覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

星と天威

 現在の状況を説明すると―――

 直家は敵2人に挟み撃ちにされている状態。
 マキビはルーデルを護衛。
 倒れている舩坂弘は、意識こそあるようだが、電撃によって体の自由が奪われている。

 そして、奇妙な事がもう1つ。
 王の間に奇襲をかけられているにも関わらず援軍が来ない。
 おそらく―――

 「えぇご想像の通りに、我らの仲間を既に魔王軍に潜り込ませています。貴方も戦ったグルカのメンバーです」
 「グルカ……あのニセ山賊集団か」

 直家の口調は軽々しいが、頬を伝って汗が流れる。
 それは、グルカを名乗る集団との戦闘を思い出したという理由もあるが、それ以上に―――

 (残り時間は……とっくに越えちまってる)

 直家には時間制限があった。 
 マキビの魔術によって若い肉体を維持しているが、それは肉体を犯している病魔の進行を止めるため、また治療のためである。
 しかし、それは過剰な戦闘や魔力の酷使によって、元の姿―――病魔に犯された老人に戻ってしまう。
 そして限界稼働時間は、既に超えている。 
 原因は舩坂弘と戦い。そしてmルーデルと対峙してから、この連戦である
 直家は自らの精神力によって見た目こそ若さを維持しているが、中身は戦闘不能状態の一歩前である。

 そんな直家にミイラ男は―――

 「ん~見た感じ、威勢は張っているが中身は老人ですね」
 「ちっ、ばれてやがるのか」

 直家は覚悟を決めた。
 しかし、ミイラ男は―――

 「そうですね。今は星とでも名乗っておきましょうか」
 「あぁん?」
 「自己紹介ですよ。必要でしょ?誰の手によって殺されたのか?自分の墓に彫り刻むのに」

 「ふざけやがっ……」

 直家は怒鳴り声を止めた。
 気づいたのだ。異常な魔力量に―――
 ミイラ男―――星もそれに気づいたのか、視線を直家から逸らす。
 その魔力の主はマキビ……だけではない。
 彼の後ろにいる魔王ルーデルも、マキビと同量の魔力を放出されている。

 さらにマキビを押しのけ、ルーデルが直家の前に出る。
 「おっ、おい!」と止める直家を無視して―――

 「客人に命を守られて、何が王か!」

 そう叫んだ。

 「台無しじゃねえぇか」と呟いた直家は、笑みを浮かべていた。
 屈託のない―――狂気の欠片のない笑みを始めて見せた。

 「まさか、王さま自ら前線に飛び出し来るとはね」

 星は言葉とは裏腹に焦りを見せない。

 「今日の目的は果たしたわけですから撤退ですかね」

 そう言うと星の体を黒いミイラ男が持ち上げた。

 「自己紹介ついで、相棒の名前も決めましょうか。……そうですね、天威。この者の名前は天威です」

 それだけ言うと、星と天威は飛び上がった。
 最初に現れた落下とは真逆に、天へ向かって上昇していった。

 「アイツら、何しに来やがった」

 直家は悪態をつきながら、腰を地べたに落とした。

 星と天威の2人組。神から先兵と名乗った2人が何をしに来たのか?
 それが、わかったのは暫く後だった。

 外へ続く扉。
 そこを開くと地獄が広がっていた。

 ―――戦慄―――

 その二言しか感情を言い表せない。
 なんてことは2人は誘導だったのだ。囮であり、本命こそがグルカだった。
 外の様子は破壊の限りが尽くされていた。

 直家とマキビはルーデルの様子を窺う。
 彼は―――彼の目と口からは赤い液体が落ちていた。

 「宇喜多直家、吉備真備。飲もうぞ」

 不意を付かれ両名ともに

 「ん?」 「え?」

 とこの場にそぐわない声が出た。

 「貴様らの王である曹丕子桓との同盟を謹んで受ける。だから、すぐに合戦の準備を!準備出来次第に エルドレラへ攻め込む!」

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