僕と最強幼女と狂った世界

土佐 牛乳

初実戦伍夜 終局




 激闘が終わった俺たちは、家に帰ることとなった。彼女は、ここの公園で夜風をしのいでいるということだったので、「俺の家に来いよ」と、誘った。

「人間だったころは、それはそれはギャクナンされまくりじゃったわい」

「お前ずっと幼女じゃなかったのかよ!!」

 真偽はわからない。彼女も小さく笑い返すことはなかった。

  しかしこうも。深夜徘徊をしているとなると僕はとてもまずいわけであるが、しかし、ここは補導をしている警察たちには、トイレに行っていたら、こんなところまで来てしまったのだと、いうことにしているので、っていうかこの答え方は本当に通用するのだろうかと思いながら、彼女の後ろを歩いていたわけだが、彼女は、うとうと、と体を振り子のように移動させてる。このままでは、思いっきり地面である道路に倒れてしまうのかもしれないと、考えた俺は、彼女の前に中腰になって「いいぞほら」と、背中を差し出すようにして、彼女の身を受け止めようとした。

「くるしゅうない、くsるしゅうなあ…… ごーずずず」

 まあなんともかわいくない寝息だなと思いながら、彼女が倒れ掛かってきたのを、しっかりと受け止めてあげた。ここまで安心して、眠っていると、今日の戦闘はもうないのかもしれないなと考えてみたが、街中の遠く離れた五〇メートル先の外塔時計は、夜の十二時を指していて、今日というよりは明日は大丈夫なんだなと理解できた。理解できた……

  歳が離れているような妹がいたら、こんなことにもなっているんだろうなと、天涯孤独の身である俺はそう考える。このまま、彼女が僕の家に居候してくれるのもいいんじゃないかなあとそう考えて、また夜空を眺めた。

 一つ、民家の屋根の上で、月の光に照らされて、誰かセーラームーンではないが、一人の男性がこちらを眺めているように見えた。その男は、こちらに体を向けると、手を振ってみせた。それはとても奇怪な風景であったが、ここまでの戦闘をしてきた俺は感覚がマヒを起こしているのか、戦闘をするような彼女を抱きかかえながら、身構えながら歩く。

「やあ、こんにちは、いや今はこんばんはだね」

 その声に気づけば、斜め前の歩道と、車線を分けている段差に一人の男が立っていた。身長は一八〇センチはあるかのような大きさで、体格は、余分にあるサイズが大きめの服、これは土木工事の作業員たちが着ている作業服である。しかしその着こなし方は、胸ボタンまでを大きく開いており、ここらあたりに住んでいる田舎のおじさんといった、普通の一般市民の印象だった。それはその男は突然と、いやもとからそこに立っていたかのような確かな錯覚のような現象がそこにはあった。

「こんばんわ、こんな時間に散歩なんて珍しいですね、それとも僕に用があるんですか?」

 奴からは何も感じない、故に僕は警戒をした。これほどまでに気配、実態、全てを欺くような行動ができるのは、もはや凄まじい手練れだということを頭のなかにある知識は訴えていた。彼女を抱きながらこの相手にどこまで逃げ切れるのか。くそっ!!

「そ、そうたつはだいじょうぶじゃ。ぐーすか」

 寝言のように、耳のすぐ横にいたスタフェリアが、そういった。

「あはは、警戒させる真似をしてごめんね」

 まるで人を扱うのに慣れているようなメンズキャバクラのような会話術をこの男から感じ取り、よりいっそうこいつは何者なんだろうかという疑問が大きくなっていく。

「自己紹介が先だったかな?」

「まあ、スタフェリアが大丈夫だと言っているので今のところは警戒は解きます」

 ああそうしてくれと言い、「俺の名前は、相座時之氏あいざときのうじ 守刄かみは。君たちの”普通の世界の住人”と”異端の者たちの争い”を取り仕切っている者だよ。取り仕切ると言っても、害が出ないように僕が力を使っているだけだけどね」僕の一族の専門は幅広いからね大変だよ、と、軽く言うと、彼はポケットから煙草の箱を取り出し、一つつまんで口にくわえ火はつけることはなかった。

「僕の名前は、天野路夜久、どうせ僕のことなんて知っているでしょう?」皮肉るように彼に言った。ここは彼がどのようなてだれであるかという、ただそれだけのために彼に投げかけたのだ。

「まあ、ね。狂言鬼さん。そこの彼女さんと仲良くよろしくやっているんだってね」

 僕の正体もお見通しということだった。なんともまあ彼がそれなりの人間であると分かる。

「まだこいつとあってから2日目ですけどね。なかなか気が合いますよ」

「君がただ演じているだけじゃなくて?」

 彼は一瞬、心底なにか嫌悪をしているような目で、俺の顔を見た。露骨なその目は、すべての暗闇を、無へと返すような鋭くも威圧的な、怨がこもっている。

「少なくとも、あなたが僕に対して演じている態度よりは、演じてはいないとおもいます」

「そうかそうかい、こりゃ」一本取られたね、と彼は痛快しているように笑う。「とにもかくにも、君に一つだけ忠告をしておこう」

「忠告ですか?」

「そうだ、まあこれは老婆心から出たものだ聞き流してもいいよ」

「いちおう、聞いといてあげますよ。僕は優しいですから」

「そりゃどうも、力を使えば使うほど、君は元には、人間には、いやここは『人の形』と言った方がいいね。とにかく戻れなくなるだろう。力といっても彼女の模様品だがね、だからそうなる前に」

「……」

「君は自身の力に気づくべきだ」

「僕の力ですか……」

「まあそれは君の勝手ではあるがね、僕はただ君が後悔をしないように言ってあげているだけだよ」僕は優しいからねと、彼は付け加えた。

「ええ本当に優しい方ですよ、僕の力がどういうものかは具体的に一切教えないんですから」

「あたりまえだろう! なかなか面白いジョークだ。ふふ、君ってやつは」

「笑われることだけは評判がありますからね」

「ああ、そうらしいな。ではこの世界”怪”の世界を、生き延びてみてくれ」

「言われるまでもありませんよ」

 彼は消えた。

 田舎臭いチャラい恰好をしている割には、言っていることはなんともまあ恰好がいいなとそんな感想が生まれながら、彼がいた位置をすっと眺めていた。そして唾を吐いた。
  時刻は午前〇時半、速く家に帰るべきだろうと思いながら、スタフェリアを抱えていたちょっとだけズレ落ちた状態を戻した。
 思考を切り替え、明日はしっかりと学校に行けるんだろうかという、心配が俺の中で渦巻いた。




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