ただの世界最強の村人と双子の弟子

ヒロ

第37話 技姫の戦況

===ルル視点===========================

「………ねぇ、提案があるんだけど……」 
 さっきまで泣いていたはずの姉さんは急に話し始めた。それもしっかりとした声で。

「………何?」
「エルガさんに頼んで師匠のところまで連れて行ってもらうってのは?」
「!?」
 今、私達はフェニックスになったエルガさんの背中の上で、どこに向かっているのか分からないけど空を飛んでいる。だから、近くにいる私達だけしか聞こえない。因みにオリナはずっと、私達から少し離れた所で膝を抱えてうずくまっている。

「……行ってどうするの?」
「勿論、加勢するの」
「お師匠様が言ってた。"私達では足手まとい"と」
「うっ。けど、ここで何もしないで後悔するのは嫌だ」
「……………っ!」
 姉さんは真っ直ぐで覚悟した目で私を見ている。………確かに、後悔はしたくない。お師匠様に会えた事に浮かれて、《オウガ》の事は何にも考えていなかった……。そして、お父さんやお母さんや顔見知りの人達もみんな死んだ。あんな思いはしたくない………けど、あそこに行って何か出来るとは………。

「お取り込み中悪いんだけど、急降下するからしっかり掴まってて」
 激しく風が吹き荒れる中、エルガさんの声は周りの風を無視するかのようによく聞こえた……。

===ユウキ視点===========================

「ぐはっ!」
(ご主人様っ!!)(王っ!!)
 神が俺の胸から手刀を引き抜くと、血飛沫が舞い、口からは血が僅かながらも飛び散る。

「チッ!」
 俺は咄嗟に神から離れる。頼む、守姫!!
(はいっ!"エクストラヒール"!!)
 守姫の回復魔法で、傷は跡形も無く消える。

「ほう、回復魔法も使えるのか……」
 不自然な回復魔法の発動を気にもしてないようだな……。
(もうご主人様、アレしかありません!!)
(さっさと使って終わらそうぜっ!!)
 ああ、そうだなっ!!

「………やっと本気を出すか……」
 研ぎ澄まされていく俺の魔力を感じて、あいつも少し身構えたような気がする。

「いくぞっ!!『魂の解放ソウルバースト』!!!」

===技姫視点===========================

「………『魂の解放ソウルバースト』」
 私は自身を逆手に持ち、切っ先を下に向けて前に出すと、躊躇っていた力を解放します。私が力の解放を宣言すると、自身から私を中心とした激しい風が現れ、自身も光り出し、形を変えていきます。……減りの早い私の魔力を気にしつつ、解放し終わるのを待ちました……。

「なっ、何よ………。何なのよっ!それはっ!!」
 女神は明らかに動揺し、さっきから私の周囲にある風に、血の突風をぶつけているみたいですが、私の風の方が勢いが強く、全て弾かれています。
 そうこうしている内に、解放が完了し、風が途端に止みます。
 両手には、日本刀は変わりませんが、薄く青く光っている刀身になっている自身と、背後に6つの鉄球のようなもの(アトラ)が左右に3つずつ縦に並び、私は様々なデータが絶え間なく視界を遮らないように隅に表示される薄い水色の平面レンズのゴーグルを装着しています。

「なっ、なにっ!?その姿……!」
 明らかに変化した私の姿にもはや後ずさっている女神。

「貴方が知る必要はありません。"浄化"」
 私は背後に待機してあったアトラの1つを高い木々の中間辺りに移動させ、アトラの中で生産していた女神の毒を完全消毒出来る霧を撒布する事で、血みどろのようになっていた周囲が雨上がりの水浸し水溜まりのあるものへと変化していきます。

「私の『神化魔法』が…………」
「これで終わりです」(…………ゴト)
 目の前の事ばかり呆気にとられていた女神の首を落とすのは簡単でした………。

「ふぅ……」
 私は『魂の解放ソウルバースト』を解きます。すると、一気に疲労感が押し寄せてきて、思わずその場で座り込みます。
 『魂の解放ソウルバースト』は発動に少なくない魔力をもっていかれますが、発動中は通常の魔力の約3倍以上の魔力を保有し、私なら"多様性"、守姫なら"鉄壁の守り"、攻武なら"圧倒的な攻撃力"を具現化した『ソウルウェポン』に変化し、圧倒的な戦闘力を得る事が出来ます。ですが、その強すぎる力ゆえ、しっかりと身に押さえ込まないと、周りを一瞬で焦土と化す恐ろしい力です。これをすぐに扱えたのは我が主人くらいで、私達は安定するのに何百年とかかりました。

「………成功して良かったです」
 こちらは勝ちましたが、私と我が主人の魔力はリンクしているので、少なからず我が主人の魔力が減って迷惑をかけているはず………。それにティフィラ様の事も気になりますね………。いつの間にか離されていましたし…………。

「あっ、ここにいたんだ」
 声のする方に目を向けると、傷は跡形もありませんが、破れた服からなかなか辛い戦いをしてきたのが分かるティフィラ様が来ました。

「ご無事だったようで………」
「あなたこそ、来る途中で感じた尋常じゃない魔力は流石に驚いたよ!」
 ティフィラ様は私と守姫に話す時は比較的緩い口調です。………エルフ口調と今の口調、どっちがティフィラ様の本当の口調なんでしょうか……?まあ、それは今はどうでもいいですね……。

「私はこれから我が主人の下へと向かいますが、ティフィラ様はどうされますか?」
「勿論!ユウキの所に行くに決まってる!!」
「分かりました、いるとは思いませんが、森の魔物が出た場合は任せましたよ?私は出来るだけ、魔力を温存しておきたいので………」
「ええ、分かったわ」
「ありがとうございます。ではこちらです」
 私達、我が主人の『ソウルウェポン』はある程度離れていても、お互いの場所が分かるようになっています。この森の中ならすぐに場所は分かりますからね…。

「待っていてください………!」
 高速で移動している我が主人の反応は戦闘中という事でもあります。未だに戦闘している我が主人と戦っている相手はあの赤髪の男で間違いないでしょう。あの抑えきれずに漏れ出している大きな魔力には戦慄を覚えましたからね………。

===リリ視点========================

「「お願いしますっ!!!」」
「………え~と、どうしよ」
 頭を全力で下げる私とルル相手に、もはやエルガさんは動揺を隠しきれていません。
 現在の場所はどこかの洞窟の中。洞窟の中は比較的明るいのです。何故かというと、中は『静光石』と呼ばれる淡い光を出す石があり、石によって違う光を出すので、洞窟の中はとっても幻想的になりつつも充分な明かりを確保してくれています。

 さっきから頭を下げ続けているんですが、一向にエルガさんが付いて行っていい許可をくれないのです。因みにオリナは、洞窟に入り込むために急降下したエルガさんによって気絶し、横になっています。

「う~ん、仕方ないか。このまま1人で行っても、勝手に出ていかれたら困るし」
「「やった~!!」」
「た  だ  し、勝手な行動は駄目だ。これを守れないなら、お前達を行動不能にしてから行く」
 さらっと言われた言葉に若干恐怖したけど、そのくらいで諦める訳ない!

「「よろしくお願いします!!!」」

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 続々と神々は倒れ、ユウキに集結していくリリ達。肝心の、ユウキと赤髪の神との戦いはどうなっていくのでしょうか!
 

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