僕と最強幼女と狂った世界

土佐 牛乳

あれからとやること



 それからバスが到着して、華憐さんに軽く挨拶をして二人は別別の椅子へと座った。初めて乗るバスの中は前車両側に女子が座り、後方車両に男子が座っているという決まりがあった。どうやら椅子座席のちょうど半分から分けられているようで五メートルほど、七番目の誰も座っていない座席へと座ると、それを見越してバスがエンジン音を立てて出発。

  しかし…… やっくんってのはなあ…… 彼女がやっくんという名称を付けてくれたのは、まあいいのだけれど、まあたしかに今までのこの生涯、一度も僕の名前をしっかりと覚えてくれる人はいなかったわけなので、やっくんという簡単な名称、いや略称にするのは語呂もなかなか良さげなので、いいなと考えついた俺は、昨日の非日常の出来事を思い出していた。


  回想。


「甘ったるいぬくぬくとした環境で育ったお前には、想像を絶するような世界じゃ。まあこれが本当の真の世界じゃがな。もし弱音を吐いたら貴様をもう一度食らうぞ。いいんじゃな?」

 悲劇と絶望を具現化したようなおぞましい部屋は、空気さえも、物恐ろしい空間になっている。彼女、さきほどまで、会話をしていたような彼女の表情ではなく、それは、全ての絶望を垣間見てきた…… それは死神のような凍てつく、ただ有る者ではなく無をみているような目である。

「僕は、自業自得で君の体内にいる。もし生き返らせることができるというなら……」

 僕の人生、いままでの行動を振り返ってみると、なんともまあここまでの生死の境に立っていた彼女の邪魔をして、あっけなく彼女に殺されて、さらには彼女に生き返らせてくれと頼んでいるころまで本当にくそったれな人間だなと、自分がこれほどまでの暴挙ができるのかという、自己嫌悪が始まる。ああ、どれほどまでに

「なんていうほど愚か者なんだ」

 いっそのことここで死んでも、何も問題なんてありはしないだろう。ぼくには悲しんでくれる人なんてのはいない。天涯孤独の身だ。どうせこのまま生きていたら、ほんとうにどうしもうもない人間になっているだろう。

「なら死んだ方がマシじゃないのか……?」

「余には…… 畜生よ、貴様が自身を責め立てている根拠がわからん。たかが十数年生きてきてなぜそうも、早々と答えを決めるのじゃ? じゃが…… いままで見てきた貴様の深層心理、それが先ず以て理解がおよばない、この世の理であるこの余にも把握ができない。貴様の行動たらしめて支配している貴様は何者なんじゃ」少々言葉遊びを交えつつ、モノの見事に僕の二面相を言い当てた彼女。まさに全治全能と詠っていただけはある。

 遅くもなく、数秒僕と彼女の中に流れて、こう返した。

「すごいな今まで誰にも言い当てられたことはなかったのに、それほどにまで具体的に。でもそれは僕にもわからないことなんだ。だって僕は芝居・・だけで・・・いままで・・・・きてきた・・・・んだから」ああそうだった僕は何も感じない人間だったんだ。どこかが欠落をしているのではなく。全体的に欠落、いや「どこにも・・・・存在・・しない・・・、僕自身、いや・・何者・・でもない・・・・のかも・・・しれないね・・・・・」下を向いていた顔を彼女のいる前斜めにあげた。

「なるほど…… あそこで会ったというのも…… クハハ、やはりこの世は、因果は、最果ての運命というものは面白いのう畜生よ、いいや虚無よ」

 虚無か…… いい響きじゃん。もともと僕の中には何もないから響かないけど。

「でもスタフェリア、もし君が全知全能というのなら、虚無っていうのは分かるものじゃないのか?」

「何を言っておる。虚無というのは、いまある事象そのものが無いということじゃ、理解はできても認識はできん」

 勉強になったじゃろうと、彼女はそうにこやかに答えた。なるほど、この考え方を認識で応用することができたのならば、認識ができないということを認識すると、僕の存在していることもわかるということになるのか。

「では改めて言うぞ、畜生よ、余と手を組め」

「おいおい、僕なんて中身が空っぽなんだから、何にも誰にも影響できないような人間だぜ、スタフェリア。そんな僕がお前の助けになんてなるのかよ」

「それは違うぞ畜生。昔から語り継がれるような人間というのはじゃな、お前のような中身の空っぽの人間ばかりじゃ、虚無というものは、森羅万象の狂った歯車を修正させる便利な道具なのだからのう、なにもないようなものが世間一般に評価されるように、お前のような空っぽは、世界を変える力を持っておる。だからじゃ、この全知全能の絶対的、存在のあるこの余と手を組め、そして偽神祖の連中を潰す」そういって彼女は不敵な笑みを浮かべる。

「なるほど、ちょっと訳がわからないほどに途方に暮れそうなほどスケールがデカい、その話は端に置いておくぜ。そういえば、偽神祖って一体全体どのような連中なんだよ。仮面ライダーでいうショッカーのような悪の秘密結社とか、そんな一般人に危害を加えるようなそんな連中なのか?」

「いいや、この世界において、新たに概念づくられた者たちじゃ。素、骨格は、我が仇敵のバンパルアの連中を主軸としておるのじゃが…… その実態は、余にもわからのうてのう…… じゃがしかし、奴らの行動から鑑みるに、世界の力のバランスを取るというものを大前提として行動を起こしているようじゃ。力というものは、ようするにドフゴンボールでいう戦闘力というやつじゃな」

 余がこの世界で一番強いから、仕方のないことなのじゃ…… と、さりげない自慢を交えつつ、髪を解き放つようにして、右手でなびかせた。
 所詮、僕のこの物語の役回りとしては狂言回しなのであるのだが、世界を変えるとか、何かを倒すとか、正直そんな役割は僕ではないわけで……

「なんかいろいろあるんだなあ…… だけどもさあ、生まれてこの方喧嘩もしたことが無い人間だぜ。そこのところはどうするんだよ」

「きさまの体を再び構成するとき、余の今までの力と経験を連想投影させる。双方とも紛い物ではあるがそれでいいじゃろう」

「ようするにお前の訳の分からない力と、記憶を頂戴することができるってことか…… しかしでもスタフェリア、記憶と言っても実際に俺が経験をしたということではないわけで、さしてコピーをしても意味はないんじゃないのか?」

「知識とは経験、経験とは知識、知識は力。これだけ言えばいくら畜生のお前でもわかるじゃろう」

「まあわかったよ、スタフェリア、君と一緒に偽神祖ってのを倒そう。じゃあさっそく頼む」と、言い俺は目を瞑った。流されるがままに彼女に承諾をしたんだけど、今までの人生確かに流されるような場面はあったなと思い返してみる。だから一人になったというのもあるわけなのではあるが、まあそれでもなんだかんだやれてきたので、大丈夫だろうといういかにも軽い考えで、彼女が戦っている世界に両足を踏み入れた。


 気づけば、バスは入学した高校までついていた。思い返してみればあっという間の時間に、バスの運転手であるおじさんがただ一人残っていた俺のところまで、てくてくと歩いてくる。どうやら軽くも寝てしまっていたのであった。

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