天の仙人様
第8話 二人の兄さん
一年の月日がたち、俺はとうとう二歳になった。
この世界に来てから二年もの月日が流れている。長いようで短いものだとしみじみに思っている。だからといって周りは急激に変化はしないのだが。今日も一日平和に、そして平凡に過ぎていくのである。穏やかなせいかつである。
今ではしっかりと二本の足で地面に立っていられるようになった。いや、それだけではない。お師匠様は武術の心得もあるらしく、剣術、拳術、柔術を教わっている。天狗に武術を教わっているおかげなのかはわからないが、力もついてきていると思う。どれほどの強さかはわからないのだが。
そのおかげか、二歳児らしくはないしっかりとした歩き姿を見せている。二歳頃と言えば少しばかり駆け足気味になるような危なっかしい歩き方をするものであるが。俺はそんなことなく、しっかりとした足並みで歩くことが出来ているのだ。
で、今俺が向かっているのは書斎である。
太陽が出ている間は、師匠と修行が出来ないため、暇を持て余すことになるわけだから、本でも読んで文字の勉強をしようということを考えた。
前世はそこまで勉強の虫というわけではないのだが、それ以外やることがなければ、勉強をするという結論に落ち着くのはいたって常識的なものである。出来ることがいっぱいあるからこそ、勉強に目をむくことが少ないだけなのだろう。だから、俺は前世以上に勉強に打ち込んでいるのかもしれない。やることが少ないということは最大の師なのかもしれないとたまに思うのだ。
俺の短い足ではほんのわずかな距離ですら時間がかかるのは仕方がないことなのだが、ようやく書斎の前の扉へとたどり着く。
「よっ……と」
俺は背伸びをしてドアノブに手をかけ、扉を開ける。そうして書斎の中に入ると、そこには先客がいたようだ。
「お、アラン。君も来たのかい?」
先客はルイス兄さんだった。兄さんは四歳だというのに、魔術書なんてものを読んでいる。しかも、挿絵を見て楽しんでいるというより、しっかりと内容を理解しているような感じがする。恐ろしい頭の持ち主であった。
「やっぱり、兄たんもいたんね」
まだ呂律がうまくまわらないため、言葉遣いが変になる。訓練し続けて、ようやくこのレベルまで修正することが出来たのである。
「そうだよ。なにせ、ここが一番楽しい場所なのだからね。色んな知識がここいらに置いてあるんだ。見ないわけにはいかないだろう?」
兄さんは嬉しそうにこたえると、再び本に目を落とす。俺は、兄さんから目を外すと、棚の一番下の段にある、絵本のコーナーから、一冊の本を取り出す。本がある場所は書斎しかないため、子供向けの本もここに置いてある。だから、本を読みたければ、ここに来るしかないのだ。
俺は床に本を広げて、読み始める。一応、話の内容は頭に入っている。何度も、使用人に読み聞かせをさせたからだ。で、いまはその音声と文字を合わせる作業というところである。要するに、文字を覚えるために、本を読んでいるのだ。文字はまだ少ししか読めない。練習が必要である。それでも取得速度は早いので苦労を感じてはいない。
「ルイス様ー、アラン様ー。どこにいらっしゃるのですかー?」
と、俺たちを呼びながら使用人の一人が書斎の扉を開けて入ってくる。
「やっぱりここにいましたか。お二人ともご本を読むのが本当に好きなのですねえ」
使用人は少し呆れているようであった。まあ、暇さえあればここに二人してこもっているからな。とりあえず、ここの部屋を一番に探しているのだろうと思っている。
「カイン様がお二人を呼んでいましたよ?」
使用人がそう言うと、ルイス兄さんは顔を上げて露骨に嫌な顔をする。先ほどまでとの顔の変化が何とも滑稽に思える。兄さんにとっては死活問題なのかもしれないが。
「カインは剣術しか頭にないからいやなんだ」
