覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

曹丕の未来

 関羽にとってマキビの話は衝撃的であった。
 500年後の世界。マキビ…… いや、吉備真備という人物は自分達の世界から500年後の世界に住んでいたという。
 実感がわかない。話の半分も理解できない。
 一体、これは何が起こったと言うのだろうか?
 彼の話では、漢の国が3つに分かれると言う。
 魏、蜀、呉。
 天子を差し置いて曹操殿が王を名乗り、魏王となる?
 劉備が蜀を乗っ取り、漢中王を名乗る?
 馬鹿な。天下三分の計だと―――
 これを考えたのが諸葛亮孔明・・・・・・。

 話を聞いた関羽から殺意がもれた。周囲の誰も気づかない微々たる殺意。
 曹操の将として、曹丕と共にいる事を誓った関羽。
 劉備や張飛と共に義兄弟の契を交わした関羽。
 武神として讃えられた関羽。鬼神として恐れられた関羽。
 マキビの話を聞き、鬼神としての関羽が顔を出したのだ。 
 諸葛亮孔明、生かしておくわけにはいかない。
 劉邦の末裔を名乗る劉備が漢中で自らを王を名乗る。
 これがどういう意味であるか?
 明確な天子の否定である。
 これは劉備であって劉備ではない存在になってしまう。
 なんとしてでも、お止めせねばなるまい。
 そのためには、諸葛亮孔明。殺すしかあるまい。
 だが、関羽の心情を無視してマキビの話は続く。
 関羽の殺意。決心すら飛び消してしまうほど、とんでもない方向へ。

 「そして、曹操亡き後に魏の初代皇帝となる曹丕ですが、風邪をこじらせて死亡。この後は司馬一族の傀儡政治が続き、司馬懿の孫である司馬炎によって魏は滅亡。晋の誕生となります」
 「・・・・・・」「・・・・・・」
 「おや?ご両人、どうかなされましたか?」

 マキビは怪訝そうな顔をする。
 そもそも、本人達を前にして彼らの運命を語る自体、普通の人間なら躊躇する行為だ。
 それを「どうかなされましたか?」もなにもないのだが・・・・・・。
 最もマキビにとっては、目の前の人物が関羽だとわかっているが、馬車の後ろに座っている少年が曹丕だとは知らない。だからこそ、曹丕の生涯を簡単に述べてしまった。
 いとも簡単にあっさりと・・・・・・。
 関羽は、恐ろ恐ろと曹丕の様子を伺う。
 風邪をこじらせて死んでしまうと断言された少年はと言うと―――
 意外と普段通りの表情であった。
 普段通りの表情でぼそりと呟く。

 「風邪には気をつけなければなるまい・・・・・・。後、司馬懿は殺す。絶対に殺す」

 

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