天の仙人様
第57話
夏のある日のことである。日差しが強く、汗をだらだらと流しながら、草原で遊んでいた時だった。今日は、今までの夏の中で最も暑い日といえるだろう。雲が太陽を隠すということを忘れたせいか、太陽が余裕しゃくしゃくという顔で俺たちのことを蒸し焼きにでもするかのように照り付けてきているのだ。地面からわずかに、湯気が揺らめいて見えるようになってしまうほど今日という日が暑いということを物語っていた。
いつもの少年二人が疲労と熱により倒れており、それを俺たちが出した水で冷やしていたところだった。あたりは汗と水によってぐしょぐしょに濡れており、泥が少年たちの体についていた。だが、その泥がわずかながらに太陽からの攻撃を避ける手段でもあったので、汚れるのを気にしなければ、泥あそびなんかをして、体中泥まみれになるのも一つの手であった。ただ、この服を汚すのが非常に忍びないので出来ないでいるのである。
その場に居るのは、俺たち三人にカイン兄さんと、その相手の兄弟二人、そしてアリスであった。最近は、アリスの魔法の練習のために平原に来ることが多くなっているのだ。今は、彼女の隣に土の人形が立っており、その人形同士で剣を打ち合っている。それを同時に操る技量を身に付けているのだ。さらに、アリスの膝の上には水で出来たウサギが寝ている。同時に三体もの人形を生み出し操るのだ。魔法では一番得意だと思っていたハルですら開いた口がふさがらなかったほどである。それほどに美しい魔力操作をしている。緻密に計算された、数式のような美術であった。たった一つの証明に心を動かされてしまうのである。恐ろしい程の才能である。
と、遠くから馬車がこちらへ向かってくる音が聞こえたのである。ガラガラと軽く舗装されただけの道を走ってきているのが遠くからでもわかる。そちらへと視線を向けると、ほんのわずかではあるが、馬のシルエットが見られた。もうそろそろ、この村に到着することだろう。それがすぐに感じ取れるほどである。
俺たちは全員そろって駆けだしていた。先ほどまで、汗びっしょりにしながら倒れていた二人も含めてである。俺は、彼らが倒れないように再び、水を頭から浴びせる。そうでもしないと、ダメなのである。それほど今日は殺しに来ているといってもよかった。
そうして、村に馬車が到着したころに、俺たちは馬車の近くまで来ることが出来た。馬車はまだ止まることなく、ある場所へと向かう。俺たちもそのあとを追ってついていく。ガラガラと音に合わせて俺たちは歩いていく。少年たち二人は、行き先がわかったようで、遠慮するように離れていった。明日の約束を取り付けると、俺たちは彼らと別れる。
馬車はようやく止まった。その先には屋敷がある。俺たちの家だ。誰が中にいるのかみんなわかっているのだ。寂しさと嬉しさがこみ上げてくる。いままでは、気にしないようにしていたが。いざ目の前にすると、今すぐにでも飛び掛かりそうなほどに俺の心は喜びに満ち溢れているのだ。
父さんたちも庭へと出てきており、馬車の中から人が出てくるのを待つ。扉が開いた。そこから、一歩二歩と足が見える。だんだんと全身が現れてきて、最後に顔もしっかりと確認できた。
「久しぶりです。ただいま帰りました、父さん、母さん」
彼は、ルイス=バルドラン。俺たちの兄であった。そう、つい先日王都の学校に通いだした一番上の兄であるのだ。
父さんたちが何かを言う前に、俺たち二人の弟はすぐに飛び掛かった。軽い剣の振りと共に二つの方向から同時に襲い掛かると、兄さんは、ふっと体重移動のみで攻撃の範囲から逃げ出す。今の体の動きはかなりの修行がないとぎこちなくて、たまに掠ってしまうこともあるのだが、柳のようにやわりと避けたことで、しっかりと剣も訓練していたことが分かる。
「兄さん! 剣もまだしっかりとやっていたんだね! よかったよ! そうじゃなかったら、また一から教えないといけないところだった!」
喜びが体からあふれ出るような態度を示しながら、カイン兄さんが大声で叫んでいる。俺も、口元が笑みを浮かべないようにこらえているため、ひくひくと引きつったような表情を見せている。それを見たルイス兄さんは、恐ろしいものを見たような目を向けるが、それすらも喜んでいるような笑顔に変わる。
「やっぱり、お前たちは変わらないね。だから、僕だってしっかりと剣も練習していたよ。そうでもしないと夏に生傷が増えてしまうことになるからね」
