手を組むとはな」しかも狂言鬼。と彼は付け加え、目は一層その鋭さを持つ。

「旧世界の宿敵だからとして、それがどうしたのじゃ。あやつはあやつであっても、”あやつ”ではない」少しイケメンになっておるが、と彼女は付け加えた。

「戯言を弄するのか、二度没落してからは、貴様はずいぶんと丸くなったようだ」

「亡命の竜狩りの皇子ジークフリード、貴様ほどではない」

 虫を見るようにして彼女はそう呟いた。

「フッ、世迷言はもういいぞ。英雄叙事詩の再開だ」

「余も飽きてきた」来い、と彼女は人差し指を向けると二度ほど曲げる動作。

 そして彼はゆっくりと体重を落とし、すぐさま攻撃する段階へと移行していた。







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