偽善な僕の明るい世界救済計画

穴の空いた靴下

最終話 蘇る世界 続いていく世界

【な、なんなんだお前らは! ふざけんなよ!
 滅茶苦茶だろ!! チートだチート!!】

 魔王がギャーギャーと喚いている。
 先程の攻撃の余波で来ている鎧もボロボロ、展開している魔法障壁はすでに消失している。
 黒色の鎧に身を包み、渋いナイスミドルな外見だが、放つ言葉は子供のソレだ。

【おかしいだろ、介入できないから好き勝手出来るはずだろ!
 死んだらどうするんだよあんな攻撃!!】

「お前が魔王か? 死んだらどうするってお前を殺しに来たんだよこっちは」

【いやいやいや、意味がわからない!
 お前らは滅ぼされる側、俺が滅ぼす側!
 決まってんだよ!】

「そうか、今まではそうだったんだろう。
 だが、ソレも今回までだ。今回はお前が滅ぼされる側だ」

 7人が逃げ場なく警戒し、ラインハルトが魔王の門前で抜刀する。

「魔王ゲーリック! 貴様に殺された数多の世界の恨み!
 今ここで晴らさせてもらう!」

【クソがぁ!!】

 魔王も大剣を取り出す。
 刀身まで漆黒の剣。

【クソが! クソが! MOB風情が偉そうに説教しやがって!
 俺の力は絶対なんだ! 誰もさばくことなんて出来ねぇ!!】

 滅茶苦茶に振るわれる剣だが、操るもののステータスが異常なのでうねりを上げてラインハルトに襲いかかる。

【なんで避けられるんだよ! 俺の力で倒せない物はいないはずだぞ!!】

「素人が、数多の世界で手下を使い何もせず滅ぼしてきた報いだな」

【うるさいうるさい俺に説教するな!! お前もぶっ壊してやる!!】

「必死なふりして、今になって脱出路を探してるみたいだけど、無駄ですよー」

 バセットがニヤリと悪い笑顔を浮かべる。

【ぐっ! な、何の話だよ!】

「次元転送で逃げようとしてるだろ、どうせ本体じゃないんだろうが、お前らの悪事、少しづつでも追い詰めてやるからな」

【な、なんで俺なんだよ!! 皆やってるじゃねーか! 思いつきで滅ぼしたり、神なんて酷い奴らばっかじゃねーか!】

「お前みたいなやつだから、そんな糞が集まるんじゃねーのか?」

 デゲンスの精神攻撃、魔王は目に見えて顔を真赤にして怒り出す。

【あー、切れた! もう知らねぇ! ハイ終わり。残念でした。さようなら~】

 空中を叩くような仕草をするが、虚しく沈黙が流れる。

【んだ!? な、なんだよ! 終わり。ハイ終わり! 終われ!! なんだよ!!】

 空中で地団駄を踏む。
 たまらずカーラ達が吹き出す。

「さっきバセットが言ったろ。もう逃さないって。
 そろそろ、『本物』のお前のとこにも人が行くさ。
 せめて魔王らしくきちんと勇者と戦ったらどうだ?」

 うつむいてプルプル肩を震わせる魔王にラインハルトがトドメの口撃を加える。

【うあああああーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!
 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇェェェ!!!!!!!!!】

 子供のぐるぐるパンチのように剣を振り回しながらラインハルトへ突撃してくる。
 ガードラ、デゲンスが軽くその剣を受け止めて、ラインハルトが胴を切り抜ける。
 黒色の液体が飛び散るが、すぐにマイレニアとカーラが飛び散った体液も全て焼き尽くす。

「一滴も逃さない」

 にやりとマイレニアが笑う。

【痛い……痛い痛い痛い!!】

「お前が遊び感覚で食い尽くしてきた世界の人々は、もっと苦しんだぞ!」

 ラインハルトは続けざまに袈裟斬りに切って捨てる。
 麒麟とバセットはすでにやれやれと腰掛けて観戦モードだ。
 ガードラとデゲンスもこれはもう弱い者いじめだな、と積極的に攻撃には加わっていない。

