ただの世界最強の村人と双子の弟子
第89話 魔の神
===オリナ視点========================
血のように真っ赤な空間でふと目を覚ます。体を見渡すと体中に真っ黒な蛇が巻き付いていて、身動き一つ取れない。巻き付く力はとても強く、今にも根を上げてしまいそうになるが、不思議と気分は高揚しておった。
何とも言えない高揚がふつふつと高まる。この高揚は刻み込まれたものだ。魔神である限り逃れられない高揚。
それは相手を支配し、蹂躙し、力の差を見せつける事を幾度としてきた歴代魔神の深層意識。
無意識に我慢していた。ご主人に嫌われないように、リリに、ルルに、みんなに嫌われないように。
けど、そんな事、出来るはずが無い。だって、妾は魔神。魔の神であり、人間を陥れる神。
ましてや、この地で、それを抑えられるだろうか?
仕方ない、仕方ないんじゃ。妾は魔神。それ以上でも以下でも無い。
生物である以上、本質には逆らえん。
体に巻き付いた蛇が嬉しそうに舌をチロチロと出しながらより一層巻きつく力を強めていく。
不思議と苦しくは無かった。だが、目からは一筋の涙が出た。その涙は底なしの真っ赤な空間に落ちていった…………。
===ティフィラ視点========================
「…………撤退する」
イアは目の前にいる10本の腕を背中から生やしたジジイを見据えながら、私とクソ野郎、アイにだけ聞こえる声で呟いた。
「え!?どうして……!」
私は思わず声を荒げてしまう。だって、目の前にいるジジイは背中から生やしていた腕は一本だけになるほどボロボロで、後少しで倒せそうなのに、撤退なんて……!
「……………よく気配を感じてみて」
「………?」
イアに言われた通りに周囲の気配を探る。
「………っ!?何!?この気配!!?」
すると、今まで気づかなかったのが不思議なくらい、禍々しい気配を感じ取った。そこはオリナと竜達が斧使いの男と戦っている筈の場所からだった。
「…………こりゃあ……ヤバイね」
「………?私は分かりませんが……」
クソ野郎も感じ取れたみたいだけど、アイは分からないみたい。
「…………まあ、撤退するのは良いけど、オリナを放って行かないわよね?」
「……………………」
すると、イアは黙り、少し表情を悔しそうにさせながら言った。
「……………この気配はオリナが出してる」
「…………は?」
私は最初、何を言われているのか分からなかった。
だって、オリナは元魔神だけど、ユウキとの暮らしで完全に穏やかな性格になったし、こんな禍々しい気配を絶対に出せないと思ったから。
「………それは本当なのかい?」
「……私の気配察知は既に『昇華』してある」
「…………………そうか…」
クソ野郎との会話で出たイアの気配察知の『昇華』。それは何処に誰が居るのかという事だけでなく、どういった状態なのかまで分かるほど。
「………え?そんな……、オリナが……?」
アイはその場にへたり込んでしまう。……アイからしてみれば、自分と一番近い人だったから。
こんな時、ユウキはどうするんだろう?あの全てを何とかしてしまいそうな彼なら、どんな選択をするんだろう?
今にもユウキに縋りたいけど、ここに居ない。しかも、ここで一番周りを見据えられているのは私だ。
イアは戦闘ぐらいしか能が無いし、クソ野郎もみんなをまとめる事が出来ないし、アイは意識が現実を見ているのかも分からない。今、判断するのは私だ。
「………………撤退しても良いけど、オリナの状態を確認してからよ。じゃないと、撤退しない」
私はイアにはっきりと言った。すると、イアは少し目を見開いて、私を見つめた後、いつもの無機質な顔に戻って目の前のジジイに視線を戻した。
「…………今からあいつを蹴飛ばす。そしたら一気に駆け出して」
「………!ありがとう……。よろしく」
私はそれだけ告げてアイを精霊5体を使って両腕と首元の服を持たせて持ち上げた。
「……………ゴホッ、……まだ私が負けるとはーー」
「"全力の蹴り"」
「ぐがぁぁっ!!」(バキ!ボキ!)
イアは容赦無く、隙だらけの腹に体がくの字になるほどの蹴りをぶち込み、ジジイを彼方へ吹っ飛ばした。それと同時にオリナが居るであろう方向へ駆け出す。
近づけば近づくほど圧倒的な気配に押し潰されそうになるけど、私達は走り続け、遂にオリナが居るであろう所に着いた。
そこは沢山の岩があったであろう所が石ころ一つ転がっていないほどまっさらになっていて、2人の人影がその中央に居た。
1人はあの斧使いだ。もう1人の人影に首元を掴まれ、体は血まみれで、四肢が無かった。明らかにボコボコにされていて、初めて会った時の余裕の表情はカケラも無かった。
そして、斧使いをボコボコにしたであろう人影は、見るからに屈強な体を持った男性だった。
体は褐色で、臙脂色の長髪をなびかせ、ギザギザのツノを頭から真っ直ぐ生やし、トカゲの尻尾のような物を背中の腰辺りから3本生やし、手や足の爪は鋭く尖っていて、まるで大きな針みたいだった。
「「「………………っ!!」」」
イアは相変わらず無機質な顔だったけど、私達は驚きの余り、後ずさってしまう。
あれがあのオリナだなんて信じられない!!あの無駄に人を誘惑しそうな魅力的な体を持って居るのに、ユウキの奴隷になって喜んでいたあのオリナとは…!