理由は、俗物的であるが、あれはきっと恥ずかしがっているから嘘をついているのだ。兄さんは負けず嫌いだから、そういう理由で剣を振ったりしないし、そういう理由で剣を振る人があそこまで上達はしない。だが、俺たちはそれをわかったうえで、歯を見せて笑うのである。
「カイン、アラン。いったん剣はおしまいよ。まずはルイスを家にいれなくちゃダメでしょ。ほら、ルイスも長旅で疲れただろうし、早く家に上がりなさい。土産話は後でいいからね」
と、サラ母さんが優しく諭すように言うと、俺たちはすぐにそれを実行する。母さんに無理にストレスを与えてまた、症状を悪化させたらたまらないからだ。そうでなくとも、動いただろうが、今日はそれ以上の動きである。
今では、サラ母さんも外に出ることが出来るまでに体力が回復したのだ。まだまだ、心配だから庭先までであるが、一人で屋敷内なら行動できるのだ。これにはお医者様も奇跡としか言いようのない顔で驚いていたわけである。俺の毎日の治療行為が実を結んでいると実感して、嬉しくなってくるわけだ。やはり、母さんには元気に過ごしてほしいのからね。その思いが母さんの病を治せたのではないかと思っている。
今日の夕方、夕食時のころに兄さんが無事に帰ってきたことを無事に祝うためのささやかなパーティが行われる。といっても、わずかに食事が豪華になる程度であるが、それでも、家族全員がそろって食事できるというのが、一番うれしく感じるわけであるし、それこそが、最も重要なことなのだ。それに、めったに食べれないような、少し高級な食材も使われていて、美味しい。
「で、どうだったんだ。学校生活は。成績とかもいろいろあるだろう。それに……友達とかはできたのか?」
父さんたちは、やはりルイス兄さんがどんな学校生活を送っているのかが気になることだろう。俺たちもやはり気になる。そもそも、学校で何をするのかというところの方が興味は大きい。証言をするのはルイス兄さんだけだから、人とは違う生活をしているのではないかという思いもあるが、それを踏まえたうえで聞けばいいのだ。
しかし、父さんたちは最後の質問からもわかる通り、ルイス兄さんが孤立しているのではないかという思いが強いらしい。わからなくはないが。一人で図書館にこもって本を読んでいると答えられたら、俺たちは納得できるだろうし、父さんたちは心配することだろう。出来れば、友達を作っていてほしいと思うことだろう。クラス全員とは言わないが、一人二人は友達がいてほしいと願う気持ちであろう。
「そうだなあ……僕は期末試験で学年主席の成績だったよ」
それを聞いた父さんたちは、思った答えではないことにやきもきしながらも、自分の息子が好成績を収めていることに喜びを隠せないようであった。カイン兄さんもすごいすごいといいながら、負けられないとばかりに対抗心を燃やしているのも印象的であった。もし、これでカイン兄さんまで主席になってしまったら、三男の俺までもが期待されてしまうわけなのだが。でも、期待に応えるのは気持ちいいから、悪いわけではないが。それで、主席ではなかったときの慰めは心に来るものがある。それは非常に恐ろしい。だから、変な不安を抱えないように、俺はカイン兄さんに主席にならないように呪いをかけるのであった。何とも悪質である。
「あとは……友達ね。友達は……出来たよ」
もったいぶるような口ぶりに、不安を隠せないようであったが、いるということを聞くと露骨に安心したような顔を見せる。むしろ、それを見たルイス兄さんが不満げな顔を見せる。
「そこまで僕が友達が出来ないのかと思っていたのかな、父さんたちは」
「あ、いや……そういうわけじゃ……。……いや、すまない。やはり、ルイスは魔法とか本とかそういうところに熱中する癖があるし、それで他の子たちを無視してしまって、友達が出来ないのではないかとやはり心配してしまうんだ。許してほしい」
父さんは、潔く頭を下げた。別に、そこまでしてほしくはなかったようで、兄さんは頭を上げるように言うと、父さんはすぐに頭を上げる。
「まあいいけどね、実際そう思うし。でも、友達は出来たよ。男の子も女の子も。それに、特待生のクラスだから、みんな頭がよくて、話していると楽しいんだ。やっぱり、僕一人だけで盛り上がっても楽しくないからね。みんな話がわかる人で良かったよ」
