覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

老人、名乗り上げる

 「国を治める者が死ねば、国が乱れる。天下人が死に、国が2つに分かれ戦争が行われたそうだ。
 そこで俺の息子は最大の兵力を率いて戦いに挑むらしい。 
 この世界でも情報が調べれるらしい。俺は資料という資料を読み漁った。
 互いの陣営、兵力、地形まで、どう考えても負ける戦争ではない。
 だが、負けた。裏切りが起こったらしい」

 老人は視線を上へと動かす。あるのは馬車の天井。
 しかし、老人の目には何が映っているのだろうか?
 「業なのかもしれないな」そう老人はつぶやいた。
 「業ですか?」と曹丕が聞き返す。
 「あぁ、業だ。裏切られ、裏切り、そして、裏切られ・・・・・・
 そうやって死んでいった者達の恨みをため込んでいた。
 本来なら、その恨みを一身に受けて俺が死ねばよかったのだろうが、今もまだ生きながらえてしまっている」
 「ならば、ご老人」と曹丕。
 「元の世界に戻りたいですか?戻り、ご子息を救いたい。そうでございますかな?」
 「いや」と老人は首を振り否定する。
 「どうせ、戻るなら息子のためではなく、自分のために暴れ回るわ」

 老人と曹丕。
 二人は声を出して笑いあった。
 「未来やら過去やら、わかりませんが、我らがこの世界に来れた以上、帰れぬ道理もないでしょう。
 我ら、元の世界に帰るために、その力を貸してはくれませんか?」
 「うむ」と考え込むように一言発し、老人は曹丕の目を見つめる。
 「未来、いや、歴史と言う巨大な流れすら自分に関係ない。そう理解したうえで言っているのだな」

  曹丕は肯定の返事をする。

 「ならば、よかろう。だが―――俺は裏切るぞ?」
 「いいえ。貴方は裏切りません。
 なぜなら、私はあなたが、初めから裏切るという事を知っているからです。
 それは裏切りとは言いません」
 「ほう、この俺が裏切れぬと言うか。そんな面白い事を言ったのはお主が初めてだ。よかろう。元の世へ帰るまで世話になるぞ」
 「ありがとうございます。ご老人」
 そう礼を述べる曹丕に老人は笑みを浮かべ
 「そのご老人はやめてくれ。せっかく、マキビの秘術で若い風貌を取り戻しているのだ。
 そう言われると若いと言う気持ちは萎えてしまうわ」
 「なるほど。そういうものでございますか。では、なんと御呼びすれば宜しいので?」

 「宇喜多だ。俺の名前は宇喜多直家だ。そう呼べ」

 
 

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