「アハハハハッ!!!弱いな!弱いね!弱っちい!雑魚が!ゴミが!愚か者が!弱者が!この俺に!我に!余に!妾に!楯突こうなど!挑むなど!仕掛けるなど!勝てると思おうなど!無礼者が!愚か者が!阿呆か!笑えぬ冗談だ!」
まるで、1人の体に複数の人格が入っているみたい……。いや、入ってる。あれは……、入っていないと説明がつかない。
「……………がはっ、……お前……、いってぇ……何者…」
「はっ!何を言うかと思いきや!何を抜かすと思いきや!腑抜けた事を抜かしおって!分からないか!?理解出来んか!?阿呆なのか!?馬鹿なのか!?頭に虫でも湧いているのか!?この俺こそが!我こそが!余こそが!妾こそが!真の魔神である!真の魔神だ!真の魔神そのものである!真の魔神よ!真の魔神じゃ!」
…………これで、はっきりと分かった。この禍々しい気配は歴代魔神の気配が集まったものだったんだ。オリナはきっと歴代魔神の意識に呑まれてしまったんだろう。
「…………どうする?」
今、私達はオリナが居る場所から離れた所にある大きな岩に隠れている。ここからオリナに見つからず逃げられる可能性は大いにある。………はっきり言って、あのオリナに勝てるとは思えない。ここはリルかユウキと合流しないと……!
「ん?何だ、この鬱陶しいほどの神気は?神の気配は?神の魔力は?俺の、我の、余の、妾の領土に、国に、支配下に、支配する地に、無断で、独断で、無礼にも、不敬にも、暴れとる奴は?無礼を働いている者は?命知らずは?馬鹿者は?愚か者は?」
魔神は斧使いの首をへし折りながら、ある方向を向いた。そこはユウキの魔力を感じ取れた方向でもあった………。
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血のように真っ赤な空間でふと目を覚ます。体を見渡すと体中に真っ黒な蛇が巻き付いていて、身動き一つ取れない。巻き付く力はとても強く、今にも根を上げてしまいそうになるが、不思議と気分は高揚しておった。
何とも言えない高揚がふつふつと高まる。この高揚は刻み込まれたものだ。魔神である限り逃れられない高揚。
それは相手を支配し、蹂躙し、力の差を見せつける事を幾度としてきた歴代魔神の深層意識。
無意識に我慢していた。ご主人に嫌われないように、リリに、ルルに、みんなに嫌われないように。
けど、そんな事、出来るはずが無い。だって、妾は魔神。魔の神であり、人間を陥れる神。
ましてや、この地で、それを抑えられるだろうか?
仕方ない、仕方ないんじゃ。妾は魔神。それ以上でも以下でも無い。
生物である以上、本質には逆らえん。
体に巻き付いた蛇が嬉しそうに舌をチロチロと出しながらより一層巻きつく力を強めていく。
不思議と苦しくは無かった。だが、目からは一筋の涙が出た。その涙は底なしの真っ赤な空間に落ちていった…………。
===ティフィラ視点========================
「…………撤退する」
イアは目の前にいる10本の腕を背中から生やしたジジイを見据えながら、私とクソ野郎、アイにだけ聞こえる声で呟いた。
「え!?どうして……!」
私は思わず声を荒げてしまう。だって、目の前にいるジジイは背中から生やしていた腕は一本だけになるほどボロボロで、後少しで倒せそうなのに、撤退なんて……!