やはりというか、ルイス兄さんの周りにも頭がいい人たちが集まっているようだ。兄さんの話についていける人だけがいるのだろうなと思う。みんなして、納得の様子を見せている。ある意味の信頼関係である。
だが、それ以上に、兄さんの話についていける人が少数でもいることに対して驚きを覚える。あの人は文字を独学で習得するような人なのだ。それに話を合わせられるとは、よほどの頭であると思わざるをえない。体がわずかに震えているのに気づいた。
「名前とかは教えてくれないのか?」
「ん、名前? いいよ。マイク、タンジェット、ミーシャ、マリィ……ぐらいかな。男の子二人に女の子二人。二人ずつでちょうどいいよね」
「マリィ……マリィって子は、王女様と同じ名前をしているんだね」
「いや、王女様本人だよ。とっても、綺麗でかわいいんだ」
俺はさすがに口に含んだものを吹き出しそうになる。が、そうならないようにしっかりと口をふさいでなにも漏れないように努力をした。さすがに、王女様と友人になるとは思っていない。何があれば、男爵家の人間と王家の人間が仲良くなるのだと思う。それはみんなして思っているようで、ルイスに視線を、説明をしろという目を向けた。
「だって、父さんたちが言ってたじゃないか。『王女様には無視などしないでしっかりと話を聞いたりしなさい』みたいなことをさ。だからそれを実践していただけだよ。まあ、最初に話したときはさすがに緊張したけどね。何か変なことの一つでも言ったら首が飛ぶんだろうな、なんて恐ろしいことが頭をよぎったものだよ」
兄さんは、笑い話でも言っているかのように気楽に話しているのだが、俺たちとしてはそれを笑い話にできるものではない。それほどに肝の冷えるようなものであるのだ。しかし、今ここに兄さんがいることに感謝するべきだろうという気持ちがわいてきているのである。
どうやらしかし、父さんたちが行ったことを守っていただけらしい。まあ、話を聞いてくれる人と友達になるのは普通か。それに、王女様にはほかにも友達がいるのだろう。その中の一人にルイス兄さんもいるということか。それならば、驚くことはないな。まさか、兄さんの口から王女様の名前が出てくるとは思わなかったから、取り乱してしまったらしいな。反省しなくては。
「なるほどな……。ルイス、しっかりと友達は大切にするんだぞ。それが後々にいい結果を招いたりするんだ」
「わかっているよ、父さん」
兄さんは、にこりと笑った。
いつもの少年二人が疲労と熱により倒れており、それを俺たちが出した水で冷やしていたところだった。あたりは汗と水によってぐしょぐしょに濡れており、泥が少年たちの体についていた。だが、その泥がわずかながらに太陽からの攻撃を避ける手段でもあったので、汚れるのを気にしなければ、泥あそびなんかをして、体中泥まみれになるのも一つの手であった。ただ、この服を汚すのが非常に忍びないので出来ないでいるのである。
その場に居るのは、俺たち三人にカイン兄さんと、その相手の兄弟二人、そしてアリスであった。最近は、アリスの魔法の練習のために平原に来ることが多くなっているのだ。今は、彼女の隣に土の人形が立っており、その人形同士で剣を打ち合っている。それを同時に操る技量を身に付けているのだ。さらに、アリスの膝の上には水で出来たウサギが寝ている。同時に三体もの人形を生み出し操るのだ。魔法では一番得意だと思っていたハルですら開いた口がふさがらなかったほどである。それほどに美しい魔力操作をしている。緻密に計算された、数式のような美術であった。たった一つの証明に心を動かされてしまうのである。恐ろしい程の才能である。
と、遠くから馬車がこちらへ向かってくる音が聞こえたのである。ガラガラと軽く舗装されただけの道を走ってきているのが遠くからでもわかる。そちらへと視線を向けると、ほんのわずかではあるが、馬のシルエットが見られた。もうそろそろ、この村に到着することだろう。それがすぐに感じ取れるほどである。
俺たちは全員そろって駆けだしていた。先ほどまで、汗びっしょりにしながら倒れていた二人も含めてである。俺は、彼らが倒れないように再び、水を頭から浴びせる。そうでもしないと、ダメなのである。それほど今日は殺しに来ているといってもよかった。
そうして、村に馬車が到着したころに、俺たちは馬車の近くまで来ることが出来た。馬車はまだ止まることなく、ある場所へと向かう。俺たちもそのあとを追ってついていく。ガラガラと音に合わせて俺たちは歩いていく。少年たち二人は、行き先がわかったようで、遠慮するように離れていった。明日の約束を取り付けると、俺たちは彼らと別れる。