【た、助けて……】

「使い古された台詞だが、お前が滅茶苦茶にしてきた者達が救いを求めた時、助けたことがあるのか?」

「呼んだ~~?」

 台無しである。
 がっくりと項垂れ、抵抗も諦めた魔王。
 ラインハルトの剣が深々と魔王の胸板を貫く。
 一瞬で魔王の身体が固定されるかのように光に包まれる。

《確保完了した》

《本体も押さえた。結構根本だぞ、やったな》

《それは朗報だ。帰ったらゆっくり聞こう》

 ラインハルトは目をつぶり『外』の協力者とやり取りをする。

「よし、それでは掃討戦に入ろう。一片の魔王軍のかけらもこの世界に残さないように!」

 事実上の勝利宣言がついに発せられる。
 世界全体の精査、それにはもう少し時間がかかった。
 その全てが終わりを告げ、ラインハルト達の役目も終わりを告げる。

 バルゴン歴859年。肌寒い風が吹き始める季節、全世界の悲しみを受けながら勇者ラインハルトはこの世界を旅立つ。

「勇者ラインハルト、それに偉大なる仲間達の功績を我らは忘れること無く魂に誓うだろう!!」

 エンペロイドに建てられた巨大なモニュメント。
 勇者とこの世界の人々が魔王たちと戦った記録が記されている。
 世界は復興した。
 滅びた世界は勇者の箱と呼ばれる無限の資材を持って急速な復興を遂げた。
 無限の資材と、勇者の叡智はラインハルトが旅立った後は使うことは出来ない。
 この世界の人々も自立するために必要以上の資材を溜め込んだりはしなかった。
 すべての世界の精査が済み、完全な安全が確かめられた日。
 ゲーリック人魔大戦は完全な終わりを告げたのだった。

「この世界は素晴らしい! 
 私はこの世界が大好きだ!
 ここに生きるすべての生命が大好きだ!
 これからも、君たちの輝きを見せて欲しい。
 私はいつも皆を見守っている」

 ラインハルトはそう残して、この世界を旅立っていった。


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「ふーーー……」

 のびのびと身体を伸ばして部屋から出る。
 勇者ラインハルトだ。
 ふとったおっさんの姿ではない、以前の見目麗しき男性だ。

「おつかれ~、結構かかったな」

 ラウンジに入るとデゲンスが飲み物を渡してくれる。

「サンキュー、戦後処理のほうが時間がかかるものさ。
 『こっち』の捜査も時間かかってるだろ?」

「ええ、ただ、今回はかなり根本の人間だったみたいで、ゲリ被害の大本に近づけるかもしれませんね」

 バセットが端末から情報をラインハルトに見せてくれる。
 ガードラも一緒に覗き込んでくる。

「よーよー、勇者ラインハルト様! ご活躍でしたな!」

「ご活躍じゃないですよ我が神、ススク様。なんですかあの見た目?
 わざとでしょ絶対!」

「ヒッどいなー! 僕がそんなことするわけないじゃないかー!
 でも、ぶふっ、あの姿でラインハルトの声で……ククク……あーっはっはっは!」

「絶対にわざとだこの人……」

 セリフの冷静なツッコミ。

「ラインハルト様ーお帰りなさいー」

「ちょ、カーラ当たってるから……」

「うーん、こっちのラインハルト様も可愛いなぁやっぱりー」

「ちかい、近いから……」

「カーラ、ラインハルトから離れて……」

「マイレニア、今回もありがとう助かったよ」

「いいの……カーラ、離れてってば」

 腕を巻きつけて離れないカーラに苛立ったマイレニアはラインハルトの座る膝の上にちょこんと座る。

「おーおー、相変わらずモテモテじゃな」

 麒麟が冷やかしてくるが、ラインハルトはソレどころじゃない。

「僕が望んだんじゃなーい!」

 『世界』の中のラインハルトと違って『外』のラインハルトは正義感が強く、優しく照れ屋なイケメンでしかない。

 数多の『世界』を誰に頼まれたでもなく守っている人々がいた。
 偽善と呼ぶ人もいる。
 それでも彼らは、愛すべき『世界』をまもるために戦い続けている。
 今日も誰かの暮らす『世界』を守るために走り回っているかもしれない。
 救われた人々は彼らのことをこう呼ぶかもしれない。

 神、と。

 そんな偽善な僕の、ある一つの世界救済計画のお話だったとさ。
 

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