ルイス兄さんは魔術しか頭にないけどな。二人とも、どちらかにしか視線が向いていないだけで同類である。
「まあまあ、そう言わずに。行きましょ?」
そう言われて、仕方なしとばかりにルイス兄さんは本を棚に戻して部屋を出る。俺も同じようにして後をついていく。
そうして庭に出ると、カイン兄さんと父さんが剣術の訓練をしているのが見えた。父さんは俺たちが庭にいることに気づくと、いったん訓練を中止して、こちらへと歩いてくる。
「お、二人とも来たな。さっそく訓練でもするか?」
貴族の指標の一つとして剣の腕前があげられるだろう。爵位は戦争などで功績を積むことで、与えられるものだからな。だから、剣の腕が優れていればより家が大きくなる可能性が高いということだ。まあ、魔法の才能も優れているのなら、そちらで功績を積むこともできるのだから、一概に剣が重要とは言えないが。まあ、剣は相当にどんくさくなければ、ある程度は見れるので、剣を教えるのは普通である。就職にも困らないしな。
「うーん……」
ルイス兄さんは嫌そうにしている。剣を学ぶ意味を知ってはいるのだが、魔法の方で功績を上げたいのだろう。兄さんは魔法が大好きだしな。
俺は、仙術を訓練してて魔力の存在を感じ取ることが出来るようになったのだが、兄さんの体内の魔力は同年代の子供と比較してもよっぽど多い。これならば、魔法で一財産稼ぐことも夢ではないだろう。ちなみに俺は、カイン兄さんと同じくらいの魔力量である。
「わかりました……」
しぶしぶといった様子で、ルイス兄さんは了承した。カイン兄さんの目線に耐えられなかったのだろう。ガッツポーズをしている姿が見られる。
「やった! はい、木剣! 木剣!」
カイン兄さんは近くの柵に立てかけられてある木剣を手に取ると俺たち二人へと手渡す。それを俺たちは受け取ると、剣術の修行は再開するのだった。
この世界に来てから二年もの月日が流れている。長いようで短いものだとしみじみに思っている。だからといって周りは急激に変化はしないのだが。今日も一日平和に、そして平凡に過ぎていくのである。穏やかなせいかつである。
今ではしっかりと二本の足で地面に立っていられるようになった。いや、それだけではない。お師匠様は武術の心得もあるらしく、剣術、拳術、柔術を教わっている。天狗に武術を教わっているおかげなのかはわからないが、力もついてきていると思う。どれほどの強さかはわからないのだが。
そのおかげか、二歳児らしくはないしっかりとした歩き姿を見せている。二歳頃と言えば少しばかり駆け足気味になるような危なっかしい歩き方をするものであるが。俺はそんなことなく、しっかりとした足並みで歩くことが出来ているのだ。
で、今俺が向かっているのは書斎である。
太陽が出ている間は、師匠と修行が出来ないため、暇を持て余すことになるわけだから、本でも読んで文字の勉強をしようということを考えた。
前世はそこまで勉強の虫というわけではないのだが、それ以外やることがなければ、勉強をするという結論に落ち着くのはいたって常識的なものである。出来ることがいっぱいあるからこそ、勉強に目をむくことが少ないだけなのだろう。だから、俺は前世以上に勉強に打ち込んでいるのかもしれない。やることが少ないということは最大の師なのかもしれないとたまに思うのだ。
俺の短い足ではほんのわずかな距離ですら時間がかかるのは仕方がないことなのだが、ようやく書斎の前の扉へとたどり着く。
「よっ……と」
俺は背伸びをしてドアノブに手をかけ、扉を開ける。そうして書斎の中に入ると、そこには先客がいたようだ。
「お、アラン。君も来たのかい?」
先客はルイス兄さんだった。兄さんは四歳だというのに、魔術書なんてものを読んでいる。しかも、挿絵を見て楽しんでいるというより、しっかりと内容を理解しているような感じがする。恐ろしい頭の持ち主であった。