馬車はようやく止まった。その先には屋敷がある。俺たちの家だ。誰が中にいるのかみんなわかっているのだ。寂しさと嬉しさがこみ上げてくる。いままでは、気にしないようにしていたが。いざ目の前にすると、今すぐにでも飛び掛かりそうなほどに俺の心は喜びに満ち溢れているのだ。
父さんたちも庭へと出てきており、馬車の中から人が出てくるのを待つ。扉が開いた。そこから、一歩二歩と足が見える。だんだんと全身が現れてきて、最後に顔もしっかりと確認できた。
「久しぶりです。ただいま帰りました、父さん、母さん」
彼は、ルイス=バルドラン。俺たちの兄であった。そう、つい先日王都の学校に通いだした一番上の兄であるのだ。
父さんたちが何かを言う前に、俺たち二人の弟はすぐに飛び掛かった。軽い剣の振りと共に二つの方向から同時に襲い掛かると、兄さんは、ふっと体重移動のみで攻撃の範囲から逃げ出す。今の体の動きはかなりの修行がないとぎこちなくて、たまに掠ってしまうこともあるのだが、柳のようにやわりと避けたことで、しっかりと剣も訓練していたことが分かる。
「兄さん! 剣もまだしっかりとやっていたんだね! よかったよ! そうじゃなかったら、また一から教えないといけないところだった!」
喜びが体からあふれ出るような態度を示しながら、カイン兄さんが大声で叫んでいる。俺も、口元が笑みを浮かべないようにこらえているため、ひくひくと引きつったような表情を見せている。それを見たルイス兄さんは、恐ろしいものを見たような目を向けるが、それすらも喜んでいるような笑顔に変わる。
「やっぱり、お前たちは変わらないね。だから、僕だってしっかりと剣も練習していたよ。そうでもしないと夏に生傷が増えてしまうことになるからね」
理由は、俗物的であるが、あれはきっと恥ずかしがっているから嘘をついているのだ。兄さんは負けず嫌いだから、そういう理由で剣を振ったりしないし、そういう理由で剣を振る人があそこまで上達はしない。だが、俺たちはそれをわかったうえで、歯を見せて笑うのである。
「カイン、アラン。いったん剣はおしまいよ。まずはルイスを家にいれなくちゃダメでしょ。ほら、ルイスも長旅で疲れただろうし、早く家に上がりなさい。土産話は後でいいからね」
と、サラ母さんが優しく諭すように言うと、俺たちはすぐにそれを実行する。母さんに無理にストレスを与えてまた、症状を悪化させたらたまらないからだ。そうでなくとも、動いただろうが、今日はそれ以上の動きである。
今では、サラ母さんも外に出ることが出来るまでに体力が回復したのだ。まだまだ、心配だから庭先までであるが、一人で屋敷内なら行動できるのだ。これにはお医者様も奇跡としか言いようのない顔で驚いていたわけである。俺の毎日の治療行為が実を結んでいると実感して、嬉しくなってくるわけだ。やはり、母さんには元気に過ごしてほしいのからね。その思いが母さんの病を治せたのではないかと思っている。
今日の夕方、夕食時のころに兄さんが無事に帰ってきたことを無事に祝うためのささやかなパーティが行われる。といっても、わずかに食事が豪華になる程度であるが、それでも、家族全員がそろって食事できるというのが、一番うれしく感じるわけであるし、それこそが、最も重要なことなのだ。それに、めったに食べれないような、少し高級な食材も使われていて、美味しい。
「で、どうだったんだ。学校生活は。成績とかもいろいろあるだろう。それに……友達とかはできたのか?」
父さんたちは、やはりルイス兄さんがどんな学校生活を送っているのかが気になることだろう。俺たちもやはり気になる。そもそも、学校で何をするのかというところの方が興味は大きい。証言をするのはルイス兄さんだけだから、人とは違う生活をしているのではないかという思いもあるが、それを踏まえたうえで聞けばいいのだ。
しかし、父さんたちは最後の質問からもわかる通り、ルイス兄さんが孤立しているのではないかという思いが強いらしい。わからなくはないが。一人で図書館にこもって本を読んでいると答えられたら、俺たちは納得できるだろうし、父さんたちは心配することだろう。出来れば、友達を作っていてほしいと思うことだろう。クラス全員とは言わないが、一人二人は友達がいてほしいと願う気持ちであろう。
