ただの世界最強の村人と双子の弟子

ヒロ

第117話 遂に対面

===リル視点========================

(ガギィン!ガギィン!)

 絶え間なく鳴り響く金属音。辺りには火花が散り、血が雨上がりの水溜りのように地面に広がっている。

『はあっ!!』
「ぬおっ!?」

 私の上段からの振り下ろしを上手く防ぎ切れず、左胸を縦に斬り裂かれ、背後に吹っ飛ぶ『破壊神』。

「………はぁ、はぁ、はぁ……うっ!」
(ゴボォォッ!)

 『破壊神』は剣を地面に突き刺し、何とか立とうとしたけど、口から大量の血が溢れ、そのまま血の海へ倒れる。

「………ガハッ!………はぁ、まさか………貴様に…敗北するとは……な。……クククッ、中々……楽しめ…た……ぞ……」

 『破壊神』はそこまで言うと、目を開けたまま、動かなくなった。

『………ふぅ、解除』

 私は自身の『ソウルウェポン』をなおし、『私の世界リル』を解除する。
 風景が元の場所、《魔神の砦》へ戻り、私は僅かに付けられたかすり傷を"身体強化"で自然治癒力を強化して治す。

『………何が"楽しめた"よ。こっちは本気でーー』
「……ふっ、だろうな」
『……っ!!??』

 急に聞こえた『破壊神』の声に、私は死体から飛び退いて、自身の『ソウルウェポン』を構える。
 死体には何ら変化も見えないし、神気だって途切れーー

「俺は死なん」

 その言葉をキッカケに、死体の全身から黒い霧が溢れ出し、一ヶ所に集まる。
 その神気は紛れも無く、『破壊神』のもので、一気に緊張感が押し寄せる。

 私の神気と体力はまだ余裕がある。あと2回くらいは『私の世界リル』も起動出来る。
 けど、次は起動する時の隙を逃してくれるとは思えない。
 となると、素早く起動するか、他のやり方で『破壊神』を倒さないといけない。どっちも現実的じゃーー

「……まあ、慌てるな。今の俺には戦闘能力なんて無い」

 色々考えていたところに、黒い霧が辛うじて人と分かる形になって、私に話しかけてきた。しかも、戦えないとまで言って。

『……もし、そうなら、どうして姿を見せたの?』

 私は完全に『破壊神』は死んだと思っていた。それこそ、次の階へ行く事を考え始めようとしていたほど。
 だから、『破壊神』は私が去った後に姿を現わすなり、何も気付いていない私の背中へ何らかの攻撃をしても良いほど。

 なのに、わざわざ次こそ殺させるかも知れない今のタイミングで現れる事には理由があるはず。

「……俺はお前にどうしても伝えたい。俺は貴様の体が欲しい」
『………知ってる』

 何を今更と思い、『破壊神』を睨みつけるも、何ら変化は無い。

「だが、それ以上に貴様ともう一度戦いたくなったのだ」
『……………』
「悪い事は言わない。さっさと帰れ。貴様は『強欲神』と戦っても勝ち目は無い」

 私は単純に『破壊神』に実力を認められて嬉しかった。けど、"『強欲神』と戦っても勝ち目は無い"と言われたのは悔しかった。
 そして、お師匠が居るのに、お師匠が戦おうとしているのに、私だけが逃げるのはもっと納得も理解も出来なかった。

『………例え、そうだとしても私は行く』

 私は『破壊神』に背を向け、歩きだす。
 奥にあった扉を開き、廊下を走り、その先にあった階段を上る。

 次の階にも何かしらの神とかが居ると思って警戒して上がったら、そこは黒煙が立ち上り、破壊され尽くしていて、一つの神気が感じられなかった。

『……一体何が……もしかして、もうお師匠が?』

 私はゆっくりと進むと、瓦礫の下やそこらにある何かの容器から、ここがどこかの研究所、研究室だという事が分かった。

 そして、階段が見えた。けど、私は何が起こったのかが気になって、階段を横切り、さらに奥へ行く。

 すると、開けた空間に、《アブェル》に攻め込んで来た正体不明の化け物と《デットラス》で私が暴走するキッカケになった何人もの神、そして、中央に首の無い人が立ち尽くしていた。

