ただの世界最強の村人と双子の弟子

ヒロ

第72話 対峙

===???視点========================

「はぁ!?本当に子供なのか!?」

 俺が放った矢を躱した双子の子供。俺の矢は音を立てず、音速以上のスピードで敵を貫く必殺の矢。それを躱されたのはこの前殺された『暴神』さんを含めたトップの3人だけだ。つまり、あの双子はトップ3人並みの力を………!

「ありえねぇ!あり得るわけがねぇぇ!!」
 
 今度は50本だ。これなら躱しきれず、串刺しに……!!俺は相棒の禍々しい赤と黒が渦巻く弓で一つの矢を放つ。それが50本に増殖し、あの双子のところに一直線に向かう。俺の目は千里先も見える。あれくらいの距離なら外す訳がない!
 
「なぁぁにぃ!!?」

 今度は突然現れた針のような槍で全部の矢が叩き潰されたかのように消えた。あり得ない!俺の矢は4、5軒の家を跡形もなく消せるほどの威力を持っているんだぞ!?そんな細い針のような槍で防げるはずが………!?

「何を遊んでいるんだ?」
 
 焦っている俺に話しかけたのは『戦神』。文字通り、戦いの神というだけあって『神の強欲ゴットグリード』の中で現在のNo.3、つまり、『暴神』さんの後釜だ。『暴神』さんより強いと言われていたけど、人望が無くてずっとNo.4だったけど、『暴神』さんが居ない今、仕方なくNo.3にしたという経緯がある。

「いや、遊んでいた訳では……!」
「これだから神名無しは使えない!!」

 そう、俺は神名無し。つまり、神になりきれなかった神もどき。神の眷属とは違い、眷属より強い力を持つけど、『神化魔法』や神界への出入り口である門を開けられない。中途半端な力と立場を持つ神もどきが神名無し。
 今回の任務は"特異点"の弟子の様子を伺い、隙あらば殺害。これを成功させられれば、俺も『神の強欲ゴットグリード』が世界を支配した後に神名を貰える。
 神名があるというのは、それだけで『神化魔法』や門を開けられたり、何より格段に強くなる。だから、俺はこの任務に賭けようと思った。

「神名無しでもやれるってのを見せてやる!!」

 俺は弓に魔力を注ぎ、禍々しさを増幅させてから矢を生成して放つ。今度は80本。だが、それだけじゃないぞ。


===ルル視点========================

「………また来た」

 私は"千里眼"で見つけた80本近くの矢を見ながら呟く。それを聞いた姉さんは槍を構えて待ち構えている。
 いよいよ"千里眼"を使わなくても見える距離になった瞬間、矢一つ一つが分裂して数を増やしていき、最終的には300本近くもの矢が飛んで来た。

「数を増やして意味は無いよ!」

 姉さんはさっきと同じ方法で矢を弾く。………確かに数を増やしても意味は無い。なら、どうして数を………?

「ん?ちょっ!」

 姉さんが慌て始めたので、姉さんの方を見てみると、さっき弾いた矢から黒い霧のようなものを纏ったボロボロの騎士が現れ始め、私達を取り囲み始めた。未だ矢は降り注ぎ続け、姉さんは矢を弾かないといけないから動けない。つまり、私が何とかしないと!
 私は姉さんにかけてもらったポーチから魔導書を取り出し、ページをめくって最善の『魔導』を探す。そして、最善か分からないけど対抗出来るのは見つかった。

「『魔導』"ナイトメイク・アース"」

 しっかり『魔導』が発動したようで、地面から土で作られた剣と盾を携えた土の騎士が次々と現れた。その数、50体。それに対して、相手は矢の本数から考えるに300体は現れる。戦力差は歴然だけど、それを覆すのは質。

 私が生み出した騎士は次々と黒い騎士を倒していく。時折、姉さんが弾いた矢が飛んで来ても、しっかりとガードする高性能ぶり。やがて、矢が途切れた時には黒い騎士は全滅。こっちは10体やられただけで40体は残っている。

