ただの世界最強の村人と双子の弟子

ヒロ

第38話 ユウキvs赤髪の神

===ユウキ視点========================

(ガキィン!キンッ!キンッ!ガキィン!)
 まるで刀と刀がぶつかり合うような金属音が森の中に響く。
 俺は『魂の解放ソウルバースト』した攻武を右手に、同じく解放した守姫を左手に持って、全身刀野郎と森を駆け回りながら戦っている。
 解放した攻武は刀身だけで俺の背丈ほどあり、刀身の幅は人一人分もあり、柄も腕一本ぐらいの長さがある片刃直剣。
 解放した守姫は柄も刀身も何もかも真っ白な日本刀になり、俺の周囲に無数の札が展開していた。

「……なかなかやる」
 一旦間を置くと、目の前の神が寡黙ながらも少し喜んでいる。

「あんたこそ、強いな」
 これは素直にそう思った。目の前の神は赤い光を纏うと、全身が刃のように硬く、鋭くなるが、光は時間経過で弱まり、それを維持している神は少なからず魔力をある程度もっていかれているはずなのだが、まだ威圧的ともとれる膨大な魔力は感じられる。
 因みに俺は解放した攻武と守姫の影響で、通常の魔力の約6倍以上はあるのだが、それでやっと互角のような気がする。いや、奴はまだ力を隠していやがるかもな………。

「さあ、続きを始めようか」
「……正直、やりたくねぇー」
(駄目ですよっ!ご主人様っ!!私達のあっ、愛の巣窟を壊した罪は重いんですからっ!!)
 守姫はやる気満々だな。

「はぁっ!」
「よっと」
 奴が頭上に振り落としてきた手刀を難なく躱しつつ、攻武に魔力を溜める。

「今度はこっちからだっ!!」
 守姫っ!
(お任せをっ!!)
 守姫が俺の周囲に待機していた札を硬くし、まるで手裏剣かのように飛ばす。その数、50。それを手刀で斬り落としていく神。ドラゴンに踏まれてもひびすら付かない硬くなった札を紙を切るかのように易々と斬り落とすのを見ると、改めて目の前の神が強いかが分かる。

「ふっ!」
「……おっと、危ないな」
 隙を突いたはずの右側からの攻武が上、守姫が下の横二段になった水平斬りは奴の右足によって防がれる。だが、

「………っ!」
 奴の足からは、僅かに血が出る。攻武で斬りつけたところからだ。それもそのはず、攻武に魔力を込めると、斬れ味、破壊力が上がり、空気抵抗すらも斬ってほとんど影響が出なくなるほど。今回は少しだけ込めたが、それで血が出るなら、今度はもっと多く!
(一気に決めるか?王よ!!)
 いや、焦りは禁物だ。確実にダメージを蓄積させ、確実に、殺す。
(はっ!そう来なくちゃなっ!!)

「……その巨大な剣は危険のようだな……」
 足から僅かながらも出ている血にはもろともせず、相手はゆっくりと近づいてくる。………纏っている光が強い。強度を上げてきたか………。

「さあ、いくぞ」
「お前意外と戦闘狂じゃないのか!?」
(ガキィィィン!!!)
 俺の言葉は大きな金属音でかき消された……。

===魔神視点========================

「う、うぅぅん。ここは……」
 体を無理矢理上げると、なかなか強い風が吹き荒れておる。

「起きた?」
 声のする方を見ると、リリが妾を見ていた。

「ああ、すまぬ。いつ間にか寝ていたようじゃ」
「いや、寝ていたんじゃなくて、気絶してたんだけどね………」
「そういや、まだ安全な場所に着かんのか?」
 妾が呟くと、リリは少し気まずそうになりながらも説明してくれた。

「今はエルガさんに無理をいって、師匠のところに向かっているの」
「……!?どうしてじゃ?あの場に居ても何も出来んぞ?むしろ足手まといに……」
「分かってるっ!けど……どうしても不安で……力になれなくても、魔力の譲渡くらいはして役に立ちたいから…………」
 それは無理があるとは思うが、言わない方が良かろう。恐る恐る反応を伺っているリリを撫で、
「…………もう何も言わんから安心せい」
 「……………ありがとう」
 風ですぐ消えてしまいそうなくらい、小さな声じゃったけど、気持ちはよう込もっておる言葉じゃ…………。

