覇王の息子 異世界を馳せる
曹丕と関羽、異文化に触れる
「ご老人、貴方と会話を行うと頭に直接、言葉が響くようだが、これは仙術によるものであるか?」
『その通りでございます。最も、この世界では仙術ではなく魔法と読んでおります』
老人の説明によると、長い修行によって身につける秘術であるらしい。
だが、2人には、説明を聞けば聞くほど、魔法と仙術の区別がつかず、呼び名が違うだけで要は同じものだと結論づけてしまった。
「して、その魔法とやらは、私にも身につけれる物であるか?」
『長い修行をこなせれれば、誰にでも』
「ならば、ご老人。私にも、魔法とやらのご鞭撻を頼んでもよろしいでしょか?」
関羽の止める間もなく、曹丕は老人に師事を仰いでしまっていた。
しかし、老人の答えは
『いやいや、私は所詮、片田舎の老魔法使い。都に行けば、指導に優れた魔法使いなどいくらでもおりますゆえ』
「なんと・・・・・・」
曹丕は絶句した。創作上の存在と思われていた仙人。
大都市たる許都でも出会った事のない仙人が、別の地にはいくらでもいるという。
さきほど、いくらかの仙術を老人から見せてもらっていた。
どれも、興味深き秘術であり、驚きの連続であった。
これら仙術を簡易化させ、戦に用いれば、戦そのものを根本から覆しかねない物になる。
そういう思惑も曹丕にはあったのだ。
『それにご両人は異世界からの《渡人》。都にて戸籍登録すれば、しばらくの生活費は賄えますゆえ』
「異世界からの《渡人》?なんだそれは?」
『異世界とは、この世界とは別の世界の事であり、ご両人はそこからこちら側にやってきた者ということですよ』
「????」
2人は、老人の話がよく理解できなかった。
『何、異世界を渡って来れるのは剛の者である証と言われております。ご両人も、すぐに理解できますよ』
「そ、そうであるか・・・・・・」
曹丕には釈然とせず、なにやら誤魔化せれた感すら受けていたが、ご老人の話を聞き漏らしていけないと、頭を振り払った。
老人の話では、自分達のように文化の違う場所からやってきた者が多く存在していて、そう言った者達を《渡人》と呼ぶらしい。
《渡人》は、何らかの才能に優れた者が多いために、都で戸籍を登録すれば、生活に必要な最低限の金銭を工面してもらえるという。
才能がある者は、本人の意思とは無関係に、国に有益を与える。つまり、この国では才能を認められるだけで金銭が支払われる仕組みができているということなのだろう。
そして、この村も国に《渡人》が現れた事を申告すれば、国から支援金なるものが与えられる。この宴は、その祝いも兼ねているそうだ。
だからこそ、《渡人》の受け入れ体勢は万全に取られていて、どこの村でも言語を司る魔法とやらの使い手が存在している。目の前の老人も、その中の一人であった。
多少なりに疑問も残る話であったが、曹丕は時折「なるほど」と思わず唸る事が多々ある話であった。
曹丕と老人の会話が途切れると、次に関羽が老人へと質問をした。
「所で、この村にたどり着くまでに奇っ怪な生物に襲われたのですが、心当たりはありますかな?」
『もしや、それは、緑色の皮膚を持った巨体の生物でございましたかな?』
「やはり、ご存知であったか」
関羽の質問に老人は心底驚いたように見えた。
『それはオークと言うモンスターでございます。遭遇して、よくご無事で』
「おうく?もんすた? そういう名前なのですかな?」
『その通りで。あれは人を襲う怪物なのでございます。もしや、御仁は討ち取ったのございまするか?』
「ええ、見知らぬ怪物に囲まれて、つい無益な殺生を犯してしまいました」
曹丕と違い、関羽は放浪の旅の経験が多い。
その経験上、異民族との交流は、文化の違いから意図せぬ争いに発展する事がある。
そのために慎重に言葉を選んだのだが、老人の反応は
『なんという!やはり、《渡人》は剛の者でありますな!』
と絶賛するものであり、関羽は安堵の表情を浮かべた。
『この世界にはモンスターと呼ばれる怪物がいます。並の者なら太刀打ちできぬ、強靭な肉体や特殊な魔法を身につけたものも多く、懸賞金を付けられたモンスターもいれば、亡骸を高額で取引されるものもおります』
「それを知っていたら、亡骸を持ち帰っておりましたな。残念残念」
と言葉では言いながらも残念そうな表情をしておらず、むしろ楽しそうであった。
何度か、山に出現する山賊を退治して、麓の村人から報酬をいただいて生活をしていた経験を思い出してたのである。
この時、関羽が思っていた事は『なんだ。山賊を退治するも、怪物を退治するも同じ事ではないか』と口に出していれば、村人全員が驚愕するような考えであった。
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