ただの世界最強の村人と双子の弟子

ヒロ

第?話 幼き頃

===ユウキ視点========================

「起きなさい!ユウキ!!」
「うぁぁぁっ!」

 朝からお母さんの大きな声で怒鳴られて悪夢から目覚めた時のように飛び起きる。

「今日は入学式でしょ!早く準備しなさい!!」
「はいぃぃ!!」

 僕はお母さんの威圧に耐えきれず、言われるがまま大急ぎで部屋を出て階段を降りる。

 そう、今日は小学校の入学式。入学式は9時から始まるけど、小学校には8時40分には着いておきたい。

 ここから小学校までは歩いて10分もかからない。けど、僕は何の用意もしていなかった。

 階段を降り終え、扉を開けると、そこはダイニング。食卓には目玉焼きとベーコン、少しの千切りキャベツが入った皿が白米と味噌汁と一緒に4つ並べられていて、4つの椅子にはビデオカメラを調整しながら待っていたお父さんとイライラしている姉が居た。

「お、おはよう……」
「おはよう。ちょっと遅くないか?」
「ちょっとユウキ!あんたのせいでまだ私は朝ご飯を食べられていないんだけど!?」

 能天気なお父さんと必要以上に起こっている姉である深月。親子なのに対照的な性格だ。

「ごめんって。目覚ましが鳴らなかったんだよ」
「そんなのは言い訳にはならない!」「そうか~」
「え……えーと…………」

 真逆の返答に困惑していると、背後から足音が聞こえる。この足音は間違いなくお母さんだ。

「そんなどうでも良い争いなんてせずに、早く食べましょ」
 
 お母さんの根元から切り落とすかのような発言に姉も黙り込んだ。僕はホッとしつつ、姉と対面している椅子に座り、その隣にお母さんが座る。その前にいるのは言うまでもなくお父さんだ。

「それじゃあ、いただきます」
「「「いただきます」」」

 お母さんの号令に習い、食卓に並べられた朝食を食べる。素材も味付けも特別な訳じゃないのに美味しく味わえるのはやっぱりお母さんが作ったからなのだろう。

「今何時?」
「8時20分!早く食べないと遅刻しちゃうよ!!」

 ご飯粒を撒き散らしながら怒鳴るお姉ちゃんは中学一年生になったばかり。かなり年が離れているからか、お姉ちゃんは何かと僕を良く思っていないみたい。

「汚いよ!あと、お姉ちゃんは別に来なくても良いのにそんなに怒らないでよ」
「はぁぁっ!?ふっ、ふざけないでよ!!私が行ってあげようとしてーー」
「あっ!もう着替えなきゃ!!」

 お姉ちゃんに怒られるのが怖かった僕は急いで朝食を平らげ、ダイニングを出て階段を駆け上り、部屋に入る。

 全く整頓されていない部屋の隅に置かれているクローゼットを開け、小学校の制服を取り出し、着替える。

「……………うーん、やっぱり制服ってつまんないなー」

 僕は膝辺りまでしかない黒いズボン、安そうな白いシャツの上に羽織った黒いブレザー。ブレザーの左胸部分に金色の糸で刺繍された何をテーマにしているか分からない校章が更につまらなさを際立たせている。

「ま、仕方ないよね」
「ユウキー!早く降りなさいー!行くわよー!!」
「はーーい!!」

 僕は手早くランドセルにキャラ物の筆箱を投げ入れて背負い、部屋を出た………。




「ねぇねぇ!聞いてよ!!」
「ん?なぁに?」

  僕が木の扉を開きながら飛び込んで来たのに動じないお姉さん。

 お姉さんはお姉ちゃんと違い、優しそうな笑みをいつも浮かべている黄金色の髪をなびかせてエメラルド色の目はいつも穏やかさを表しているよう。
 
 ここは家から少し離れた所にある山の麓にある小屋。僕は小学校の入学式が終わって家に帰ってすぐにここに来た。理由は………

「あのね!お姉ちゃんがね、僕の所為で恥かいたって怒ったんだよ!!」

 実は今日の入学式、僕の用意が遅れた所為で一番遅く体育館に入る羽目になってしまった。それも入学式が始まる寸前だったんだ。

「僕だってわざと遅れた訳じゃないのに!!」
「あ~、そうだったの。大変だったね~」

 そう言ってお姉さんは頭を撫でてくれる。いつもこうしてくれる。お姉さんは僕に優しくしてくれる。お姉さんともっと一緒に居たいけど………

「あ………。ごめんね」
「…………またなの?」
「うん……、すぐに終わらしてくるからここで待ってて」

 お姉さんはそういうと、扉の外へと消えていった……。

 ………お姉さんはまた、戦うんだ……。あの時のように………。






「あ~あ、暇だな~~。そうだ!」

 幼稚園から歩いて帰る途中、どうしようもなく暇だった僕は最近見つけた山にある小屋に行くことにした。



「…………来なきゃ良かった……」

 草むらを盾にするように座り込みながら、時々僕の隣に飛んでくる鎖の破片を見ながら、呟いてしまった。けど、仕方ないと思う。だって目の前で凄まじい風と金属がぶつかり合う音が聞こえるんだもん。

「はあぁぁぁっ!!」
「がはぁっ!!」

 あ、決着がついたみたい。真っ黒な鎖を両手に持った男が綺麗な金色な髪のお姉さん?に大きな剣に貫かれている。

「ぐぅぅっ!!貴様!何故我々の邪魔をする!?貴様なら分かっているはずだ!!」
「知らない。あなたの考えている事なんて。ただ、あなた達はやり過ぎた」

 お姉さんは剣を抜くと、血が辺りに飛び散る。男はお姉さんから距離を取り、手にした鎖をこっちに…………、え?

「うわぁぁぁっ!!」
「え!?なんでこんなところに子どもが!?」

 僕は鎖に巻き付けられて男に首元を掴まれる。

「俺の鎖と俺の意識は共有されているんでね………。あんたより感覚は広いのさ……」

 男は血反吐を吐きながら首を掴む手に少しずつ力を入れていっている。

「うっ……………!!」
「やめなさい!」
「………はっ、まさかあんたに人質が通用するとはな……、他の連中にも見せてやりてぇな」

  お姉さんはすごく困ったような、それでいて悔しそうな顔になっている。

「……あんたに要求するのは我々に協力する事だ。異論は認めん……」
「……………」

 男は弱々しくなりつつある声でお姉さんに言いつけたけど………、それは意味が無いと思う。だって、お姉さんの腕の中で僕は既に助けられているから。

「……あなたの要求には答えられません」
「何を……、な!?俺の腕がぁぁぁ!!」

 お姉さんは僕の首を掴んでいた男の手を放り投げ、僕を地面に下ろす。

「………ごめんなさいね。巻き込んでしまって……」
「別に大丈夫だよ、僕が悪いんだし。それよりお姉さんは一体何者なの?」

 僕の質問を予想していたかのようで、大きなため息をついた後、答えた。

「私はアハナ。あなた達にとっての神様にあたるわ」
「え……………えぇぇっ!!?」

 とんでもなく現実離れしていると思っていたけど、まさか神様だったなんて……。

 驚いている僕を見て、微笑んだお姉さんは僕の耳元で囁いた。

「よろしくね、ユウキくん」


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 次は金曜日に投稿します。

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