覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

曹丕、戻り、煽る

 足早に外に出ていく曹丕さんと関羽さん。
 わたしは走って追いつきます。途切れ途切れになった呼吸を整える余裕もなく、私は聞きました。

 「どうして?どうして、この村を救ってあげないのですか?」

 わたしの言葉に、少しの間が空きます。そうして、返ってきた答えは―――

 「この世界では、それが当たり前になっているのでしょうか?」

 どこか訝しがるような表情で彼はいいました。

 「この世界で《渡人》と言われる存在は優遇させています。ならば、これが見返りなのでしょうか?」
 「見返り・・・・・ですか?」

 わたしは、彼の言葉を頭の中で反復させます。
 わたしたちは幼い頃から《渡人》は、そういう存在だと教育されてきました。
 困ったときにわたしたちを助けてくれる存在が《渡人》であり、そのために彼らを敬わなければならない。それが当たり前なのです。
 けれども、《渡人》である曹丕さん自身の考えは、わたしたちの認識とズレがあるようです。
 そう考えていました。曹丕さんがわたしの顔をずっと眺めているに気がつきます。

 『ならば、これば見返りなのでしょうか?』

 その返答を曹丕さんは待っていたのです。
 わたしは浮かんだ考えを何とか言葉にしようとします。ですが、中々うまくいきません。
 それでも、何とか表現しようとする私の言葉を曹丕さんは遮り―――

 「あなた方、この世界の人たちは、私達を《渡人》と呼び、不死身の英雄か、何かのように持て囃しています。でも―――
 私達も死ぬのですよ?普通に死にます。武を知らぬ山賊相手だろうが、一太刀浴びれば、それでお終いなのです。それは、あなた方も同じはずでしょ?それなのに《渡人》だから、平気に違いないと危険な役割を押し付けられても、困りますよ。」

 嗚呼、それは当たり前の事です。当たり前のはずです。
 けれども、期待していなかったといえば嘘になります。
 きっと《渡人》はわたしたちと違う存在なのだと、どこかで・・・・・・

 「だから、みんなでやりましょう」
 「え?」
 一体、何を『みんなでやりましょう』なのか?
 意味がわかりません。
 聞き返そうかと思っても曹丕さんは関羽さんを引き連れて、来た道を帰っていきます。
 先ほどの村人達が集っていた部屋に向かって、軽い足取りで戻っていきます。
 そして、そのまま、勢いよく襖を左右に開きました。
 曹丕さんの体の隙間から、村人たちの様子が見えます。
 山賊退治を断られて意気消沈した表情が一瞬見え、次に勢いよく襖を開けられた事に気がつき、驚きの表情。
 そうして、襖を開いた人物が曹丕さんだと気がついて、喜びの表情と変化しました。
 きっと、心変わりをして助けてくれんだと。山賊から村を救ってくれるんだと。
 そういう表情でした。
 でも、曹丕さんの次に言葉で村人の表情は凍り付きました。

 「私ではなく、皆様方が山賊と戦ってください。それならば、私はご尽力をさせていただきましょう」


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