偽善な僕の明るい世界救済計画

穴の空いた靴下

5話 降臨

 バハムリッドの振るう太刀から発する閃光は、強力な物理防御力と魔法防御力を持つ敵さえもバターを切り裂くが如く切り裂いていく。
 龍族の最後の切り札、魂を燃やして戦いの力とする竜輝戦闘ドラゴニックオーラ
 7個あると言われている龍族の魂のすでに6個は過去の戦闘で使用している。
 これが、本当の最後の一度だ。
 何も残すつもりはない。
 すべてを出して、死。
 そして最後の作戦を発動させる。

 オリエンテスの背には美しく7色に光る羽が生えていた。
 精霊が自らのすべてを投げ打って戦う時に見える命の羽。
 今は魔道工房から流れ込む大量の魔力を一時的に保存する場になっている。
 すべての魔力を使い果たせば、精霊は死ぬ。
 自らの命の最後の一滴まで魔法を紡いで、死。
 そして最後の作戦を発動させる。

 二人には一寸の迷いもなかった。
 オリエンテスが組み上げる巨大な魔方陣は、強化された魔物の身体を引き裂き魔石を割った。
 バハムリッドの刀は腕を落とし、魔石を切ったことを魔物に気が付かせない程の煌めきを放っていた。
 魂を消費しての鮮やかな輝きは……

 驚くほどに、短くしか輝いてくれなかった……

「ぐばぁ!!」

 大量の血液がバハムリッドの口から吐き出される。
 無理やり強化した運動能力に循環機能が追い付かず、肺を食い破ったのだ。
 その隙を魔物たちが逃すわけがない、我先にと目の前にある極上のごちそうに殺到してくる。
 すでに城壁は完全に魔物たちに制覇されている。

《させません!!》

 オリエンテスが紡いだ魔方陣は、二人を包み、飛びついてきた魔物を焼き払った。
 しかし、重層で作り上げたはずの魔方陣はオリエンテスの想像よりもはるかに早く砕けていく……

《こ、これまでのようですね……》

 すでにオリエンテスの姿は点滅するかのように不確かなものになっている。
 魔力が尽きたのだ。

「上手く……喋れんのう……」

 ひゅーひゅーという呼吸音を混ぜながらバハムリッドも膝まづいてしまう。
 オリエンテスはその傍らに着地する。
 周囲を守る魔方陣は、一枚。また一枚と食い破られていく。

「終わりじゃな……」

《終わりですね……」

「長き戦い、ご苦労じゃった……」

《ご苦労様でした》

 二人は首から下げたブローチを握りしめ。
 その手を重ねる。
 あとは一言起動パスを唱えれば、周囲を灰塵と化して、二人の命は消える。
 そうすれば、最終作戦、天蓋が起動する。

 二人は見つめあい、そして微笑む。
 何の悔いもないほど、この10年間走り続けた。
 出し切った。
 もう出がらしも残っていない。

 だが、満足した。

「「希望の炎よ今、ここに……」」

「それ、起動しちゃだめですよ」

 突然の第三者の声。
 達人二人をして、今ここに声の主が現れるまで何の気配も感じることができなかった。
 死を目前にして研ぎ澄まされた感覚を一切合切無視してその人物は立っていた。

「まだまだ、ここからあなた方には活躍してもらわないと」

「な、何者じゃ……?」

《馬鹿な……我らのほかには……》

「とりあえず、死なせると厄介な物が起動するから、元気出して」

 その人物が手をかざすと、バハムリッドとオリエンテスは光に包まれる。
 次の瞬間には二人は爆発したかと思った。

「な、なんじゃこれは!!!!!!」

《ち、力があふれ出す!!》

 二人の身体からは巨大な光のオーラが立ち昇る。
 一切の傷は癒え、長年の戦いで傷つけれれたバハムリッドの傷も古傷を含めすべて治癒している。
 それだけではない、肉体は往年の張りを取り戻し、体が羽の様に軽い。
 オリエンテスの背中の羽は、黄金に輝き、オリエンテスの姿ははっきりと実体化し、その美しい顔立ちを受肉したように晒している。

「あ、貴方は……ぶふっ……」

《ど、どうしたんですかバハ爺こちらの方にしつれ、ぶふぉん!》

 二人とも口を押えて小刻みに震えている。

「??? 元気になったのなら、周囲のごみを片づける手伝いでもしてもらおうか」

 謎の人物はよく通る声で二人に指示を出す。
 絶対的な絶命状態をひっくり返す、天の助けが今ここに降臨したのだ。
 まるで流れが変わったかのように一陣の風が戦場を駆け巡る。
 その人物も風にマントを翻し、敵を睨みつける。

「ぶっは!! もう限界じゃ!! わーっはっは!!
 髪が、髪がひょろろーって、パンツ、パンツとシャツが、ひゃーーーーっははははははっは!!」

《ち、乳首が浮いてブフッ、カッコつけてんのに、目が、目がくりっくりに、そのひげククククク……だめ、おなか痛い……プークスクスクスクス……》

 とうとう二人が耐え切れずに腹を抱えて笑い転げ始める。

「な、何の話だ?」

「だめ、見ないで、腹の肉が揺れて、ぶふーっ!」

《ほんとだククク、揺れ、揺れて……だめ、見ないでなんでそんなに眼だけくりくりしてるのバランス悪いぷーーーーーっ》

 笑って話にならない。
 謎の人物は、らちが明かないので魔法で自らの姿を映す。

「な、なんじゃこりゃーーーーーーー!!」

 別世界の勇者。
 彼の転移前は星々の輝きにも形容された美しい金髪をなびかせ、大海の広がりを思わせる真っ青な瞳。
 まるで神話から出てきたような整った顔立ちに、彫刻のような非の打ちどころのない肉体。
 あらゆる武術に精通し、あらゆる魔法を使いこなす。
 まさに勇者であった。

 しかし、この世界に来る際に、できる限り戦闘用の能力は残してあげようという以前の神の計らいにより、容姿ポイントが逆振り全開になっていたのだった。

 バーコードのような黒髪が風に悲しく舞い上がり、いっそない方がすがすがしい頭皮を哀れに装飾し、中途半端にくりくりっとしたかわいらしい目以外は、完全に不審者のおっさん。
 青々とした髭に冗談みたいなちょび髭。
 自己主張が激しすぎる眉毛は見事につながっている。
 体つきはビール腹のだらしのない肉体。
 風に腕のたるんだ脂肪が揺れている。
 モデルのようだった足は、かわいそうなほどの長さで、妙に足がでかいので着ぐるみみたいだ。
 さらに服装はひどい。
 真っ赤なマントにブリーフとランニングシャツだ。
 回避能力でもあげたいのだろうか?
 ランニングシャツからは乳毛でうっすらと黒ずんだ乳首が浮いている。
 酔っ払いの中年のおっさんが、突然死地に訪れるというギャップは、死を覚悟した二人の笑いのツボを助走をつけて全力で殴りつけてしまったのだ。

 そう、この世界を救う彼には圧倒的に容姿が足りていなかった。


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