覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

戦いの傷跡 託す未来

 目が覚める。
 最初に見えたのは迷宮ダンジョンの天井。
 そして、周囲の人。
 彼らは僕の顔をのぞき込んでいた。僕が起きると同時に距離を取る。

 小柄で魔導士的な服を着ている人。
 確か、彼が最後に魔術的な結界を作って、僕の動きを束縛した人だ。
 たぶん、魔法使いとか、魔術師とか、そういう人なのだろう。
 まだ、幼く若そうに見える。たぶん、少年と呼んだ方が正しい年齢。

 もう1人は聖職者。
 一度、会った事があった。……確か、以前に彼に襲われた記憶がある。 
 奇怪な魔物を操っていた、奇怪な人物だ。
 黒い服。髪の毛はない。
 つい、先ほども彼に殴られた気がする。

 そして最後の人物は……
 彼だ。さっきまで戦っていた人物。
 槍のような武器を手に、自分に挑んできた人物。 
 彼は、今も警戒を解かず、武器を自分に向けている。

 いや……まて……

 自分?自分は戦っていたのか?
 ……本当に?

 「貴方、名前は何と申される?」

 そう声をかけたのは小柄な少年だった。

 「名前?名前は……」

 おかしい。まるで頭に霧がかかったみたいにハッキリとしない。
 自分の名前のはずが、うまく言えない。

 「僕の名前は……アステリオス……いや違う!」

 気がつくと僕は叫んでいた。叫んで、自分の名前は否定した。

 「僕……いいや、僕たちはミノタウロスです」




 それから、少しだけ大変だった。
 僕と関羽さんの戦いの余波は迷宮ダンジョンに甚大な被害を与えたみたいだった。
 あの僕の攻撃……迷宮ダンジョンを物理的に揺るがした攻撃は、迷宮ダンジョンの地形を変えてしまったのだ。
 本来、通り抜けられたはずの通路が崩れて、行き止まりになっていたり……
 行き止まりだったはずの壁が崩れ、新たな通り道が生まれたり……
 ただのオブジェクトと思っていた銅像から隠し通路や隠し部屋が発見されたり……
 そんな、生まれ変わった迷宮ダンジョンから地上へ帰還するのは、並々ならぬ労力が必要だった。
 もちろん、震源地である20層より、上へ上へ進むにつれて被害状況は軽度へ変わっていったのだが……
 おそらく、僕たちがいた20層は、暫く立ち入り区画とされるだろう。
 いや、ひょっとした……。
 僕は想像する。100年後か、あるいは200年後。
 この迷宮が30層だった事など忘れ去られた時代。
 ある冒険者が発見するのだ。未踏とされていた地下に続く道を……
 未来の冒険者たちは、どう想像するだろうか?

 冒険者たちからお礼の品が飾られた僕の部屋。
 僕たちの戦いが刻まれ、破壊痕が残っているあの場所。

 そこにたどり着いた者は、間違いなく冒険者として誇られる事なのだろう。

 僕はそんな想像をしてみた。

  

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