===ユウキ視点========================

「いい加減っ!ぶっ飛べっ!!」
「ぬおっ!」(ドゴン)
 凄く硬くしてきた神と何度も剣?を交え、なかなか戦況が変わらない事に苛立った俺は遠心力を加えた回転斬りで奴を木に吹っ飛ばす。吹っ飛んだ先の木はへし折れ、こっちに落ちてくるのをデコピンで弾き返す。

「……まだまだ力は残っているようだな」
「お前こそな」
 こいつのタフさには呆れるわ。

「……もう少し、力をあげようか……」
「マジかよ……まだ強くなるのかよ」
 奴が纏う光はより一層強くなる。

「今度は少し速いぞ」
「………!」
 神がこっちに突っ込んでくる。確かに速ぇな。けど、充分対応出来る。

「おっらぁっ!」
 俺は奴を守姫の突きで迎え撃つ。それに対し、奴は同じく左手の突きで相殺してくる。今度は攻武を振り下ろすが、それを易々と躱され、奴は空いている右手を俺に振り落としてくるが、それは守姫の札を使った"結界術"で防ぐ。あまりの強度に態勢を崩れた奴の腹に鋭い蹴り上げを決めると、奴は簡単に浮いた。右足に鈍い痛みが走るが、気にもせず、今度は左足でかかと落としをし、これも難なく決まり、奴を地面に叩き落とす。

「………今のは効いた」
 奴はすぐに立ち上がり、後頭部に手を当てて、こちらに血のついた手を見せつける。さっきのかかと落としを当てた場所が出血したようだ。

「そいつはよかった」
 さっきのかかと落としは『殲滅武術』"脚技きゃくぎ・大陸割り"。文字通り、大陸をも割れるかかと落としだ。因みに蹴りでも使える。

「貴様との戦いはとても楽しい。なかなか味わえない高揚感がある」
「………そりゃどうも」
「もっと、もっと、楽しませてくれよ……!」
「………っ!!」
 神はいきなりかなりの速度で駆け寄ってきた!

「ふっ!」
「くっ!!」(ガキィィン)
 奴の両手から繰り出される手刀の連撃を辛うじて防いでいる。……だが、このままではジリ貧だな………。残りの魔力量から考えて、あと3分あるかないかくらい。それならいっそ……!

「どうした?どうした?攻撃してくるがいい」
「………っ!言われなくてもっ!!」
「……ん?」
「おっらぁっ!!」
「ぬおっ!」
 俺は『魔導』"重力支配"を使い、奴を浮かせ、体勢を崩し、そこに『殲滅武術』"拳・羅刹貫"を奴の腹に深く当て、吹っ飛ばす。その隙に奴を倒すために魔力を攻武に集中させる。

(外すんじゃねぇーぞ!)
 分かってる、それに俺が外すわけねぇだろ。
(ご主人様、これで倒せなかった場合は……)
 そん時に考える!

「ぐふっ!……今のはかなり効いた。俺の力の特性をしっかり見極めていたか………」
 大量の血を吐き、腹を抑えながら、神が木々の間から出てくる。その表情は未だ寡黙という言葉が似合いすぎているほど落ち着いたものだが、どこか苦痛と楽しみが僅かながらも混ざっているように見える。俺が使った"羅刹貫"は、対象に当たるとその衝撃が体を貫通し、中の臓器などをぐちゃぐちゃに潰す技だ。無論、貫通した後の衝撃が他の奴に当たるとそいつも同じ事になる。一方向にしか使えないが、威力と殲滅力はかなり高い技だ。それをくらって血反吐吐くレベルで済んでる奴は本当にヤバイな……。

「次で決めてやるさ」
 俺は守姫を収納し、両手で攻武を構える。攻武は刀身を1.5倍くらい大きくしたような禍々しい黒い炎に包まれている。それを見た神は、ついに口の端を吊り上げて笑みを浮かべた。

「やってみろ」
 神は今まで纏っていた赤い光を赤黒く変化させ、大きく、厚く、体に密着させ、両腕を顔の前でクロスさせて完全に受けの体勢をとった。

「くらえっ!!"滅却大黒炎"!!」
 俺が放った大きな黒い炎は神を飲み込んだ…………。

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 次回、赤髪の神の正体が!?
 

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