ただの世界最強の村人と双子の弟子

ヒロ

第25.5話 魔神、正式な冒険者になる

===魔神視点==================

「それは一体どういう意味ですか」
  後ろから聞こえた、明らかに怒りのこもった声に動じなかったバレは後ろを振り向くが、流石にあの狩人の様な目には動じたようで、少し後ずさんだ。

「こっ、言葉の意味そのまんまだっ!冒険者達は酒を浴びるかのように飲み、暴れ、問題を起こし、いざ法で裁こうと思いきや、魔物為に日夜尽力しているだの、命がけの戦いをしているだのほざきやがる!!こんな奴らを野蛮と罵って何が悪いっ!!」
  バレはただ単に冒険者を馬鹿にしているかと思っておったが、意外と見ている所はあるようじゃの。

  バレの訴えに、ボウは静かに口を開いた。
「確かに……、そのようなロクでもない冒険者もいます。ですが、全ての冒険者がそうである訳ではありません…!貴方がロクでもない冒険者を馬鹿にするのは構いませんが、他の関係のない、本当に日夜、魔物退治に尽力している冒険者や命がけの戦いをしている冒険者まで馬鹿にするのは許しません……!!」

  ボウの正論にバレは今度は分かりやすい後ずさりをし、そして素直に、「すまない……」と口にして帰ってしまった。

「ふぅ、さて、貴女を冒険者にする為の手続きを始めましょうか」

「……はい、お願いします」

  手続きは仮登録をしていた事もあって素早く進み、昼頃には完了した。

「これで手続き完了です。そして、こちらが貴女のギルドカードです」
  渡されたのは金色でAと書かれているカードじゃった。

「えっ!?モリーさん、Aランクになったんですか!?確か試験でどんなに好成績を出しても最高はBランクの筈じゃ………」 
  受付嬢は何度目になるか分からないが、口を大きく開いて驚いておった。というか、そろそろ顎が外れそうなんじゃが……。

「ええ、通常はそうなんですが、モリーさんは異常ですので……。本当はSランクにでもさせてあげたかったんですが……、僕の力不足でAランクまでしか…」
  ボウのあの落ち込み具合からしてマジじゃ!マジの方で妾は異常判定されてしもうた。

「いえいえ!充分すぎです!!」
  ランクが高い奴は強い奴と決まっておる。そして、その分、知名度が上がってしまうからあまり高くなくて良かったわ。妾の今の姿で有名になっても、奴が分からなかったら意味が無いからの。やはり、奴とは直接会うのが確実じゃからな。

「そう言ってもらえると救われます……」
  ボウは心配性なのじゃな。

「もう、手続きは終わった筈なので帰っても良いんですよね?」

「ええ、構いませんよ?それより今日は依頼は受けないんで?」

「取り敢えず、宿に帰ってから考えようと思います」
  というか、何故か宿に帰りたい気分じゃ。

「そうですか」

「では、これで」

「はい、貴女のこれからの活躍、期待してますよ?」
「モリーさんっ!!本当におめでとうございますっ!!!」

「ありがとうございます!それでは」

  さて、これからどうしようかの。冒険者になれたから山貫通トンネルルートはもう行けるようになったの。じゃが……この村を出ていくのは…寂しい。もう少しだけっ!もう少しだけっ!ここに!!
  
  いつもの帰り道、村はいつも通り活気に満ちておった。そんな代わり映えのしない街を歩いておると目の前に黄色と黒の毛玉が突如現れる。

「よう、久しぶりだな」
  目の前にいたのは、昨日、妾を忠告した獣人族じゃった。

「ええ、お久しぶりです。昨日は忠告して下さってありがとうございます。ですが、あまり試験は危険では無かったので忠告はあまり意味を成しませんでしたが」
  こいつがいる理由は何となく分かっておったから少し棘のある言い方で話す。
  妾の言い方に一瞬眉をひそめたが、すぐに平静を装い、予想していた通りの申し込みをしてきおった。

「今から俺と決闘しろ」

「嫌です」
  予想出来たから即答。

「何故だ?」

「いや、あなたこそどうして私が受けると思ったんですか?メリットも何も無い、私利私欲の戦いを」
  妾の指摘は的を射ていたようで、見るからに男は怒りの表情になった。

「なら、メリットを出そう。お前が勝てば俺の全財産をくれてやる。その代わり、俺が勝てばお前と俺の順位を変えてもらう」
  やっぱり、妾がモリーと分かっておったか。じゃが、妾とあやつの順位を入れ替えるなど妾ができる筈無かろうて。こやつ、馬鹿じゃの。

「ええ、わかりました。その決闘、受けましょう。ただし、私はまだ昼ご飯を食べていないので3時ごろ、《冒険者ギルド》の決闘場で決闘というのであれば」

「構わん」

「では、3時ごろ。また」
  いつの間にか野次馬が出来ておったからそれを無理矢理掻き分けて宿の食堂へと向かう。

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  現在、3時10分

「逃げずに来たようだな」

「私が逃げる可能性を考えていた時点であなたは大した事は無さそうですね」
  こやつのせいで妾の機嫌はすこぶる悪い。何故なら、

「ちょっと!やめてください!!モリーさん!!相手は獣人族の、それも獣寄りですよ!?もし、あなたに何かあったら私は……!私は……!!」
  そう、いつもの受付嬢が泣きそうな顔で妾と獣人の決闘を止めようとしているのだ。
  別に決闘自体はどうでも良いが、受付嬢が泣きそうな顔になっているだけで、何故か心が締め付けられる……!一刻も早くいつもの笑顔が絶えない受付嬢に戻してあげたい…!だからといって、こいつの決闘を辞退したら、受付嬢が祝福してくれた事実があいつに渡ってしまう…!そんな気がするから辞退する訳にはいかない……!

「早く始めましょう、あなたの顔を長くも見たく無い」
  妾は魔法の準備を始める。

「言うじゃねぇか、くそアマ!!」
  男は背中に背負った決闘の為に持ってきたであろう斬馬刀を構えた。

「でっ!では、始めっ!!」
  気弱そうな女性職員の、掛け声と共に決闘が始まった………。

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  今回の話で魔神が人間にかなり近いて来ましたね!!個人的に結構、魔神は好きです!!
  

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