覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

山賊の正体

 「一体、どういう事でしょうか?」
 曹丕は呟く。
 場所は村長が用意した客室の一角。
 ここで曹丕たちは、寝泊りをしている。
 今、女性であるシンを除いた全員が、この部屋にいる。
 そして、誰一人として曹丕の呟きに答えない―――否。
 答えられずにいた。
 この世界は、魔法という技術がある。
 その独特の技術によって、わかりずらく、そして忘れがちになってしまのだが、
 この世界は、曹丕たちがいた元の世界より、遥かに高い水準の生活基準を保っているのだ。
 現に、この世界の住民であるシンは、山賊が出没する事が信じられないという様子であった。
 この世は太平。高い技術水準に支えられる平和な世の中。
 そして、何より

 なぜ、村人たちは自分たちが山賊に襲われると知っているのか?

 山賊側から、予告でもあったとでも言うのか?
 村を襲った山賊が「また来る」とでも言い残したのか?

 曹丕が村人に聞いた話では、信じられぬ事にそれだった。
 曹丕たちが、この村にたどり着くより、約1ヶ月前。
 この村は山賊を名乗る集団に襲われた。
 しかし、奇妙にも、その集団は村の物を根こそぎ奪うわけでもなく、女を連れ去るでもなく、暴れるだけ暴れて、帰っていったという。
 ただ、一言だけ
 『次は《渡人》が来る頃にやってくる』と残して

 「おそらくは、この村自体が我らに対する罠になっているのでしょう」と関羽。
 その言葉に、全員が無言の同意を示した。


 村から離れた距離。草木に混じって男が潜んでいた。
 その男は奇妙な服装だった。
 草色の服なのだが、まるでマダラ模様のように色の濃さが違う。
 しかし、それが草木と一体化し男の姿を隠している。
 背中には、短刀を納めている。しかし、その短刀も奇妙だ。
 なぜだかわからないが「く」の字のように曲がっている。
 彼の腰に下げられている皮の小物入れ。その隙間から、黒光りする金属の塊が見え隠れする。
 この世界の基準で奇妙としか言いようがない。
 しかし、彼は《渡人》ではない。この世界の住民である。
 ただ、彼の祖父が《渡人》であり、彼の一族は祖父の知識、技術を受け継いでいた。
 彼の衣服は、迷彩服と言われる物であり、彼が背中に帯刀しているものはククリナイフと言われている。
 そして、腰のホルダーに収納されている金属の正体は・・・・・・。

 彼の職業は傭兵。
 彼がここにいる理由は雇われたからであり、その依頼内容は《渡人》の見極め。
 役に立ちそうなら依頼主の元に連れて行く、そうでないのなら始末する。
 そのために彼は、道化じみた山賊の真似事をして、この場で《渡人》の足止めを行っていた。
 そして、そろそろ―――

 「各人に入電、作戦を開始する」

 男が、そう呟くと、一斉に返事の声が上がる。
 男と同じ格好の者が10人前後。闇の中から姿を浮かばせ、次の瞬間には気配ごと姿が消え去った。

「異なる世界の戦士よ。我らの名を刻め
 我らは誇り高き戦闘民族―――



 『グルカ』



コメント

コメントを書く

「歴史」の人気作品

書籍化作品