「やっぱり、兄たんもいたんね」
まだ呂律がうまくまわらないため、言葉遣いが変になる。訓練し続けて、ようやくこのレベルまで修正することが出来たのである。
「そうだよ。なにせ、ここが一番楽しい場所なのだからね。色んな知識がここいらに置いてあるんだ。見ないわけにはいかないだろう?」
兄さんは嬉しそうにこたえると、再び本に目を落とす。俺は、兄さんから目を外すと、棚の一番下の段にある、絵本のコーナーから、一冊の本を取り出す。本がある場所は書斎しかないため、子供向けの本もここに置いてある。だから、本を読みたければ、ここに来るしかないのだ。
俺は床に本を広げて、読み始める。一応、話の内容は頭に入っている。何度も、使用人に読み聞かせをさせたからだ。で、いまはその音声と文字を合わせる作業というところである。要するに、文字を覚えるために、本を読んでいるのだ。文字はまだ少ししか読めない。練習が必要である。それでも取得速度は早いので苦労を感じてはいない。
「ルイス様ー、アラン様ー。どこにいらっしゃるのですかー?」
と、俺たちを呼びながら使用人の一人が書斎の扉を開けて入ってくる。
「やっぱりここにいましたか。お二人ともご本を読むのが本当に好きなのですねえ」
使用人は少し呆れているようであった。まあ、暇さえあればここに二人してこもっているからな。とりあえず、ここの部屋を一番に探しているのだろうと思っている。
「カイン様がお二人を呼んでいましたよ?」
使用人がそう言うと、ルイス兄さんは顔を上げて露骨に嫌な顔をする。先ほどまでとの顔の変化が何とも滑稽に思える。兄さんにとっては死活問題なのかもしれないが。
「カインは剣術しか頭にないからいやなんだ」
ルイス兄さんは魔術しか頭にないけどな。二人とも、どちらかにしか視線が向いていないだけで同類である。
「まあまあ、そう言わずに。行きましょ?」
そう言われて、仕方なしとばかりにルイス兄さんは本を棚に戻して部屋を出る。俺も同じようにして後をついていく。
そうして庭に出ると、カイン兄さんと父さんが剣術の訓練をしているのが見えた。父さんは俺たちが庭にいることに気づくと、いったん訓練を中止して、こちらへと歩いてくる。
「お、二人とも来たな。さっそく訓練でもするか?」
貴族の指標の一つとして剣の腕前があげられるだろう。爵位は戦争などで功績を積むことで、与えられるものだからな。だから、剣の腕が優れていればより家が大きくなる可能性が高いということだ。まあ、魔法の才能も優れているのなら、そちらで功績を積むこともできるのだから、一概に剣が重要とは言えないが。まあ、剣は相当にどんくさくなければ、ある程度は見れるので、剣を教えるのは普通である。就職にも困らないしな。
「うーん……」
ルイス兄さんは嫌そうにしている。剣を学ぶ意味を知ってはいるのだが、魔法の方で功績を上げたいのだろう。兄さんは魔法が大好きだしな。
俺は、仙術を訓練してて魔力の存在を感じ取ることが出来るようになったのだが、兄さんの体内の魔力は同年代の子供と比較してもよっぽど多い。これならば、魔法で一財産稼ぐことも夢ではないだろう。ちなみに俺は、カイン兄さんと同じくらいの魔力量である。
「わかりました……」
しぶしぶといった様子で、ルイス兄さんは了承した。カイン兄さんの目線に耐えられなかったのだろう。ガッツポーズをしている姿が見られる。
「やった! はい、木剣! 木剣!」
カイン兄さんは近くの柵に立てかけられてある木剣を手に取ると俺たち二人へと手渡す。それを俺たちは受け取ると、剣術の修行は再開するのだった。
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コメント
そら
ストーリー性があって面白いです