「すごいね、この騎士。Aランクは軽く超えているね」

 姉さんがペタペタと触って感心している。勿論、土の騎士が姉さんを襲う事はない。私が生み出した時に状況を瞬時に把握して、さらに私から外敵や目的を言えばしっかりと遂行出来る。多分、"プログラミング"の要素も入っているんだろう。

「あなた達はティフィラさん達を守ってて」

 私が指示すると、土の騎士はティフィラさんとエルガさんが居るテントとオリナとイアが居るテントの周りを囲み、盾を構えた。私が誰がティフィラさんだとかどこに居るとかも言わずにやった事から私の記憶を読み取っているのかもしれない。………今はそれより『神の強欲ゴットグリード』の事を何とかしないと。

「…………姉さん」
「うん、分かってる。どうやってあの山に向かおうか」

 私の"転移"でも良いけど、あまり慣れていないから魔力消費量が大きくて、着いても戦えない可能性がある。私は魔導書をめくったりしながら考えるけど、全然良い案が………

「ねぇねぇ、こんなのはどう?」

 姉さんが私の耳元で囁いた案はまさに妙案だった。



「ルルっ、大丈夫?」
「うんっ、平気っ」

 今、私達は土で出来た馬に乗っている。操縦者は姉さん、私は後ろで姉さんのお腹に腕を回して抱きついている。
 そう、これが姉さんが出した妙案。私が『魔導』"クラフト"で土の馬を作り、姉さんの鉄の棒を変形させて馬鎧を着せてその馬鎧でこの馬を動かしている。姉さんはかなり難しいテクニックを要求されているのに、すぐに乗りこなせて普通の馬と同じスピードが出ている。

「あ、来たよ」

 姉さんが教えてくれたように、"千里眼"で見たら今度は100本近い矢が飛んで来ている。今、攻撃を受けたら馬が崩れるし、隙だらけだからダメージも大きくなる。何とか撃ち落とさないと!

「"サンダーレイン"!」

 超上級魔法だけど『魔導』よりは魔力消費が少ないし、広範囲だから残らず撃ち落とせる!
 矢が飛んでいるところの上から雷の雨が降り、矢を撃ち落としていく。いや、どっちかというと消し炭にしている方が正しい。消し炭になっているから黒い騎士が生まれる事も無く、全ての矢が消え、馬はさらに加速していく。どうやら姉さんは多少無理をしてでも早く着いた方がいいと判断したみたい。

 そして、山の森に着いた。それまで妨害は無く、苦労する事も無かった。私達が馬から降り、姉さんが馬鎧から鉄の棒に戻すと、馬は崩れ落ちた。どうやらかなりギリギリだったみたい。

「行こっか」
「……うん」

 私は姉さんと肩を並べながら森の中に入る。姉さんは鉄の棒を、私は魔導書を片手に警戒しながらも、それを悟られないように歩く。幸い、私達はお師匠様の修行のお陰で森は慣れているからこの森のように足場が悪い所が多々あってもスイスイ登れる。
 そろそろ山の中腹かなって思ってた頃、一本の普通の矢が姉さんを狙って飛んで来た。その矢を普通に掴む姉さん。姉さんは掴んだ矢を握り締めると、その矢は霧散した。どうやら光の矢が普通の矢に化けていたようだった。深夜で暗い森の中で私達が普通に歩けるのは"夜目"と名付けた、人が暗闇に目が慣れる能力を"身体強化"で強化したもの。これもお師匠様の修行で会得した。

「全く、本当に無理な気がするくらい難しい任務を受けてしまったな」

 聞こえて来たのは若そうな男の声、でも、目の前にいるのは片目や腕、足、胸といったあらゆる所に刀傷や火傷の跡があるガントレットを付け、背中に大剣、ハンマー、トゲトゲの付いた大きなモーニングスターや槍を背負ったムキムキのおっさんだった…………。


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  おっさんのムキムキは普通に恐怖ですよね?

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