『………ん?何アレ?』

 私は側に落ちていた顔を見ようとした時、その首なしが向いている方がおかしい事に気付いた。

 そこの空間は歪みに歪んでいて、向こうの光景が全く見えなかった。そこはまるで『暴神』が襲って来た時にお師匠がマジギレした時のようで……。

『……!なら、もうお師匠はあの階段を上って!!』

 私はすぐさま振り返り、思いっきり階段へと走る。そして、階段を駆け上り、次の階へとたどり着いた。

 そして、たどり着いてすぐに尋常じゃないほどの魔力を感じて、すぐに自身の『ソウルウェポン』を顕現させて構え、その魔力の方へ見ると、思わず目を奪われてしまった。

 黒と白が綺麗に半分に分かれて一体化している大剣、特に装飾も無いのに、見るだけで分かる業物の刀。
 体の所々に着けられた真っ黒な鎧は青い光が筋となって張り巡っている。
 そして…真っ黒なマントに服。間違いない。伝説に伝えられた通りの姿。『全能の大英雄』様の姿がそこにあった。

「…おっ、やっと来たかリル」

 お師匠はこっちを見て、手招きした。その隣には神が使う門らしきものがあった。

 私はお師匠から目を一度も離さず、お師匠の下へ行く。

「………何だよ、ジロジロ見んな」
『無理です!!』

 私は食い気味に否定し、お師匠の周りを回って舐めるように見る。
 その姿は一切の無駄も無く、完結されていて、その姿そのものがお師匠を体現していた。

「……俺じゃこの門を開けられねぇから開けてくれるか?」
『………あ、はい』

 お師匠は青筋を浮かべつつ、笑ってお願いして来たので、これはあまり良くない事態だと判断し、素早く門の前へ立つ。

 門は一見空いているように見えるけど、何者かの神気が張られていて、通る事が出来なくなっていた。

『これは……えい』

 私はその神気に触れ、私の神気を注いで一体化させる事により、その神気を無くす。

『よしっ、これで通れますよ』
「おっ、行けたか。なら……最初は俺から行くから気をつけろよ?」

 お師匠の言葉に頷き、私は一歩下がってお師匠の後ろへつく。

「……よし、行くぞ!!」
『はいっ!!』

 お師匠が入った後、なるべく間髪入れずに私も門の中へ入った………。






「伏せろっ!!」

 入ってすぐにお師匠の大声が聞こえ、素早くしゃがむ。すると、私の頭上を何かが勢いよく通り、爆風が起きる。

『……もう、いきなりなんてーー』

 私は立ち上がり、前を見る。少し前には私と同じように前を見て唖然になっているお師匠。

 そして、その視線の先には真っ白な光で体を形作り、心臓部には真っ黒な心臓。頭には目も口も無く、血のように赤い髪が下に伸びていた。

 それ自体にも驚いたけど、もっと驚いたのは、それの足先から伸びている細い管のようなものが《デットラス》で見たオリナが変化した魔神らしき肉片に刺さっていた………。


===アルナ視点========================

「『強欲神』が神じゃないってどういう事ですか?それにその腕は……」

 お母さんは背中越しだったけど、とても真剣な声で答えた。

「『強欲神』は『破壊神』の破壊という概念よりタチの悪い、欲というものを叶える神器よ」
「私の左腕に宿る"堕神化を防ぐ"を奪った張本人よ」

 お母さんはそう言うと、機械仕掛けの腕を普通の腕に見せかけるように幻覚魔法をかけた………。


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 一応、これで『神の強欲ゴットグリード』のトップである『強欲神』の正体が分かったかと思います。
 『強欲神』の誕生や『神の強欲ゴットグリード』の結成秘話は特別章にて公開しようと思いますが………、お気に入り登録者がそこまでいかない限り、公開は出来ませんので、そこら辺はご了承を。

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