覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

数日前

 「それで、どういった要件で?」と曹丕。
 「そうでござった」とどうやら滝川総兵衛は、肝心の要件を失念していたようだ。

 「魔王軍がエルドレラを攻めるという噂を聞いたので、朗報を1つ伝えようとやってきたのでゴザルよ」

 滝川総兵衛の言葉を皆、信じなかった。
 天井に張り付いた間者の言葉を信じる方がおかしい。
 そもそも、言っている事がおかしい。なぜ、魔王軍が攻め込んでくるらしい話を聞いたからと言って関羽の家に忍び込んでいたのか?
 そんな疑問に総兵衛は―――

 「虫の知らせでゴザルかな。こんな大事件ならば、関羽どのにも何らかの関わりがあるのではないか?そう考えて、暫く天井に張り付いていたでゴザル」

 とても納得できる説明ではなかった。
 しかし、曹丕は―――

 「そうでしたか。では朗報とは?」と話を進める。
 「おぉ、そうでゴザッた!」と総兵衛は膝をぽんと叩いた。

 「もしも、関羽どの達が魔王軍として神を落とすと言うのであれば、協力者を集める役を買って出るでゴザル!」
 「協力者?」
 「そうでゴザル。この町には沢山の《渡人》が住んでいるのでゴザルが、その大半は自分たちの意思とは無関係にこの世界に来たのでゴザル。現状に満足しながら生活している者も内心は面白くないと考えはあるのでゴザル」

 それこそ、『魔王』のように
 総兵衛は、そう付け加えた。
 「内乱の目はすでに出来上がっていたというわけですかね?」と軍師であるマキビが言った。
 「……」と総兵衛は無言で頷いた。

 つまりクーデターである。

 「ならば!」と曹丕は立ち上がった。

 「協力者にこう伝えてください。元の世界に戻る方法が―――否。こちらと元の世界を行き来する方法が必ずある……と」
 「り、流言でゴザルか?流石に、その規模になると成功しても反動が怖いでゴザル……」
 「いやいや、流言ではありませんよ。私は―――いえ、私ならば必ず、その方法を見つけ出してみせますよ」

 曹丕の言葉には嘘偽りはなかった。
 彼自身が本気で信じているのだ。自分自身の言葉を―――

 「決行は魔王軍の動きに合わせてですかな」

 そう言ったのは関羽であったが、彼自身、その決行がわずか数日後になるとは想像すらしていなかっただろう。
 それほどに『魔王軍』の進軍は神速であった。


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