覇王の息子 異世界を馳せる

チョーカー

ドラゴンはどこにいるのか?

 ドラゴンはどこにいるのか?

 ダンジョンの奥深く。
 隠された金銀財宝を守護するように人間の侵入を硬く拒んでいる。

 なるほど、あり得る。 

 いやいや、ドラゴンと言う生物は人間を超えた英知を持っている。
 かつて、単独で攻め落とした城を住処にしている。まるで人間の王のように人々を金で雇い、人間の豪華な生活を真似をする。そういう遊びを行う生物なのだ。

 これもあり得そうだ。

 ドラゴンとは、1匹で小国と同じ戦力を持っている。
 そこにいるという事は独立した国が存在していると同じ事なのだ。

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 おそらく、ドラゴンは人間が考える枠に囚われないと言いたいのだろう。
 最も、ドラゴンの強さは個体によって強弱が大きい。
 実際に国家規模の戦闘力を有したドラゴンは世界で数匹しか確認されていない。

 では、曹丕たちが退治に向かったドラゴンはどこにいるのか?

 当然、退治してほしいと思っている人間が存在している。
 だから、依頼が成立するのだ。
 ドラゴンは強靭な肉体を、そして強力な魔力を保有している。
 その鱗は鉄を超える硬度。その爪はあらゆる金属を切断する切れ味。
 体の隅々まで魔力が通った内部には、貴重な薬や食材。さらには魔術的な儀式にも使われる。
 もしも、ドラゴンを倒し、その亡骸を売り払えば、生涯遊び暮らせるほどの財産ができる。
 しかし、富を得るために他人に依頼する人間は……意外と多くない。
 いや、皆無とすら言って言いだろう。
 ドラゴンを倒せるほどの強者なら、わざわざ依頼を受けるまでもなく、自らドラゴンと戦い、自ら換金するのが当たり前だ。他人の金儲けのためにドラゴンを倒す人間なんていない。
 余程、特殊な事情がない限りは……
 では、曹丕たちが目指す『ドラゴン退治』の依頼は、特殊な事情に当てはまるのか?
 特殊な事情と言えば特殊ではある。 
 上記の理由から、『ドラゴン退治』は金儲け目的の依頼ではない。
 (依頼の詳細には、倒したドラゴンの遺体は持ち帰ってもいいと書かれている)

 つまり―——
 『ドラゴン退治募集』の依頼を出した人間は、直接的な害をドラゴンによって負わされている者になる。
 くどくどと説明をしてみたが、実際に目撃すれば単純な話である。

 ドラゴンの居場所―——少なくとも、退治してほしいと依頼があったドラゴンは、そこにいた。

 公道。

 町から町へと繋ぐ、巨大な道。そのど真ん中にドラゴンは眠りについていた。


 ドラゴンは、この場所が気に入っているのだろうか?
 1日の大半を、この場所で寝て過ごすらしい。
 ドラゴンの知能は、人間よりも高いと言われている。
 その根拠は―——
 人間はもちろん、数多くの生物を意志の疎通が可能だという事。
 高名な魔術師が使う強烈な魔法をドラゴンが使用したという目撃談。
 さらには、ドラゴンが人間の子供を育てたという、信じられないような話が伝承として残っている。
 つまり―——(ドラゴンが人間より高い知能を有している説が事実ならば)この場所に居座り続けるドラゴンにも、自分が人間の邪魔を行っていると理解しているはずだ。
 それなのに、この場所に留まる理由は何か?

 人間がドラゴンの考えなど理解できるはずがないが―——
 それでも、人間の言葉、概念に無理やり、照らし合わせてみると―——

 ただの意地悪である。

 人々の交通の便を妨げる理由は、人々が困っている姿が面白いから。
 そんな、とんでもない理由である。
 とんでもない理由であるが、ドラゴンと呼ばれる生物はそういう事を平然と行う。
 悪戯気分で、大損害を与える。
 人間を遥かに超える寿命と英知を備わった生物は、人間の言葉を理解する事は出来ても、人間の気持ちは理解できない。
 そういう生物なのだ。 
 

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