「……………よく気配を感じてみて」
「………?」
イアに言われた通りに周囲の気配を探る。
「………っ!?何!?この気配!!?」
すると、今まで気づかなかったのが不思議なくらい、禍々しい気配を感じ取った。そこはオリナと竜達が斧使いの男と戦っている筈の場所からだった。
「…………こりゃあ……ヤバイね」
「………?私は分かりませんが……」
クソ野郎も感じ取れたみたいだけど、アイは分からないみたい。
「…………まあ、撤退するのは良いけど、オリナを放って行かないわよね?」
「……………………」
すると、イアは黙り、少し表情を悔しそうにさせながら言った。
「……………この気配はオリナが出してる」
「…………は?」
私は最初、何を言われているのか分からなかった。
だって、オリナは元魔神だけど、ユウキとの暮らしで完全に穏やかな性格になったし、こんな禍々しい気配を絶対に出せないと思ったから。
「………それは本当なのかい?」
「……私の気配察知は既に『昇華』してある」
「…………………そうか…」
クソ野郎との会話で出たイアの気配察知の『昇華』。それは何処に誰が居るのかという事だけでなく、どういった状態なのかまで分かるほど。
「………え?そんな……、オリナが……?」
アイはその場にへたり込んでしまう。……アイからしてみれば、自分と一番近い人だったから。
こんな時、ユウキはどうするんだろう?あの全てを何とかしてしまいそうな彼なら、どんな選択をするんだろう?
今にもユウキに縋りたいけど、ここに居ない。しかも、ここで一番周りを見据えられているのは私だ。
イアは戦闘ぐらいしか能が無いし、クソ野郎もみんなをまとめる事が出来ないし、アイは意識が現実を見ているのかも分からない。今、判断するのは私だ。
「………………撤退しても良いけど、オリナの状態を確認してからよ。じゃないと、撤退しない」
私はイアにはっきりと言った。すると、イアは少し目を見開いて、私を見つめた後、いつもの無機質な顔に戻って目の前のジジイに視線を戻した。
「…………今からあいつを蹴飛ばす。そしたら一気に駆け出して」
「………!ありがとう……。よろしく」
私はそれだけ告げてアイを精霊5体を使って両腕と首元の服を持たせて持ち上げた。
「……………ゴホッ、……まだ私が負けるとはーー」
「"全力の蹴り"」
「ぐがぁぁっ!!」(バキ!ボキ!)
イアは容赦無く、隙だらけの腹に体がくの字になるほどの蹴りをぶち込み、ジジイを彼方へ吹っ飛ばした。それと同時にオリナが居るであろう方向へ駆け出す。
近づけば近づくほど圧倒的な気配に押し潰されそうになるけど、私達は走り続け、遂にオリナが居るであろう所に着いた。
そこは沢山の岩があったであろう所が石ころ一つ転がっていないほどまっさらになっていて、2人の人影がその中央に居た。
1人はあの斧使いだ。もう1人の人影に首元を掴まれ、体は血まみれで、四肢が無かった。明らかにボコボコにされていて、初めて会った時の余裕の表情はカケラも無かった。
そして、斧使いをボコボコにしたであろう人影は、見るからに屈強な体を持った男性だった。
体は褐色で、臙脂色の長髪をなびかせ、ギザギザのツノを頭から真っ直ぐ生やし、トカゲの尻尾のような物を背中の腰辺りから3本生やし、手や足の爪は鋭く尖っていて、まるで大きな針みたいだった。
「「「………………っ!!」」」
イアは相変わらず無機質な顔だったけど、私達は驚きの余り、後ずさってしまう。
あれがあのオリナだなんて信じられない!!あの無駄に人を誘惑しそうな魅力的な体を持って居るのに、ユウキの奴隷になって喜んでいたあのオリナとは…!
「アハハハハッ!!!弱いな!弱いね!弱っちい!雑魚が!ゴミが!愚か者が!弱者が!この俺に!我に!余に!妾に!楯突こうなど!挑むなど!仕掛けるなど!勝てると思おうなど!無礼者が!愚か者が!阿呆か!笑えぬ冗談だ!」
まるで、1人の体に複数の人格が入っているみたい……。いや、入ってる。あれは……、入っていないと説明がつかない。
「……………がはっ、……お前……、いってぇ……何者…」
「はっ!何を言うかと思いきや!何を抜かすと思いきや!腑抜けた事を抜かしおって!分からないか!?理解出来んか!?阿呆なのか!?馬鹿なのか!?頭に虫でも湧いているのか!?この俺こそが!我こそが!余こそが!妾こそが!真の魔神である!真の魔神だ!真の魔神そのものである!真の魔神よ!真の魔神じゃ!」
…………これで、はっきりと分かった。この禍々しい気配は歴代魔神の気配が集まったものだったんだ。オリナはきっと歴代魔神の意識に呑まれてしまったんだろう。
「…………どうする?」
今、私達はオリナが居る場所から離れた所にある大きな岩に隠れている。ここからオリナに見つからず逃げられる可能性は大いにある。………はっきり言って、あのオリナに勝てるとは思えない。ここはリルかユウキと合流しないと……!
「ん?何だ、この鬱陶しいほどの神気は?神の気配は?神の魔力は?俺の、我の、余の、妾の領土に、国に、支配下に、支配する地に、無断で、独断で、無礼にも、不敬にも、暴れとる奴は?無礼を働いている者は?命知らずは?馬鹿者は?愚か者は?」
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