「そうだなあ……僕は期末試験で学年主席の成績だったよ」
それを聞いた父さんたちは、思った答えではないことにやきもきしながらも、自分の息子が好成績を収めていることに喜びを隠せないようであった。カイン兄さんもすごいすごいといいながら、負けられないとばかりに対抗心を燃やしているのも印象的であった。もし、これでカイン兄さんまで主席になってしまったら、三男の俺までもが期待されてしまうわけなのだが。でも、期待に応えるのは気持ちいいから、悪いわけではないが。それで、主席ではなかったときの慰めは心に来るものがある。それは非常に恐ろしい。だから、変な不安を抱えないように、俺はカイン兄さんに主席にならないように呪いをかけるのであった。何とも悪質である。
「あとは……友達ね。友達は……出来たよ」
もったいぶるような口ぶりに、不安を隠せないようであったが、いるということを聞くと露骨に安心したような顔を見せる。むしろ、それを見たルイス兄さんが不満げな顔を見せる。
「そこまで僕が友達が出来ないのかと思っていたのかな、父さんたちは」
「あ、いや……そういうわけじゃ……。……いや、すまない。やはり、ルイスは魔法とか本とかそういうところに熱中する癖があるし、それで他の子たちを無視してしまって、友達が出来ないのではないかとやはり心配してしまうんだ。許してほしい」
父さんは、潔く頭を下げた。別に、そこまでしてほしくはなかったようで、兄さんは頭を上げるように言うと、父さんはすぐに頭を上げる。
「まあいいけどね、実際そう思うし。でも、友達は出来たよ。男の子も女の子も。それに、特待生のクラスだから、みんな頭がよくて、話していると楽しいんだ。やっぱり、僕一人だけで盛り上がっても楽しくないからね。みんな話がわかる人で良かったよ」
やはりというか、ルイス兄さんの周りにも頭がいい人たちが集まっているようだ。兄さんの話についていける人だけがいるのだろうなと思う。みんなして、納得の様子を見せている。ある意味の信頼関係である。
だが、それ以上に、兄さんの話についていける人が少数でもいることに対して驚きを覚える。あの人は文字を独学で習得するような人なのだ。それに話を合わせられるとは、よほどの頭であると思わざるをえない。体がわずかに震えているのに気づいた。
「名前とかは教えてくれないのか?」
「ん、名前? いいよ。マイク、タンジェット、ミーシャ、マリィ……ぐらいかな。男の子二人に女の子二人。二人ずつでちょうどいいよね」
「マリィ……マリィって子は、王女様と同じ名前をしているんだね」
「いや、王女様本人だよ。とっても、綺麗でかわいいんだ」
俺はさすがに口に含んだものを吹き出しそうになる。が、そうならないようにしっかりと口をふさいでなにも漏れないように努力をした。さすがに、王女様と友人になるとは思っていない。何があれば、男爵家の人間と王家の人間が仲良くなるのだと思う。それはみんなして思っているようで、ルイスに視線を、説明をしろという目を向けた。
「だって、父さんたちが言ってたじゃないか。『王女様には無視などしないでしっかりと話を聞いたりしなさい』みたいなことをさ。だからそれを実践していただけだよ。まあ、最初に話したときはさすがに緊張したけどね。何か変なことの一つでも言ったら首が飛ぶんだろうな、なんて恐ろしいことが頭をよぎったものだよ」
兄さんは、笑い話でも言っているかのように気楽に話しているのだが、俺たちとしてはそれを笑い話にできるものではない。それほどに肝の冷えるようなものであるのだ。しかし、今ここに兄さんがいることに感謝するべきだろうという気持ちがわいてきているのである。
どうやらしかし、父さんたちが行ったことを守っていただけらしい。まあ、話を聞いてくれる人と友達になるのは普通か。それに、王女様にはほかにも友達がいるのだろう。その中の一人にルイス兄さんもいるということか。それならば、驚くことはないな。まさか、兄さんの口から王女様の名前が出てくるとは思わなかったから、取り乱してしまったらしいな。反省しなくては。
「なるほどな……。ルイス、しっかりと友達は大切にするんだぞ。それが後々にいい結果を招いたりするんだ」
「わかっているよ、父さん」
兄さんは、にこりと笑った。
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