偽善な僕の明るい世界救済計画

穴の空いた靴下

1話 設定

 バルゴン歴859年。

 この年の寒風が吹き始める季節に、一つの大きな戦いが終わった。

 水と緑の世界グランニーズ全土を巻き込んだ大戦争。

 ゲーリック人魔大戦。

 別世界の魔王ゲーリックが、荒れ果てた自分の世界を捨てて、肥沃な地を求めて時空を引き裂いて侵攻してきたのだ。
 このゲーリックと言う魔王はまるでゴキブリのようなやつだ。
 次から次へと世界を渡り歩き、いろいろな世界を食いつぶして滅ぼしていく。

 自分が生み出した魔物に世界を滅ぼさせると、その世界に生きる生物や植物、はては鉱物までの資源を食らうだけ食らった魔物を全て取り込んで次の世界に行く。
 魔王が降り立った世界には何一つ残らない。イナゴと言ったほうがいいか……

 そんな魔王が、グランニーズの世界に降り立ってしまった。
 平和に穏やかに暮らしていたこの世界の生物にとって、突然降って湧いた悲劇でしか無い。
 今までのいくつもの世界と同じようにこの世界も滅びる……はずだった。

 このグランニーズの世界にも当然、世界を作った神がいる。
 しかし、この世界の神は自らの力で世界に介入することを、世界を作る時に固く禁じている。
 魔王は、そういう世界を狙ってくるのだ。

 神は絶望した。

 この世界がこれからどうなっていくのかは、他の神から聞いている。
 自分が作り、愛した世界が、目の前で何も出来ずに惨たらしく滅ぼされていく……
 優しき神は、その姿を見ることに耐えることができなかった。
 魔王に蹂躙され汚されるくらいなら、自らの持つ最後の権限で世界を『消す』事を決意する。

【うわっ、ゲロ来たの!?】

 そんな悲しみに打ちひしがれている優しき神に、何の配慮もなく失礼に声をかけたのが、また別の世界の神だ。

【来ちゃったよ……気をつけてたんだけど、もう辛いから消そうと思って……】

 二人は友人のようで、少し元気のない表情だが、笑顔を作って挨拶をする。

【消すの!? もったいない、強制排除とかは?】

【初期設定で不干渉でロックしてあるんだ……まだあの頃ゲロ魔王いなかったから……】

【そっかぁ……、あ、そうだ!
 もしさ、ホントに消すつもりなら、うちの世界のキャラ一人そっちに転移させてみない?】

【何をするつもりなの?】

【いやー、うちの世界にチート能力勇者転生させたらさぁ、ほぼ俺と同じ力持ってるレベルまで成長しちゃってー、正直神的に持て余してるっつーか?
 口うるさくて真面目なやつで面倒というか……】

【ははっ! なんだよそれ、どんだけチート盛ったのさ】

【いや、『無限成長』だけなんだよ普通に!
 それがさぁ、自分で言うのも何だけど、まぁThe 勇者ってやつで真面目で敬虔で育つ育つ!
 気がついたときには天地創造だろうがなんでも出来るように……】

【へー、いい子っぽいね。いいの?
 たぶんそんな力あると制限かかってだいぶ弱体化するようち来る時】

【いーのいーの、最近は救うものはないのか?
 とかもっと俺に勉強しろとかうるさいんだもん。
 困ってる人がいるって言えば喜んで行くと思う】

【どうせ、消すつもりだし。
 もしかして助かればほんとに嬉しいし、手伝ってもらっても良い?】

【オーケーオーケー! そしたら話ししてみるよ……
 って! お前! また勝手に会話聞いてるだろ!】

【神様が回線を開きっぱなしでお話されていただけです。それに、わざとでしょ?】

【な、可愛くないだろ?】

【ははは、えーっとはじめまして。
 今話しを聞いていてわかってると思うんだけど、そういうわけなんだ】

【少しログを見させてもらいましたが、たしかにこんな不条理がまかり通っては行けませんね。
 我が神、すぐに手続きを、その世界救いに行きます!】

【ありがとう……もし無理だと思ったらすぐに脱出していいからね。
 ゲロ魔王はチートキャラだから……自分も手を貸せたら良いんだけど、何も出来ないし……】

【心配無用です! どれほどの時間をかけようが、あの悪逆非道な魔王を倒してみせます!】

【おーい、■■■■ちょっと確認してくれ、そっちの世界へ行くとこんな感じになる……
 今に比べればだいぶ制限はされるけど、桁外れな力は間違いないな】

【十分です。出来る限りのことをやってきます!】

【ありがとう、君に全て託すよ!】

【おまかせください! では、我が神よ、世界を頼みましたよ】

【まったく、どっちが神なのかわからないな……じゃぁ、頑張れよ!】

 こうして一人の人物が、グランニーズの世界に転移する。
 魔王が降臨してすでに10年が経過している。
 グランニーズの住人たちも必死に魔王軍との戦闘を続けているが、連戦連敗……
 魔王軍は取り込んだ土地を消費して更に増強されている。
 ギリギリの線で魔王軍の広がりに抵抗していたが、今まさにその糸が切れようとしかかっている。
 そんな戦況であった。

 グランニーズは9つの大きな国によって構成されている。
 人族の国ヒュミライン。
 獣人の国アニカオン。
 精霊の国エレクリア。
 エルフの国フローシニア。
 ドワーフの国アースガンツ。
 機械化生物の国マシリナム。
 オーガの国ガイエンブリュン。
 竜族の国ドラガイアント。
 そして、その人々が混じり合い暮らすエンペロイド。

 運悪く魔王の侵攻の入口になってしまったのはマシリナムだった。
 この世界にとって、ひとつの幸運は始めの接敵したのが機械化生物達だったことだ。
 彼らは冷静で分析能力に長け、そして情報技術に発達している。

 魔王軍との戦闘が始まってすぐに、彼らは自分たちでは魔王軍に抵抗できない事を分析し、いち早くその情報を他国に伝えた。
 自分たちに出来ることは遅滞戦術しかないと即座に判断をして、国を捨て魔王軍の足を留めることに尽力をしてくれた。
 全ての国は、マシリナムの分析能力を高く評価しており、圧倒的な蹂躙とも言える戦闘の記録をみてこの世界の危機を早くから認識することが出来た。
 早い時期からエンペロイドを中心とした協力体制が作れたことによって、10年もの戦闘を継続出来たのだ。

 それでも戦闘は圧倒的な不利が続く。
 昼夜を問わず襲いかかる魔王軍を、各国の戦士たちが交替して防衛をし続けている。
 すでにマシリナム、アースガンツ、エレクリアの国土は落としている。
 今の主戦場であるドラガイアントを落とすと、魔王軍は複数展開が可能になり、同時多発的な防衛を強いられてしまう。
 そうなれば、もうお終いだという事は全ての人々が理解している。

 地底国家であるマシリナム、アーズガンツ、エレクリア、そして地上との唯一の通路を守るドラガイアントの砦、ウォールオブホープと名付けられた、この世界の人々にとっての最終防衛ライン。

 ついに、その戦場に魔王軍が現れたのである。
 バルゴン歴850年。
 グランニーズに生きる、全ての生物たちの想いを込めた戦いが、今、始まろうとしていた……




 

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